作品

太平洋戦争なんて知らないよ!

劇団駒場 第24回公演
1967.11.22〜27 at 六本木自由劇場


自由劇場での公演(昭和42年11月)


そのけいこ風景
そのけいこ風景

★近況

四月二六日から東大前のシャンソン喫茶ZiZiで『僕のモナリザまぬけ大通り』 九〇分ビート劇を演じる予定。去年大反響を呼んだ『太平洋戦争なんて知らないよ!』(編注:今作)の作・演出をした芥正彦の第二作目である。ここにかかげた写真はいずれも『太平洋……!』 のときのものである。

★集合論

はっきり言おう。僕たちはサークルを作っているのではない。個々が個々のレトルトをもって自立し、方向と何らかの力をたづさえて劇駒という一つの「父」なるものの体系下に参加する。いっさいの女々しさは遮断され、いっさいの非生産的な低次スカラー(サークルサロン調)は抹消され、文化と政治の総合などというハレンチなオプティミズムはこれも又うけつけない。あくまでも、「個」としての集合、しかも、有限であることを認識して、そこから無限集合としての「類」へ何らかの空間ベクトルをつきさそうというところである。

★戦後二〇年の青春

僕たちは若い。まだ二〇才そこそこの若ぞうだ。灰色の知識に追われて“青春”というこの自我形成期をいたずらに、あるものとすりかえてしまうことを強いる状況の中で、「男根」を持って僕たちのあとから来るものへ、その道標たらんとしようではないか。若さとは少なくとも妥協を憎む精神であったはずだ。青春とはその内部に一つのニヒルと建設を合わせもつエネルギーであるはずだ。劇駒はそこでこのエネルギーのある者だけを求めることにしている。自らの青春を自ら使うことのできるやつを求める。

★演劇の指向

人間は空間的な存在である。我々はここに出発する。演劇空間は人間が人間のタブーとー敢させる触覚的な空間である。空間を維持するのは何か? ───『幻想』 である。大いなる『幻想』である。

戯曲“若者は踊っているか”を演じるときの注意事項

一、方法論としての前衛への試み


すでにマクルーハンなどの指摘している“現代人”感覚をまず理解しなければならない(役者は必読)。
触覚的かつ分裂的な感覚に加えて、自己中心的心情の持主を相手に演じる場合、従来の演劇方法(十九世紀マラルメに発する)ではだめなのである。なぜか?
それは今までの映画・演劇がホットメディアであったからである。そこで今回いわゆる電話・テレビに代表されるクールメディア的方法を用いることにした。この意味に於いてもこの戯曲は予感の演劇でもあるし、活字戯曲からの脱出でもある。活字的人間が主流をなしていた時代、グーテンベルグからはじまり、テレビが出現するまでの間と、テレビ・写真が生活の内部に入り込んだ今日、空間演劇も必然的に変化しなくてはならない。(ただしこの言葉は一つの時代の象徴としての使用で、この表面的な意味で理解すべきではない。
ではどうすればよいのか?
まず①「文学を骨組みにしての空間装飾の拒否」と、今まで“映画”だけの武器とされてきた②「モンタージュの手法の導入」と③「“場”と“カット”」それを利用してのシュールレアリズム的空間の持続 C(C:○)(いわゆる「残酷劇」)である。
④イディオム空間の試み。 A(A:○)映像芸術ではすでにベルイマン、フェリーニ、日本では大島渚が用いている。最近では自由劇場の“私のビートルズ”にそのきざしが見えた。
④に関しては、今村昌平の「人間蒸発」と大島渚の「日本春歌考」を比較せよ。これを見てはっきり相違のわからない者はこの公演に参加する資格は皆無である。
我々はこれら①〜④の映画作品までを駆使して従来の“活字世界”での空間から真の劇空間を生み出さなくてはならない。具体的には空間を三つに分けてこの戯曲は演じられる。

①アポロ的指向→(A)舞台(客席中の小舞台を中心として演じられる)
②  ①のアンチ的な指向→(C)舞台(正面舞台を中心として通路などあらゆる所をつかう)
③ディオニソス的指向の語り→(B)(ホール後方の天井の方から聞こえてくる。)
だから演出にたずさわる者は、これら①・②・③のモンタージュにかなりの注意を払わなければならない。これらはそれぞれ表面的なつながりを一切排除してこそこれら三つの指向は逆にそれぞれ関連をもちうるし、個々の存在も確固とすることを銘記すべきである。

又、この戯曲では「装置」として「流行歌」を使うのが上演しやすい。( 「視覚的装置」と「感覚的装置」の試みも今回上演の課題である)
結局、ディオニソス的なものをアポロ的手段において使用するのである。だから装置の本質としては何ら変りえないのである。

舞台

舞台について

今まで演劇といえば舞台は一つであった(日本の能舞台、あるいは花道などは暗にもう一つの舞台が示されているが)
しかし今日、私の考えるところによると、どうしてもそれでは足りないのである。だからといって通路まで降りるということも“すけべ根生”である。そこで客席後方に小舞台を設けることにしたのである。
ではこの小舞台(A)と正面舞台(C)を結ぶものは何か?
通路であろうか、確か物理的には一見つながっているが決して通路ではない。これは両者を共に客観的位置とする語り(B)なのである。通路は観客の意識が小舞台(A)に集中した時にAとなり、正面舞台(C)に集中した時にCとなるのであり、どちらかといえばむしろCの一部であるとした方が妥当である。

音楽について

現象的には“ハプニングビート”となるのであろうがこれはむしろ宣伝用の言葉であり、シュールレアリズム空間の創造なのである。この俳優は北園克衛などの詩や、古くはシャガールの絵からポップアートなどを肌で理解しなければいけない。又、その根本リズムとしては前衛ジャズ的なものとなる。
シュールなどの理論はフロイトから来ているのであるが、結局詩の分野では失敗に終っている。絵画では成功である。映像でもそうである。
劇空間ではまだ試みられていない。これから我々が試みようとする訳であるが、これから五年も経つとシュール劇空間がある程度位置確保するまでになるであろう。この意味において我々は予感の演劇を演じる者となり、又その誇りを持って欲しい。


二、イディオムとしての言葉の解説

☆パフーン
これはいわゆるギャグに当たるものであり、精神的空間から発せられるものであり、多様ないい回しを研究すること。

☆私生児
これは生活的なものでなく、精神的な意味に於いてであることはお解りと思う。江藤淳の母の崩壊と、天皇の変り身の早かったことを思い起こせ。状況演劇などの“大いなる母胎への回帰”がなぜ、現在我らに郷愁を喚起するのか(スモッグからの郷愁)。
なぜ今のマイホームママン達は教育怪獣やセックス怪獣となってしまったのか。ある日突然にママンをぶんなぐり出すマザーコンちゃん達をどう考えるか、各自考えよ。

“母”なる者の死→産業の発達
“父”なる者の死→日本ではあの敗戦とマルクス的なもの

結局、ベルトコンベアーに“母”をのみ込まれ戦争で父を失なったこと。

☆フーテン
これは必ずしもグリンハウスの人々ではない。一つの歴史的な現象として捉える。
すなわち精神放浪である。空体を空体としてさらけ出すこと。私生児の属性としての放浪。
信じるものがなかったら何も信じないで生きる──フーテン──こそが必要である。少なくとも変な理論などふり回さないだけ、人生に対して真撃な態度で、向かっているではないか。

☆なぜ、玉音放送がフーテンをしなさいという意味をもつのか。
天皇制という一つの日本の神(スキタイ民族日本征服説もふくめて)とその共同幻想の崩壊を告げた放送である。精神主柱を失った訳である。すくなくもそれは精神の空体を空体として生きて行く勇気を持てということであったはずだ。即ちここでフーテンにつながる。
だから日本国憲法というのは、あの通り透明でコスモポリタン的なのである。
その他私に直接問われたい。


三、私とこの脚本との問題

何しろアルルカン詩的孤独時代から訣別したかったということ。
自己の心情ロマンチシズムから脱皮したいということ。これがまず第一の動機。
これについてはまるでバラバラであるだろうが、それについてはかなり意識しており、すべて“私”というレトルトの中でしっかり結合しているものであるから俳優諸君は安心していて結構です。
第二に、今日の演劇界の精神的な怠惰にかなりあいそがつきたということ。
すなわち空間の必然性のいちぢるしい欠除と、文学的戯曲偏重。
西欧借着劇
サルトルの悪影響
新劇というとりすました態度
千田是也の阿呆(舞台で赤旗ふって喜んでいる)
ドラマトゥルギーに先行するものとしての“詩”の欠如、何かその萎縮した演技、自分の肉声でかたらない。
何としても純粋に空間芸術としての接しようとする態度がないのである。
劇空間をある思想の宣伝に使ったり、劇空間の進歩などちっとも考えずに手前の金もうけに使ったり
etc……

こう考える私達“アマチュア”劇団としての駒劇の任務も重要である。

第三、歴史と現状況、“外”に対する“内”としての日本状況と自分と
日常性と非日常性と
自己の内部での矛盾が
自問自答としてかなり出てきているということ。
又これは私一人だけの問題では決してあるまいと思うし、「現代」というものへのアタックを何ものかに強いられたのは私だけではないと思う。

四、大岡信作“運河”三〇分放送音楽詩

今作はこの放送詩の空間からも発されている。
一度この詩を上演してみたいと思っていたのである。はっきり心情と訣別できたときに。


“太平洋戦争なんて知らないよ! ──若者は踊っているか”

スタッフ

脚本
演出 芥正彦
制作 藤森黎子
舞監 岡里成美
照明
衣装
美術
音楽 立石正道

キャスト

語り 立石正道


フーテン達 岡里成美 他

けいこ開始 10月7日(土)
リハーサル11月11 or 12日 駒場祭○○○番教室
本公演ホール

本編───


音楽入る

(C)数人たむろ 廃嘘の様
スクリーンにある女性の自殺記事が写される

(B)はじめに何があったか

はじめに
はじめに小さな推進力とあたり一面に震えている星くずがあった。
力はよろめきながらとなりの星に手をかけ立ち直りながら星を彼方に転がした

(A)女 だめなのね。やっぱりだめなのね

男 何をいうのさ。君はここから出るんだ

女 出ることはできないの。あたしには分っているの

男 何も分っちゃいないんだよ。君はまちがってこんなところに落ちたんだ

女 いいえ、まちがってなんかいないの。まちがってなんかいないの。まちがってなんか……


この連中が急にどなり出す


(C)昭和二十年八月、おれ達生まれる!
太平洋戦争終わる!
ベルトコンベアー走る。今!
太平洋戦争!パフーン
ベルトコンベアー! 
太平洋戦争!ばふーん
ベルトコンベアー! パフン
太平洋戦争とベルトコンベアの私生児!
私生児!
私生児!

だからオレ達には親父はいねえ
おめえ達にも親父はいねえ
私達にも母親はいない。
だからあんた達にも母親はいない
戦争とベルトコンベアの私生児

母親はいねえ
父親がいない
母親はいねえ
父親がいない
何しろオレ達が穴から出てきた時には死んでたんだ
死んでたんだ父親は

安保のデモが終ったときには死んでたんだ
死んでたんだ
死んでたんだ母親は!

ダイコンモナイ!ニンジンモナイ!
ダイコンモナイ! ニンジンモナイ!
ダイコンモナイ! ニンジンモナイ!
ダイコンモナイ! ニンジンモナイ!

私生児!! 戦争とベルトコンベアの私生児!!
生命の穴から自力ではい出た私生児!
血の雨を浴びて 血の雨を浴びてだ!


(A)運河の水は澄んでいたが暗かった。
もやが水面を覆っているのがことさら寒げに見えた。彼女はたしかに溺れ死んだはずなのに大きな深いまなざしでじっと私をみつめた。手をさしのべると彼女の長いツメがぼくの腕にしっかり食い込んだ。冷たいよその世界のツララのような指だ。だが何という重さだろう。ぼくは必死に引き上げた。
遠い空で不吉な滑車がきしむような音がしていた。赤ん坊達がときの声をあげながら なにかと戦っている姿がぼくの脳裡をかすめた


はじめに何があったか


(B)はじめに

はじめに一切の欲望がゼリーのように死の種子を包んで震えていた


欲望は心の成層圏を蛇行し除草器の前で美しい花に口づけした


(C)アメリカ女はアメリカ女のように東京を歩く
パフーン(女)
そこでおれ達はどうするか
そこでおれ達はアメリカ女を強姦する!
パフーン(女)

それ
ミニミニスカート引きずりおろす!
パンティ破く!ブラジャー投げる!

かつて日本はそこ意地悪く執効なまでに朝鮮人をしいたげた。
玉音放送と共に消えた我らが父親たちである

しかし強姦することはどうしても出来ない
とうとうしめ殺してしまう。
♂は集団でうなだれたポーズ

その時彼ら父親はアメリカ娘のスカートさえも引きずりおろすことは出来なかった。
強姦したくともできなかった。できなかった。できなかった。できなかった。できなかった……できないッ!

リフレイン


蝿はハエのように飛ぶしかない
ハエはハエのように死ぬしかない
(だから)ハエはハエのように飛ぶ
ハエはハエにように死ぬ
……
……


この場では男と女は互いに独白

(A)男 ぼくがどうしてこんなに濡れているか話してあげよう

女 赤ん坊がやってくるの。いくつもいくつも赤ん坊がやってくる。
ああ、あんなに泣いて……たまらないわ私

男 明け方、ぼくは彼女のいないのに気づいた。通りは静まりかえっていて青く冷い光が歩道にはねかえっているばかりだった。窓をあけて耳を澄ますと遠くの方でいくつもの大八車のきしむような音が響いてきた

女 赤ん坊をのせて大八車はやってくるの。
いつも明け方やってくるの。
だけど街の周囲にいくつもの穴がぽっかり口をあけて待っているわ

男 カラカラと妙に澄んだ音をたてて何台もの大八車がこの町に向ってやってくるようだった。
ぼくはその不思議な物音の中に鈍い声を聞き分けた。それはかすかな、しかしまごうことない泣き声だった。赤ん坊の泣き声だった。大八車が泣いている赤ん坊を運んでくるのだ

女 車は次々と近づいてきてはその底なしの穴へ落ちていって一台も通りには姿を見せようとしないの。

男 カラカラと、たしかに音はしだいに近づくように思えるのに、赤ん坊の泣き声がひときわ長く尾を引いてひびいたと思うと、そのままぷっつりときれてしまうのだ。
ああっ、
彼女はあの泣き声に誘い出されたにちがいない

(B)はじめに何があったか

はじめに

はじめに

地球は小さな星でプランクトンを泳がせながらよろめいた。
神々は口に悪夢のひげをはやし、呪文をとなえて迷信のたねをまいた。

(A)私は夢中で通りに飛び出していった。


三月のはじめで陽はまだのぼらず暗い歩道は凍てついていた。
建設中のビルの前ではセメント袋や汚れたシートを積み重ねた道路ばたで、夜明かしの労務者たちが石油の空きカンに棒切れを投げこみながら黙って焚火していた。始発電車が遠くの陸橋を渡りながらかん高い響きをたてていった。
ぼくはコートの衿をたてて河っぷちをさがし歩いた。もやい綱を解いた伝馬船が下ってくるところだ。人々の夢がいちだんと暗いくまどりを滞び、朝の光に向ってあがいているところだ。隅田川の河口では一年中澄むことのない汚れた海に冬の鷗が群をなして浮かんでいる。それらの鷗は私の中にも住んでいて太陽がのぼり始めるとしゃがれた声で泣きはじめる。だが今はまだ人っ子ひとり通らない暗い河沿いの道を私の足だけが目ざめている


悲痛なおももちでどなる


まるで濡れねずみのハムレットだ。

どうしたらいいんだ。ぼくは生きているのか死んでいるのか分らない……


(C)私生児は強いんだぞー!パフーン
私生児は私生児のように生れる 生れる!

私生児はマザーコンプレックス 男!
私生児はファザーコンプレックス 女!
私生児は私生児 男と女!
男 私生児 女 私生児 うわァセックスしてる!
私生児は私生児でセックスだ!
私生児は私生児みてえに妊娠する

私生児は つよい つよい つよォーい!
私生児は親みたいに子供を生むの
生むわ
生むわあ!
(私生児みてえに赤ん坊生まあ!)
修学旅行の汽車のトイレで生むよ
セーラー服のスカートまくって分娩するぞ
パフーン
海辺へ行く私生児ナオン。
おナカの大きい私生児ナオン!
海へ行く海へ行く海行く私生児!

ああー!イモ畑の中へもぐり込む
潮騒聞き聞き穴から出して
へその緒つきです 捨ててくる

胎盤つきです 捨ててくる

ああー! スカッとした
それ身軽になったグリーンハウスに入れ
すでに芝生は刈りとられ
こらこら、処に、あーそんなに入っちゃいかんよ君達
ミスタポリスマンはこわいねえ

そんなことかまうこたあねえ
何しろやつらは親父じゃねえ
母親がくるまでフーテンだ
知らない娘とキス!知らない男の子と踊る!
知らない娘を裸!知らない男の子と寝る
うへっ 知らないうちに妊ちん(傍点:ちん)しやがった
私生児はつよォーい!〔パフン〕


(A)気がつくと運河のほとりに立っていた。
ぼくの目の前暗い流れの中に思ったとおりの彼女がいた。白いガウンが流れの上に広がり大きな蓮の花のようだった

〔録音流れる〕
赤ん坊の泣き声
同時に車のきしむ音
彼女のささやき
どの位長い間ぼくは彼女を引き上げようとしてたのだろう。ぼくはたしかに彼女の腕を引っぱって、肩の上へかつぎ上げていたはずなのに、彼女は相変らず、水の中で、切なげに眼をみひらいてぼくをみつめているのだ。ぼくは見た、彼女のうでが少しづつ伸びてくるのを。その手はぼくに引かれるままに細くなり、言いようもない悲しみをたたえて小刻みに震えていた。ぼくも濡れて震えていた。


(B)はじめに何があったか

はじめに
はじめにひもじい男と
養わねばならぬ裸の女たちがいた。
男は恐竜の骨を掘って
ナイフを削り視線をといだ


(C)一人の男センメン器を黙々とたたきつづける
次のセリフが全く独立にわめきつづけられる
○パフーン
○彼は何をしているか
○イエスッ
○ちがうぞ!
○彼は女のしりをたたいている

革命をしている
テレビをなおしている
コーヒーをのんでいる
etc
しばらくつづく

最後にたたいている男がぷつっとやめて立ち上り
おれはアベルちゃんの頭蓋骨をぶっぱたいてんだよオー!

あーおれ達はみんなカインちゃんじゃないか パフン(軽く)


(A)男 ぼくはまだ彼女のご主人なんかじゃない!
ぼくらはまだ結婚していないんだ。
多分これからもしないだろう。
子供が出来ちまったのはちょっとした失敗だったのだ。
ぼくは彼女が気にいっている。そりゃあざらにはいない娘(ルビ:こ)だ。(男と夜を過すたびにますます生娘らしくなる)それでいてすごく頭の回転が早い。でもぼく達は結婚するつもりはなかった。
むしろ彼女の方が結婚を望まなかったのだ。彼女は腕のいいデザイナーだが、ぼくの方は売れないコピーライター…… ぼくにしても結婚して彼女のお荷物になりたいなどと思わなかった。
こんな話はざらにある話、ちっとも珍しいことじゃあない。
ところが昨日病院のベッドの上で話がおかしくなりはじめたのだ。
彼女が「坊や」とささやいたその瞬間から

(C)ラリパッパ

(B)語り

(A)先のデザイナーとコピーライターの出会い


☆ゴーゴーを踊る者
ディープキスしてる者
絵を描いている者
なにしろ分裂的な末期症状を呈する


☆二人一瞬見つめる 互いにすれちがう
再び見つめ合い近よる。抱き合う
上半身裸がこのましい。(客席通路で行われる)


はじめに何があったか
はじめに
はじめに死のしずくが
潮の路を柔い壷に向って進んでいった。

しずくは泡だち壷をみたし あふれ
壷の唇のように紫にふくれさせた。
知らないうちに二人は唾液になった。
黙ったまま
二人は互いに花をむしって捨てた。
知らないうちに二人は
アメーバを食べた
だまったまま二人は
のどが渇いてべろんべろんになった
知らないうちに二人は
へその緒をかんだ
黙ったまま二人は
二匹のセンメン器だった
知らないうちに二人は
二匹のセンメン器におびえた
黙ったまま二人は
センメン器を水たまりにうかべ遠くへ手を振った


(C)君達は芝居をみている

おめえ達は芝居をみている
あんた達芝居をみているんだわ
あんなの信じて喜んじゃいけねえ
たいだいあんなもの信じるなんてのがいけないのよ!
あなたたちは単純、単純!単純!
あめえたちはバカ 三人そろってみんなバカ ボン!
三人そろってみんなばか!ボン!(そろって速く)
おめえたちゃ手当りしだいに人の言うことにさからう!
君たちの人生はさからって歩くこと!(イヤン←馬鹿にするようにでもいい)
単純そのもの
ハイライトを吸う。
あれはバカのタバコ!
あなたたちはコンプレックスホモサピエンス
オレ達は立つ フーテンタール人
あんた達はコンプレのホモちゃん
開き直る!
おどおどする!
権威にこびる!
権威に弱え!

泣く!わめく!
あんた達の芸術は
ロメオとジュリエット
モーツァルト ベートーベン えへへ……!


教育怪獣ママが恐ろしく

ストリップもみたことない
エロダクションもみたことない
だから
わざわざ軽井沢までいって婦女暴行しなきゃならない。
お坊ちゃまが聞いてあきれる
女が欲しかったら最初から裸で歩く!
男が欲しかったら最初からヌードで歩く!
君たちは幸せになろうなんて思っちゃいけないよ!
そういうことを考えるのはフーテンしてからよ
なれるはずはないんだからね!
おめえらは
自己中心的
皮肉屋
分裂症

コンプレックス
ナルシズム的
小心 ごう慢
エッチ
てめえ達のことをアベルだと考えてりゃせわはない……
だから諸君!
一刻も早く自殺したまえ
自殺することね
今からでも遅くはねえ
ホント 今からでも遅くはないわ えへへー!


(B)女は階段の梯子を、どうやってのぼるというのだろう
男は海のない沖合へ、どうやって船出するというのだろう
それでも人間のふしぎさは、女がいつも梯子をのぼってやってきたし
男はいつも気がつくと、岸のない沖合を女に向って泳いでいたということだ。


男 ぼくの土器の底をかじってはだめ!
ほらキミの歯ぐきからそんなに血がでて

女 でも私ちっとも痛くはないの

男 そう?でもぼくは恐いんだよ。
(男テレビのスイッチを入れる)スゴイボリュームでコマーシャル。
(女きゃーっと叫び声を上げる)

──暗転──

(C)藤沢成光クンよ、メルヘンから訣別しようじゃないか
佐藤信の野郎だって大好きなビートルズ皆殺しにしたぞ

いい年をして
いつまでも気球気球とさわぎなさんな
恋人は恋人のように歩く、気球は気球のように飛ぶ
それだけのこったあ!パフーン
(会話)何しろオレ達みんな私生児なんだからさあ!
立石正道クンよ!
オレ達は若いんじゃなかったかい?ラリッテわめけよなあパフン
センチメンタルジャーニーは時代遅れよ終りにしようよ
何しろオレ達はみんな私生児なんだからさあ!
芥正彦クンよ
小山羊とアルルカンのオナニーはみったねえぞう、いいかんげんにやめろよ!
もそもそしてたらぶっころすぞ!
何しろ戦後二十年、オレ達みんな私生児サ!

風が四方に吹き抜けている暗い空では愛し合う男と女ほど頼りげないものはない。
いつまでも割れずにいるというのは祝福していいことだろうか?
しだいにしぼみ皺くちゃになりながらそれでも舞いあがり風にのぼろうとする。それらたくさんの男女ほど悲しげな風船はない。それらの風船が寒い夜明を迎えるのをみるほど異様な光景はない。
朝焼が地平線をゆっくりなでまわしながら昇ってくるときしぼみかけたいろんな色の風船が高く少しでも高く太陽にあいさつしようと空気を蹴っているのをみるほど異様な光景はない。
この間、二人が抱き合っている

(C)音楽がやけにうるさい
(スキサ!スキサなど)

セントルイスブルースを歌う者
センメン器をたたく者
首をつってしまった者
観客になにかどなりつけている者
人参もない大根もないとわめく者
無心に踊っている者
パフンパフーンといっている者
各種
分裂雑音的末期症状


(A)女 アルルカン、赤ん坊が出来ちゃったわ私

男 生んだらいい

女 私たち私生児よ

男 そうだ私生児なんだなあ

女 私たち私生児は子供を生むわ、でも育てる資格はないわ、育ててはいけないのよ

男 おれたちの両親みたいにおれ達を育ててはいけないのかも知れない

女 そうね私の父や母のように私たちはそだてただけで大きな口きくのはいけないことね!


(C)薄いビニール一本指の手袋
ゴムのふた
その他いろいろある
それでも生れるよ 生れるよ
生れるよ 生れるよ
生れるよ 生れるよ
ざまあみろ!マイホームおかあちゃん!
しぼりかす
しぼりかすのおめえ等

ざまあみろ芝居なんか見てやがら
おれ達はなあ自分で穴から出てきたぜ!
だからいるだからいるんだここに!
いる いる
いる いる 戦争!
いる ここに ベルトコンベア!
いる ここに そっから生れた!
いる ここに 私生児! いる!
マイホームお母ちゃん達はエライヨオ
ベッドに入るんだな、その前に高校三年の息子に言うのを忘れたりはしない“正彦ちゃん東大に入れるようにしっかり勉強するのよ、お父さんみたいに会社でえらい人になるためにね! ”
マイホームお母ちゃんはいつも安心してベッドへ入って行ける
なにしろ完全消毒された胎児ゲリラの工場がうしろにひかえてんだからねえ
工場の入口の看板が出ている
“産婦人科”
あるいは「トンネルから出たらおしまいヘソの緒ちゃん」

笑ってはいけない。女工さんはみーんな白衣の天使
彼女達をしたがえた、無精ヒゲのプロフェッショナル!
鉄のひっかき棒をもって立つ、これまた白衣を着用
ベルトコンベアーにはでっけえお腹を上にして次々とお得意様がやってくる
マイホームママンがのってくる
穴からつまんで あー失敗しちゃった ハイおつぎ!
それにしても未婚女性はいやに少ないなあ!
そこでぼく達は少し不安になったりするのである
まあそれはどうてもいい
何しろこの世は天国ね
安定ムードの天国か
自えい隊まで大学生
自えい隊までスチューデント
ああいう胎児はおろさなきゃいけねえ、だけど誰がおろすんだい
民青ちゃんはダーメ、赤ハタふっても ダーメ!
三派共闘ちゃんも ダーメ
ガリ勉ちゃんも ダーメ
まあオレ達フーテンちゃんがいずれおろさなきゃなるめえ

(B)はじめに何があったか
はじめに
はじめに何があったか
はじめに
はじめに何があったのか
はじめに!

(A)控室
産婦人科の医者
“ご主人残念でしたねえ、男のお子さんでしたよ、四ヶ月の”

病室

男 ……

男 ねえキミ男の子だったんだって。
もう体ができはじめていたんだって

(女それを聞いた瞬間、急、に窓の外に広がる空を凝視する)

女 (ゆっくりと)坊やだったのね

再び長い間、空をみつめて

女 あたし達子供をなくしたのね
殺しちゃったのね──坊や痛かったでしょうね、機械が坊やを押しつぶしたとき、坊や痛かったでしょうね──(涙を流す)

ライトが男だけに当る、どこからともなく女の“坊やだったのね”というセリフが響いてくる。男の顔が何かにおびえて一瞬こわばる

おれ達が
血の雨の中をはい出てきたとき

あたし達が
血の雨をあびて

はるか太平洋の向こうで
スコールと栄養失調の中で
鉛と火薬の花の中で、何百万という人々が死んでいった。このぐうたらなおれ達フーテンを生命の穴から無事に出すために
何百万という兵士という兵士が死んだのだ。
その時一人生き残った高貴なお方はある不吉な昼下り、感度の悪いラジオを前におっしゃった。
おっしゃったのだ!とても悲しい目をなさって
ああ あのときの悲しそうな眼差し!
“今日というこの日、君たちは父を失った。君たちはフーテンという一つの宿命を背負って歩まねばならぬ、今日から君らの上には放浪と絶望とが交叉した十字架がのしかかったのだ。私の肉体が生き残った代償として君達にはフーテンが許される許される”
ああぼくらはこの言葉を忘れることはできない!どうあがいたところで忘れられるはずはない、私たちの生命と引きかえに何百万という兵隊が土に帰しているのだから。
彼らの血の一滴一滴は、ぼくらの中に小さな空洞となって拡がってゆくのだ
その小さな空調に風が吹き抜けて行く時
吹き抜けてゆく
すでに散華という手だてはぼくらにはない
ぼくらにできるのは、空しく風に転ぶことなのだ
パフーン
おめえらには彼らの前をニヤニヤ笑いながら内心軽べつしながら、バカなやつらめなどといいながら、通ることはゆるされない。
断じて許されない。許されてなるものか、どだい君たちにそんな権利はありゃしねえ
彼らが君たちとすれちがうとき
彼らが君のかたわれではなく、君たちの中を通りすぎてゆくのを君たちは感じないはずはないのだ。あの高貴なお方はあの時すでに知っていたんだ。
“私はこの日からすでに、きみ達の父親たりえない。私も君達といっしょにフーテンをしなければならないのだ、いっしょに!
それができなければ、私には自殺して果てることしか残ってはいない”
“恐らく私には君たちといっしょにフーテンすることはできないだろう、すでにそのような力をもつきてしまった。しかし君たちは君たちの一生をかけて自分の父親を探し出して欲しい。
自分の内部に自分の父なるものを創りえて欲しい。私の死を建設という美名のもとにむだにして欲しくないのだ。すくなくもフーテンをする勇気のある君達だけは───”

おかしかったら笑え!笑え!わらえわラエ!

おめえらのリクレーションてのは人を見て笑うことなんだろう
さあ笑ってみろほれ!
さあ笑いなさい早く!
生れた時から放浪者だったぼくら
パフーン
パフーン
パフーン 悲しげにひびく

スモッグは黒い、スモッグはスモッグみたい
スモッグは黒い、スモッグはエレブンPM
スモッグは黒い、スモッグはスモッグ
スモッグはエレブンPM
(この部分と最後はダブってもよい)

(B)はじめに何があったのか(傍点:のか)、はじめに……
はじめに何があったのか(傍点:のか)、はじめに……
はじめに何があったというのか(傍点:いうのか)、はじめに……

(A)男と女のアパート(女をだきかかえるように室に入ってくる)

男 何かみんな変ってしまったみたいだ。机えも椅子もホラこのマフラーもみんなじっと沈黙してる、おかしいね!

女 ───そうね(しずかにぽつっと言う)

〔音楽入る〕

女をベットに寝かしてから自分もそのかたわらに入る


どこからともなく赤ん坊の叫び声のようなものがひびいてくる。
女その声にさそわれるようにフラフラと何処へともなくさまよい出る

〔録音流れる〕
坊やだったのね。坊や……
機械が坊やを押しつぶしたとき、坊や、痛かったでしょうね───。

〔音楽入る〕

男はっと目ざめて起き上る
女がいないのに気づく
室にはいない

赤ん坊と大八車の音

(C)一瞬じっと耳をすましたかと思うと、はっと何かに気づいて外へ飛び出していく

君たちは死神とチェスをやったことがあるか。やったことがあるかと聞いてるんだ!
恐らく死神とチェスをやったことはあるまい!ないでしょう、ないでしょうないでしょう、ないだろう、ねえだろう、ねえだろう!
現代の十字架。それは、空体と放浪とが十字をなし、絶望に向って指さしている。現代の、現代の十字架。それは、絶望に向けて立てられた道標なのだ。その十字架の下で君たちは死神に向って座し、正面きってチェスをやったことはあるか

チェスをやったことがある?
はっきり言う君たちはチェスをやったことはない!やったことはないのだ。オレ達には分る!
君達はまだ死神とチェスをやる資格さえないのだ、あなた達が一人きりになったとき、君達は自分の心の底に聞こえてくるか。あの日高貴なお方が最後の息を引きとったとき残していったことばを。かつてあれほどに日本のラジオが美しい言葉を流したことはなかった。
ほこりのいっぱいたまったスピーカーというスピーカーが破れはてた障子をふるわせて鳴った。
あの玉のように澄んだ言葉、あの玉音放送は、決してあの日だけのものではないのだ。今もなお、ぼくらの心の中では鳴りつづけている

自己の内部にこそ求めよ!
自分の内部に母を探すのだ
自分の内部に父を探すのだ
空体は空体としてじっとこらえなけばいけない
空体の身代りを
外部に求めてはいけない
外部に求めてはいけないのだ
どんなことがあっても外部に求めたりしてはいけない
フーテンしながらじっとこらえなければいけない
こらえることこそわれわれに残された道だ!
ぼくらをこの地上に生あるものとして出してくれた何百万という兵士たちの血をムダにしてはいけない彼らのためにも決してぼくらは、おまえたちも、外部などに父や母を求めたりしてはいけない
自己内部にこそ求めよ、自己の内部に!
アメリカを父とする資本主義の機構のヒダに埋没しきった君たちよ自己の内部に父を母を探せ!
マルクス教を信仰するプロレタリアよ!
外部に父などを求めたりしてはいけない。そんなことでは決して革命はできない! 
できるはずはないのだ
私生児は私生児らしくしろ
私生児はてめえの力で生きるもんだ
私生児のくせに泣きべそかいて、フーリッシュヤンキーやマルクス父ちゃんに走りよって何になる
あるいはすでに死んでしまった父親達の仕事を手伝ったりするのはやめろ
何しろ私生児はつええんだ、私生児は私生児らしくする
マイホームママンの首しめろ
マンホールをけっとばせ
でっけえ腹に穴あけろい!
(我々の母を殺したものをぶっこわせ! )

(B)はじめに何があったか(傍点:か)、はじめに……
はじめに何があったのか(傍点:のか)、はじめに……
はじめに何があったというのか(傍点:いうのか)、はじめに……

(A)女 助けてちょうだい、たまらないわ こんな冷たい箱の中にあたしを閉じこめておかないで!

(効果)
なにかがきしむ音、赤ん坊の泣き声
男、手をさしのべ女を必死で引き上げようとする
しかし少しも女は上ってこない

〔録音流れる〕

女 だめなのね

男 何をいうのさ、君はここから出るんだ

女 出ることはできないの、あたしには分っているの

男 何も分っちゃいないんだ君はまちがってこんなところに落ちたんだ

女 いいえまちがってなんかいないの、まちがってなんかいないのよ、あたしの足みてちょうだい、あたしの足を。あなたなのよ、あなたなの、私の足を引いているのは、あなたなの、あなたが……

──急に暗転──

男にだけ光が当たると男しゃべりだす

男 確かに彼女の足はしっかりと一本の手に握られていた。その手に下には地獄草紙の髪ふりみだした真青なひとりの男の顔があった。その顔はだれあろうまごうことないこのぼくだった。
ああ彼女はなぜあんな風に言ったんだろう。どうしてこのぼくが彼女を水に引きずり込んでいたのだろう。それなのになぜ、彼女はまちがってなんかいないと言ったのだろう。
どうしてどうしてどうして……どうして

〔録音流れる〕

だめなのね、やっぱりだめなのね、出ることができないの私にはわかっているの。
いいえまちがってなんかいないの、まちがってなんか

(C)かつて私たちも大いなる母胎への回帰に救いを求めたこともあった。スモッグの中にひそむ妖艶な女体、大山デブコの巨大なおしり。腰巻お仙のピーヒャララ
ああエログロがまた叫ぶ
チッチッとまた叫ぶ
だめだめだめなんだ!そんなことをしたってだめだ。だめだめ!
スモッグの中にいてこの黒いスモッグの中でエログロに母を求めてはいけない
自分の内部に母なるものを探せ
自分の内部に母なるものを探せ

自分の内部に母たるものを探せ

フーテンするということは、一切の救いを断つことではかったのか?
スモッグの中に母を探すことではなかったはずだ
白痴の女を愛せ
白痴の女を愛せ
朝鮮女を暴行したりはするな卑怯者!
私生児はえれえんだから白痴の女を愛して殺せ
白痴の女を愛せ!
白痴の女を殺せ!
白痴の女を愛せ!
白痴の女を殺せ!
白痴の女を愛せ!
白痴の女を殺せ!
白痴の女を愛せ!
白痴の女を殺せ!
白痴の女を愛して殺せ!

(B)はじめに何があったのか!はじめに
はじめに叫びがあった
はじめに恐怖におののく叫びがあった

はじめに恐怖におそれでにげ惑う人間たちの叫びがあった
叫びがあった 叫びが──

(A)男 あなたの中には最も速い星よりももっと遠いものがあった。
ぼくは自分の曳く長い影さえたちまち見失うほどの早さで、あなたの中で落下した。猛烈に回転する水平は庭の中心で、ぼくは一羽の鳥をつかまえた。
それがたちまち露に濡れた小さな苔に変わってしまう間に
ぼくは隧落する水夫の腕のスクリーンに映るほどの大量の過去に貫通された。
夜から朝にかけてのすべての卑猥なものおもいに汚されたシャツが太陽の前で死んだ烏賊のまねをした。ぼくはいっそう深く落ちた。
はるか上の方、最も遠い星よりももっと遠くにあなたの水平な庭が猛烈に回転しながら遠ざかっていった
ぼくがつかんだ鳥
あれはあなたに中の死だったのだ

だからあなたはあんなにすばやく逃げたのだ。死を外側につかみ出されないために……
ぼくの手には、今でも小さな穴があいている。そこからのぞくと世界は真っ暗な火山がひっきりなしに噴火しているのが見える


羊というのは一般的に体制に埋没した人間のことである


(C)あ!ほらそこにぼくらを食い殺しにやってきた羊がいる、いるよいる。
あーんなにつよい近眼のメガネをかけて、ピカピカ光るくつはいて
ああ私たちを食い殺しに押しよせてくる!
ハエはハエのように飛ぶんだ、犬は犬のようにおしっこする。人間様は犬のようにめしを食らい、ハエのように飛ぶこともできず、ハエみてえに死んでいく。ざまあみろいいきみだ!
あははは!人間羊どもが共食いしてらあ
ああ 羊がおれ達私生児を食い殺しにやってくる
羊共は私生児がこわいのだ。自分が私生児であることも知らずになあ、ああ羊が来る羊がくるあのおとなしい気弱な羊がおしよせてくる。おれたちを食い殺しにやってくる


くり返して終る


百姓のスケベ根生まる出しでおれたちを食い殺しにやってくる!
ああ羊がおれたちを食い殺す!

百姓のスケベ根生まる出しでおれたちを食い殺しにやってくる!
ああ羊がおれたちを食い殺す!

百姓のスケベ根生まる出しでおれたちを食い殺しにやってくる!
ああ羊がおれたちを食い殺す!

(A)男が舞台にたたずんでいる 後向き女がかたわらに立つ

女 不安定なつばさが、空のきらきら光る部分を昇っては降り、昇っては降りしている。遠く、恋人たちの葬列がゆく
美しい死はないから、せめて白い萩の花で死を覆う


(C)その連中は最初の場のようになる


乳房の高さに手を上げ、歌を形見にうたい合う
人の腹から生れ
神々のあいだで立ち去る孤独なもののために
パフーン

───完───

自由劇場 平面図(BF)


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