作品

cafe terrace play

地下演劇 no.4 1971年11月11日


【左段・対談参加者】

芥正彦
岩田宏
高松次郎
清水多吉

【右段・対談参加者】

芥正彦
(第二芥、第三芥、第四芥)
夏際敏生
高松次郎
原田慶二
芝山幹郎
阿倍薫
堤雅久
松尾由起夫
芥黎子
四谷シモン


司会 拍手。アナウンス、では「ヒットラー遊戯──サピエンスの終焉」「資本論──事物の演劇」(太字:「ヒットラー遊戯──サピエンスの終焉」「資本論──事物の演劇」)という形で、シンポジウムに入って行きたいと思いますのでよろしくお願いします。全共闘がつぶれたというのは時代にとって裏表じゃないかな、と思っています。そこで、この物の動きと人間というか、あと、こう人の権力の変貌とを、政治、歴史の両教授にお伺いしたいんですけど。若い人たちが集ってきたキャンパスの昼下りにね、第一にその為に呼んだのですから。

群衆一 まず、その演出者の方の意図から聞こうじゃないですかね。

群衆二 ええ。

芥正彦 意図と言ったら、人の集まっているということ以外にその全体はないんじゃないですか? もし革命家なら口をきくべきで、はっきりとアジルベき。(全員椅子を前に寄せて移動する。雑音)ほら、これがその意図です。群集の移動がある。(三人半円形に固まれる)要するに、「人間を操っているのは何か」(太字:「人間を操っているのは何か」)ということからお聞きしたいんですけど。物なのか人なのか、歴史なのか言葉なのか。実際ここでも彼等は人として物の上を移動した。

岩田宏 それじゃあ、僕の方からちょっと皮切りに喋りましょうか。今日のテーマ、第2番目、「資本論──事物の演劇」と書いてあるのですけど、どういう意味でそういうこと書いてあるのかわからないんですけど、ある意味ではピッタリなんですね。『資本論』というのは、マルクスの思潮だということは皆さん知ってると思うんですけど、では内容は何が書いてあるのかと言いますとね、近代資本主義社会の階級関係の分析になってるわけですね。しかも、それを、その古代だとか中世の階級関係から区別する歴史的な質とは何か、それをトータルにやってるわけです。で、問題は、何故「資本」という名前がついているのか。「DAS KAPITAL」(太字:何故「資本」という名前がついているのか。「DASK APITAL」)ですが。何でそういう名前がついているか、という気がするんです。で、資本主義社会の分析だとか、そういう内容的な表題はついてるんですが、何故「資本」という題になっているかということですね。原題は、唯、「資本」だけなんです。「資本」という題がついていますのはですね、“ダス-キャピタル”

芥 マルクス主義は、「資本」主義ですネ。はははっ。

岩田 その「資本」が、この本の主人公という意味なんです。あるいは、その『資本論』の演出者いとうのはネ、「資本」だということなんですネ。

芥 事物がキャピタル(首都・事物・資本・大前提・大文字)で、人間はキャピタルじゃないということですネ。はははっ。

岩田 そう、そう言ってもいいでしょうね。

芥 『資本論』からはみ出た肉体が、革命を弄る訳ですから。(太字:『資本論』からはみ出た肉体が、革命を弄る訳ですから。)

岩田 そういうことでしょうね。

芥 レーニンとかゲバラとかロートレアモンとか。

岩田 そういう問題なんです。資本からはみ出ようとする人間と、それを、その資本が自分の手段に取り込もうとするその葛藤が、『資本論』として書いてある訳です。

芥 事物を動かす秩序と、事物を所有する権利は別です。それを一体化させたものは何なのですか? 例えば、今日、資本主義で、事物の所有権と動かす力が一致しているあたりに、一つのスピロヘータ的権力の解体がある訳です。政治が入りこむんですけれども。事物間全域に私達の政治が。

岩田 今、政治の話が出たんですけど、近代社会の問題というのは、一体、「政治を誰が演出するというのか」、「政治家が自らが主体となって演出しているのか」、あるいは、「政治家を俳優として使う第三者が居るのか」と、そういう問題でしょう。政治家というのは、将棋盤の上に乗っている駒でね、差手が後に居るのかどうなのか、そういう問題なんです。で、『資本論』といいますのはネ、差手が実は「資本」なんです。政治家も将棋盤上の駒にすぎない。人間もネ。

芥 結局、それは事物に対する人間の廃材というやつです。

岩田 労働者なり人間なりも、将棋盤上の歩兵にすぎない。(太字:労働者なり人間なりも、将棋盤上の歩兵にすぎない。)ところが、人間の方は主体性があって、駒であることに抵抗する。資本がいかにしてそれを駒として扱うか、そういう資本の、いわば、その術のようなやつを展開していく。

芥 事物の悪潮(太字:事物の悪潮)を「資本」と呼んだのは人間です。だから我々が決定するという!

岩田 そこのところになると、その人間自体が一つの将棋の駒にすぎないんだが、将棋の差手は一体誰か!

芥 いや、地震からリプトンや戦車が生れてきた訳じゃないという話をしているんです。このテーブルが割れて「火山が爆発したら車が出て来た」というんだったら別ですよ。人間は生存する必要がない、一方的に物に押しまくられているという話でも結構なんだけど──工場を作ったのは地球か人間か、猿か人間ですよね。まあ、人類の無暴力ですけど。働くのは猿でもいい、だが猿は失業する。

岩田 そこのところが問題でしょうね。

芥 だから、それを答で話して頂きたいんですけど。私達青少年は問題で包囲されている。

岩田 そこで、それを答として話をしますとね、それは、その人間が機械なり工場なりを作ったに違いない。厳密に言えば、人間の労働する力が作ったに違いない。

芥 最初に工場を作ったモメントは何なのですか? 肉の圧力系数のような……

岩田 ところが、その労働する力というのは、作る、主体的に活動するプロセスに入っていく前に、つまり、工場に入っていく前に既に資本家に売られている。だから、資本家に買いとられた労働力が自動車なりテレビなどを作るにすぎない。

芥 「生れた時からの資本家」だったという人はいなかったはずですからね、前提が弱すぎる。

岩田 だから、『資本論』の中心問題というのは──

芥 その論理だと、地球は最初から工場がもう存在していて、資本家とか何とかにわかれていたということになるでしょう?

岩田 そこに入っていく前に、さっきの話に戻しますと……

芥 その辺が、何かに騙されているという気になる原因なんです。

岩田 『資本論』の中心はね、資本の生産過程論、とまあ、この「論」というのは日本人の好みでつけたやつですが。

芥 (机を叩きながら)じゃあ、これは資本ですか、今?

岩田 それは、工場から出てくるときには資本とするんだけど。

芥 私は? (自分の手を自分で掴みつつ)今、ここに居る。喋る、言葉を産む、潑溂としているこの肉は? 如何!

岩田 君は貨幣を出してこれを買えばね、君の私的所有物になるけれども、その貨幣は一体……

芥 僕にとっては、この痛みこれは言葉なんですけれども。これでこういうとともできるし。(割れた壜を岩田宏につきつける)

岩田 貨幣がどこから出てくるか、それは、君の労働力なりアルバイトなりで、

芥 貨幣がない。この円テーブルの上を、貨幣の通った跡がない。

岩田 あるいは親爺さんの労働力なりが、資本に売られて、君は貨幣を持って来て、その貨幣でコーラの壜を買って来た、ということですね。

芥 それはあなたの出生の歴史です。私達のではない。貴方達の出生とその敗北、それと僕と何の関係があるんだろうか。僕が生きるということと。あるいは生きているということと。

岩田 そこでね、今の話を結論で言ってしまえば、資本が将棋の差手になってる(太字:資本が将棋の差手になってる)んですがね。人間というのは駒にすぎない。それがまあ、いわゆる近代社会のいわば、「疎外」ていうやつ──。そこで問題はね、それ以前はどうであったか。そうしますとね、それ以前は根本的には自然とみていいでしょうね。自然の方が将棋の差手でね、人間なんていうのは、自然の中の一部にしかすぎない。資本主義社会の以前の物をつくる生産というのは、大体、農業生産ですよね。農業生産っていうのは一体何だ。畑に種を蒔いて、秋になると実がなってくる訳で、一体、あれは、自然が物を作るのか、人間が物を作るのかわからんでしょ?

芥 じゃあ全類の地上では種蒔と収穫の間には何があった訳ですか? ですから、収穫が終って次の種蒔までの間、人間は一体何をしていたんですか? 考えて見て下さいもう一度。

岩田 まあ、草を刈ったり、等々全やってる訳です。

芥 それも終った訳です。収穫が全部終った。次の種蒔の間に、まだ暇がある。その暇が問題なんです。(太字:収穫が全部終った。次の種蒔の間に、まだ暇がある。その暇が問題なんです。)人類の大半はここに在る。

岩田 言い変えますとね、要するに、生産するといったって、

芥 人類は別に生産だけをやってきた訳じゃありません!

岩田 社会の生産過程が自然の過程なのかどうかはわからん。つまり、生産過程が自然過程に埋没しているということになるんですね。さらにもうひとつ、その点を言いますと、人間は物を作る時に、集団になって作る。

芥 いやあ、わかりませんのですそれは。

岩田 ロビンソン・クルーソーの場合はどうかわからんけど。

芥 ヨーロッパの言葉のボス、キリストの場合は集団で作ったわけではない。あいつのことば(傍点:ことば)、言葉も物ですからね。この時代は。平らかだが……

岩田 話、戻してね、集団で作る──その集団というのは、どういう集団かといいますとね、

芥 人類は一人でも集団です。(太字:人類は一人でも集団です。)それは集団の能力があるのです。それが群集の形態であり言葉です。

岩田 大体、共同体だと言っていい訳です。農村共同体、いわゆる地縁共同体というやつですね。

芥 いつも共同体には、一人だけ例外がいる。

岩田 さらに、血縁共同体というやつで、血縁共同体だとか、血縁共同体というのは、

芥 血縁の異邦から紛れ込んでくる権力のある奴もいます。

岩田 そんなのはいないね。

芥 いや、それは貴方も労働を捨ててみればわかります。現に、ここだって、ここに何人かの共同体があって、子供連れの辻音楽師を装って僕みたいなのが入り込んでくる訳ですから。

岩田 そういう、昔の共同体というのは、血縁的地縁的とか、

芥 それは証拠がないんだ。話が退屈するんだ、結局。

群集 異議ナシ!

岩田 その今、その資本主義以前、つまり、『資本論』の描いた世界以前の真の将棋の差手は誰か?

芥 そうしてマルクスの人生は非常につまらなかったでしょう。至極平凡でそれが良かったろうし革命はなかった、そんな気がするのです。

岩田 ちょっと、話を横から途中に入れると……(笑う)とね、僕の話をよく聞いてもらいたいね。

芥 いや、時を失うと言葉は暴力なんです。無名とは本来的にそうである。だから人間、言葉をもたない方が倖せなんです。言葉は生き死にに係わってくる問題なんです。(太字:いや、時を失うと言葉は暴力なんです。無名とは本来的にそうである。だから人間、言葉をもたない方が倖せなんです。言葉は生き死にに係わってくる問題なんです。)最近では三島をみればわかりますでしょう貴方も。

岩田 僕の話をよく聞いてもらいたいのですが。

芥 聞いています。だから私が答えるんです。

岩田「差手が自然にすぎない」とみていいでしょうね。

芥 あなたの差手がですね、

岩田 それは僕のことを言ってるんじゃない。

芥 すると、例外があって、これどうしてでしょう。どっちが……

岩田 まあまあ、ちょっと話に入る前に、もうちょっと聞いて下さいよ。差手は自然なんですよね。

芥 それじゃ自然を屠殺しない限り、言葉はやって来ない。人間には!(太字:それじゃ自然を屠殺しない限り、言葉はやって来ない。人間には! )それが貴方達の歴史を文明を創った。

岩田 サルだとか牛だとか馬だとかが群れてるのとどう違うか。

芥 同じでしょうね、その論理だと。

岩田 ということは、同じでしょうね。根本的には同じだとみられるね。

芥 世界大戦を人類が二度やっているのですよ。サルがやったのも知らないし。事物が走り出すのです。

岩田 サルだって喧嘩するもの。

群衆 暴笑!

芥 人間が動くより物が動いた方が素晴しい時代だ。あなただと、あなたは単なるサルにすぎないという話になる訳ですよ。恥辱がエネルギィに。

岩田 サルだって、いわゆる、その、エロスとか何とかいうやつがある訳ですョ。(太字:サルだって、いわゆる、その、エロスとか何とかいうやつがある訳ですョ。)……その自然が差手であるということから、資本が差手であるということに変った、それが、近代の特徴でしょうね。

芥 それは、社会がなければ生きられない人間の論理になっているでしょう。本当に、自然だけで人間が生きたら、そういうことは言ってられないはずだ。社会に甘えてるんだ。自然陶汰は優れて力のある数学です。

岩田 それで、僕は、問題として出したのは!

芥 甘えてる。問題は聞きたくない。答を、答を、先生。

岩田 その、差手を排除するという問題にいこうという、

芥 排除じゃなくて、属殺!

岩田 それでもいい訳ですね。

芥 自分の体から、一切の自然現象を屠殺できたら、その肉は言葉だろう、(太字:自分の体から、一切の自然現象を屠殺できたら、その肉は言葉だろう、)と言いたいのだが。

岩田 自分自身が差手になったような、なるということでしょうね。問題は。

芥 “問題!”

岩田 それで、僕は演劇の話は余り知らんのだけど、演劇というのは、普通は、つまり、商業的にやってるのは、プロデューサーと称する存在があって、それから、演出者が居て、俳優が。

芥 レーニンがやった演劇というのは、ボルシェビキというエキストラを、正規の国民に変えた演劇です。単なるエキストラを、企業の話で言えば、非常職員を正社員に変えたんです。一人の俳優が演出家供と観客供の一致を演現してしまった。

岩田 僕は、その──

芥 原爆の演劇といったら、人類の二〇万の怠惰を吹きだたせた。それがヒューマニズムという忘れた筈の文明!

岩田 革命というのはね、その差手を無くするということで、

芥 果たして、地上で本当に革命が起ったことがあったでしょうかね。人間は言葉に騙され易いものですから。……例えば、人を愛する時、愛を裏切るだけの力がない場合は愛せない。愛に悩んでしまう。愛自体に悩む。愛も、元々自然現象だ。自然現象としての愛を裏切る力があって始めて、人は人として人を愛することがてきる。(太字:自然現象としての愛を裏切る力があって始めて、人は人として人を愛することがてきる。)それ以外だったら、サルのオナニーで、ゴキブリと同じで、そうやって意識が危機に瀕している謎を一拠に解いてしまいたいから、人々は答をききたいんです。……「社会的動物だ。自然に刺されている。事物に刺されている、物は素晴らしい」それは単なる物質的恍惚で、そんなものだけがずっといた訳です。結局、逃亡する訳ですけど。持場を放棄し逃亡をやめる方法があるのかないのか貴方に。

岩田 それでは君の言いたいことを言ったらどうだね。

芥 私には主体性がないから、充分満たされている。

岩田 それじゃあ、皆(ルビ:みんな)で、喋りたい人が出て来て喋ったらどうです? その、僕が言いたいのはね、革命ちゅうのは、差手を無くするということ。つまり、主体の回復なんですがね。

芥 では、あなた自身は、あなたに対してどんな革命をおやりになりました? 披瀝して下さい。

岩田 更に言いかえればね、演劇というのは、行動しているのを同時に計画することで、

芥 これも演劇なんです。(机を動す)物の移動なんです。人の歩行が寸断される。

岩田 つまり、自分の行動をね、客観的に見ている第三者、見物人とネ、動くのとがネ、計算されたプログラムになっていないと演劇にならんでしょうね。

芥 さあ? 知りません。それでは、歴史の物話ではないか。

岩田 どうでしょう。演劇というのは。

芥 どうでしょうか。演劇というのは。(清水氏に)

清水多吉 私に、演劇を語るあれはないんですよ芥さん。

芥 ウソでしょう。自己弁護の論理というのは演劇ですけど。(笑い)いやこれは演劇です。しかも権力を代行しようという。

岩田 そのことはね、清水さんがね、自分の言う効果を計算してものを喋ってるとしたら、これは、「自ら演出し、演劇している」(大笑い)という風に言えるんじゃないかね。

芥 でもそれは下手すると、自分の足を自分の手でつかんで歩こうなんて言うことに、意外となります。危険なんです!

岩田 そういう、演劇主体というのが、動物から人間を区別する根本規定でしょうね。

芥 いや、動物という自然現象の夢から醒めるか醒めないか、覚醒があったかないかでしょう。肉の内部にです、死の総体が一言で言えばロゴスだけれど。醒めるか。だから、『資本論』という夢に醒めるか醒めないかがまず試される。例えば、資本論通りに物を動かしたら企業にしかなり得ないでしょう。『資本論』を法律として一つの物を営んでいるのが企業。松下もそうだ。七百万の人間がそれで生きている。何の心配もいらない。フーリエが生きかえってきたら泣いて喜ぶだろう一生、きちんきちんと行っていればいい。病気すればそれなりの処置がある。退職すればそれなりの処置がある。まるで共産している自治体のようだ大企業とは。

清水 芥さん、私はあなたに尋ねよう。あなたはヒットラーを愛していますか? (太字:あなたはヒットラーを愛していますか? )

芥 いえ知りません。ヒットラーは。

清水 ああそう。それでは何故、ヒットラーという言葉を使ったんですか?

芥 あなたが知っているからです。

清水 私が知っていることと、あなたが知っていることと関係がないではないですか?

芥 いえ。

清水 何故関係があるんですか?

芥 あなたが私のサルだったら関係がないけれど、あなた、自分で自分を自分のサルだと思ってるんでしょう。

清水 私とあなたが何で関係があるのか、論旨で言って下さい。論調でなくてもいいですよ。

群衆 あーははははっ

芥 今の笑いが関係です。

清水 それは、あなたによって提出された笑いではありません。私と彼らとが連がっている。

芥 そうです。私には主体性もなければ味方もありません。あなたは群集がいる。僕にはいない。だから僕は革命家ではない。俳優だ!

清水 私はそうとも思わないけれど。あなたは俳優ですか?

芥 感想はききたくない! 説明も不要だ。

清水 俳優ですか? 答えて下さい。まあ、答える必要もないけど。

芥 耳がないのかっ?

清水 それじゃあ、私の意見を申しあげます。ファシストというのは言葉を持たなくちゃいけない。

芥 躰があった。

清水 そうです。

芥 躰も言葉だ。

清水 いやいや。

芥 武器も言葉だ。国家にとって戦車が言葉だ。犯罪はエロスだったいつも。

清水 言葉とは何てすか? (太字:言葉とは何てすか? )

芥 人を裏切るものだ。(太字:人を裏切るものだ。)

清水 あなたは、その言葉(ルビ:ことば)によってあなた自身をも裏切りますか?

芥 私は言葉(ルビ:ことば)を持ったことがない。だからそれを畏れずに言葉を使う。

清水 結構だ。

芥 言葉は私の肉の道具でしかない、この事は私にとっては。君たちにとっては本質だ。だから知識を得た。「旅館の番頭から革命して教授にまでなった」それは革命だ。君自身にとって。でも、それがなんだというのだ。群集を目の前にして。彼が一方……

清水 君は何なんですか?

芥 え?

清水 君は何なんですか?

芥 あなたのみた通りのものだ。

清水 私には見えてはいない。

芥 ハハ、それが非在だ。非在の自在さ。

清水 いや見えていないのだよ。あなたが。まるで見えていない。

芥 見えない(傍点:えない)、と言うべきだ。見ることができぬ、と。もはや懴悔だ、それは。

清水 懴悔ではない。侮蔑だ。

芥 侮蔑を含まない懴悔などあるはずがないではないか!

清水 私にとって、……

芥 君の仕事は自己弁護だ。死の側から永久に……

清水 ここで「長い沈黙」と書いて戴きたい。

(間)

芥 ベケットは、ゲシュタポと戦って、南仏で農業やってまで革命したよ。あなたときたら──サルトルは捕虜収容所から脱出した。

清水 立派だな。あなたは。よくそれだけ勉強したなあ。

芥 あなたよりは優れている必要があるからです。実際今日は確かでしょう。

清水 それは、あなたと関係ないだろう、あなた自身のあることによって、

群衆 見せてみろ!

清水 黙れ! その言い分は何だ!

芥 「あなた」って、もっと皆んなに言えよ。やれ! やんなさい、やんなさい、ねえ、みてましょうね。やれと言ったらやれよ! 男だろ? どうした、やんないのかよ。(猫なで声で、いかなる女もこれほど優しくなれない程に)

清水 「沈黙」と書いてくれ。

芥 やれよ。ね、おやりなさい……スパッ

清水 だ・ま・れ。

──いすなどがけとばされる。

(間)

群衆 それが言葉かよ。(清水を抱えて)

芥 言葉だよ。

清水 いいだろう。(倒れたまま)

群集 言葉がないから 知識じゃないんだよ。

清水 何だ? (むっくり起き上り)

群衆「居ること」が居ないっていうのだ。

芥 そんなに命が惜しいのか。人は歴史を味方につける時は、肉の危機に耐えかねて味方にするんだ。歴史をな。覚えておけよ!(太字:そんなに命が惜しいのか。人は歴史を味方につける時は、肉の危機に耐えかねて味方にするんだ。歴史をな。覚えておけよ! )

清水 覚えていてやろう。覚えておいてやろう。

芥 ホラ、やるんだ! ことば(傍点:ことば)だよ、ことば(傍点:ことば)だよ。

清水 い・い・よ。い・い・よ。私は、この舞台から降りようと思うんです。

芥 降りる必要はない。やるんだよ。

清水 降りるよ。

芥 彼等が全共闘だった時も、降りたんだよ君は、こうやって。

清水 黙れ!

芥 うん?

群衆 自分がムキにならないで一言言ってみな。

芥 恐かったんだろう? このタテが。うん? 捕まるのが。全共闘じゃないか、どうしたんだ。再現したんだよ。やってくれよ。

群衆 たまには救ってやれよ、たまには。

芥 一度までもいい、二度までもいい、三度目だよ、今日は。

清水 誰を?

群衆 自ら!

芥 そうだっ裁いてみろ、それが自己弁護じゃないか。公衆の面前で彼らを裁く。足があるのかないのか。

清水 俺はな、言っておこう。あの、お前たちのアレというのは、全くみすぼらしい。

芥 ああ、「花束がきれいだ。」

清水 そうだな、別れようぞ。俺とお前は関係ない。さらばだ。……関係ないと言ってるではないか!

芥 お前とは誰だ! お前っていうのは。どこにいる?

清水 お前、芥のことだ。

群衆 見えないよ。

芥 「芥!」出てこい、呼んでるぞ。ここの人達が。

清水 また会おうぞ、縁があったらな。

(オト、間)

群衆 何て奴だよ! まだ逃げる場所があるのか! もう逃げる場所はあるまいに。

口惜し泣きしながら、スゴスゴと去ろうとする最後のホモ・サピエンスを芥氏の泥靴が厳しく踏みつける。清水多吉氏退場。

群衆 サピエンスの終焉!(太字:サピエンスの終焉! )だっ様にならねえや。

芥 結局、彼がサピエンスだったという証明だ。(事物化した右腕を撫でながら)……「知識のある者がそれを捨てて言葉を得る道があるのかないのか」、物にどうやって勝てるのか。(太字:知識のある者がそれを捨てて言葉を得る道があるのかないのか」、物にどうやって勝てるのか。)彼がピストルを持っていても国家に捕まるのが嫌だから撃たないでしょう。

全員……(間)

(テーブルのうえの花を指して)これは花屋で売っている。花屋で売っている時はまだ資本だけど、ここへ来て、誰かが、「花がきれいだ」と言った瞬間から、資本でなくなってしまう。一つの体の一部になる。……そういうことだ。

全員(間)……

ではここは彼みたいな教師が生息しているが、若いこれから一つの体を得て、言葉を得て、一つの「生きる」という希望を義務化しようとする歩みを踏み出そうとする時に、彼みたいな、サピエンスの裏切りに出会って、それに気づかないだけ、きっかけ──これが多すぎる。まあ、全共闘の原因がぶり返すだけですが。本当に学んでいるのか学んでいないのか、解らなくなってしまっている。いつも。社会的動物だ! 必然だ! 不自由なんだ! と言われて、それでいい気持になる男はいない。すべてが、のっけから決まってるみたいな話し方しか、聞けない。ちょっとつっこむと、「それは問題だ」問題を証すのが「知」じゃないですか? もしあるとしたらですよ。

岩田 僕が言いたしのはね、そこを主張しようと思ってたわけよ。

芥 ああ、そうですか。どうも。では同じですね。先を続けて下さい。お願いだ──。

岩田 君が言った、レーニンとボルシェビキが芝居だというのはね、そこに問題があるということなんですがね。

芥 ああっ唯言っておきたいのは、

岩田 レーニンが演出で、あとのボルシェビキ党員メンバーが、あるいはロシアの労働者が、芝居の素材だ。

芥 でなくて、レーニンが、「生きる」ということが。

岩田 ということがね、真の革命かどうか、あるいはナチの場合ですと、ヒットラーが演出家でね、数百万のナチ党員が将棋の駒である。

芥 でも、何故そう階級的な話し方にしちゃうんでしょうね。例えば、ヒットラーとヒットラーのナチの成員の、ある意味での、そう、区別というのは、そうではないんじゃないですか? 例えば、レーニンもドイツに居たら、ヒットラーになったかもしれない、と思う訳ですよ。一つの肉体の物語として。(太字:一つの肉体の物語として。)
……

岩田 それじゃあ、君にききますけど、ヒットラーを、一体どういうものと解しているのか?

芥 思考が事物で存在し、実際に人間が社会的動物になってくる気配の権力が!

岩田 あるいは、ヒットラーは何を演出したのか。というのはどうですか?

芥 居ることは演出でしょう。

岩田 あれは、一つの革命を演出した訳よね。

芥 いや、全的な肉の危機を演出した訳です。

岩田 僕は、どうもそういう言い方がちょっと……

芥 意識の終焉に対して、肉自体の危機を演出した訳です。で、歴史を激退(編注:ママ)する方法をとった訳です。ところが再び歴史に呑まれた訳ですけど。例えば、カフカがその前に誕生して、彼がやっていた仕事というのは、意識自体の危機、意識は危機に瀕しているという話てすよね、それを受けて立ったのがヒットラーで、ある意味ては、カフカとヒットラーは同じ訳です。結局物の方から何が来たか。原爆です。人間の方から何を持ち出したのか。(太字:意識の終焉に対して、肉自体の危機を演出した訳です。で、歴史を激退する方法をとった訳です。ところが再び歴史に呑まれた訳ですけど。例えば、カフカがその前に誕生して、彼がやっていた仕事というのは、意識自体の危機、意識は危機に瀕しているという話てすよね、それを受けて立ったのがヒットラーで、ある意味ては、カフカとヒットラーは同じ訳です。結局物の方から何が来たか。原爆です。人間の方から何を持ち出したのか。)ヒューマニズム、民主々義。……この勝負がどうなってしまうのか、というのをお聞きしたいのですが。

岩田 一体、ヒューマニズムというのは何ですか?

芥 え? 例えば、彼がここでいばって、彼にどなって、一人の男をあんな声で言うってことは当然の侮辱な訳だけど、それでも己の肉は守られているという予定調和を『民主々義なりヒューマニズム』という訳です。ところが、ここに居た一つの事物が動き出した訳です。人間も物です、こうなっては。全然彼を憎む訳でもない。やりたい訳でもない。唯、人としての言葉を見せて欲しい、(太字:唯、人としての言葉を見せて欲しい、)という願望がこうなる訳です。

全員……(間)

芥 さらにあと一つ、革命とは具体的に何なのですか? 唯、その演出をなくすということが革命だというのは、ある意味では解りますよ。でもそうすると、自然に演出されたり、元の黙阿弥になるんじゃないですか? それをどうやって防ぐのか、そこら辺の軍事論なり、テクニックをききたいのですが私供は。

岩田 一辺、みんなの発言をきいてみましょうよ。

会員……(間)

岩田 今、僕がちょっと戸惑っているのはね、先程からずっと外国語を聞いている感じがするんだがね。僕の日本語が日本語かどうかわからんけれど。……その共通の言葉にちょっと翻訳がない。何が問題にされてるのか、ピンとこない。もう少し喋っていったら共通の基盤が浮き上ってくると思うのだが、みんなで一緒に喋ってみませんか。

芥 ではこれだったら共通だと思うし、三鳥の話を始めましょう。何故戦後を敵にしたのか、(太字:何故戦後を敵にしたのか、)実際戦後を喜んでいた人たちが?

岩田 僕はね、問題はね、「敵にしてるのかどうなのか」、「何故自分の腹を切ったのか」、「何故そこに居る他の奴らの腹を切らなかったのか」、という問題が三島の根本問題としてあると思う、……あの、佐藤あたりの首でもチョン切った方がはるかにおもしろいんだがね。

芥 彼にはそれが非常につまらないことだった。三島にとっては、それは……

岩田 僕は、三島の事件のあったあとで、確か週刊サンケーに書かされて書いたんですけど。あれ、三島の好きな言葉に「諌死」という言葉がありますけどね、僕も、「諌死」という知識は、他の週刊誌を読んで手に入れたんですけど、「諌死」ということは、諌めて死ぬということで、一体、諌めて死ぬというのは何かというと、それは、「体制に対して反逆するんじゃなくてね、体制の主人公に対して、諌めて腹切ってみせるという行為」でしょ。それを通俗用語に直したらね、要するに、体制に対する自慰的圧力的行為でしょうね。カンパニヤ闘争でしょ。学生運動用語で言えば。

芥 それは、自分以外に正統な政党を引き継ぐ者のないという自覚に立った時にのみできることです。正統が、残された正統が自滅することによって、正統を忘れた者共を呪う。

岩田 だから僕はね、六九年の十一月決戦、いわゆるカッコつきの決戦で、あれも一種の自慰的カンパニヤ闘争で、了度それと裏腹の関係にあって、丁度いいところにある、ということで冷やかしたんですけど。三島腹切りカンパニヤ闘争と、十一月カンパニヤ闘争。あの両方とも軽蔑にしか値しない、ということ。

芥 軽蔑ですか? でも、貴方は彼を軽蔑できないではないか。

岩田 あの、僕が書いたんだけどね、真の革命的行為とは一体何なのでしょう。(太字:真の革命的行為とは一体何なのでしょう。)

芥 あれは感動的だった、少なからず。ごく単純に言って、軽蔑も衝撃も感動の内です。それは何故だっ。

岩田 ヒットラー、今、ここにある訳ですけど、ヒットラーと三島と較べたらどうでしょう、三島は、『我が友ヒットラー』というのを書いてるらしいんだけど、僕はみたことないんですが、ヒットラーは、少くとも革命をやってる(太字:ヒットラーは、少くとも革命をやってる)んですよね、体制を転覆してるんですよね。自分の革命独裁をひいているんですよね。三島は腹切ってみせるだけだ。

芥 でも、彼、思考のヒットラーは、ある意味では軍事参謀でしかなかったとも言いえます。肉のケネディではなかったのです。

岩田 ケネディというのは、ヒットラーよりも……はるか……以下でしょうねェ。

芥 以下ですか。ふふっ

岩田 演出家としても、歴史に関与するという点からいっても、はるかに以下でしょうね。

芥 そうでしょうよ、ヒットラーは言葉を知らない(太字:ヒットラーは言葉を知らない)。ヒットラーの肉は泥だったかもしれないが、ケネディは、言葉に敏感な肉だったかもしれない。例えば、自然現象に支配されている肉体を泥と言う訳です。脳髄の目醒めによってしか動かすことができない。泥でなくてですよ、自分の出会ったものと、自分の躰との隔りの間に、こちら側から一つのアクションを持ちうるだけの力を介在できる躰、それを一応“肉”とした場合、まあ、歴史があるとみた場合、歴史自体の流れを変貌さしたあたり、ヒットラーのやった仕事の方が大きいかもしれませんが、個人としてですね、完全な肉のかたまり(傍点:肉のかたまり)とおいた場合、

岩田 そりゃヒットラーの方が上でしょうね。

芥 そうですか、ありがとうございます。

岩田 君らの場合、どう思いますか? ヒットラーと三島、

芥 私には思考や生活に関る主体性がないからどちら(傍点:どちら)でもいい訳です。唯、それは生きてみないとわからないことでしょう、はっきり言っておきます。

全員……(間)

芥 では次に、レーニンとヒットラーを較べてどうでしょう。岩田先生の所感では?

岩田 それはね、行動そのもののスケールから言っても、ヒットラーの方が大きいでしょうね。あの、まず、……

芥 政治(ルビ:テーゼ)行動から言ったら、レーニンの方が大きい気がするが、それでいいのですか。

岩田 それは、レーニンの場合は、ロシア一国に留まったでしょ、ヒットラーの場合は、ドイツから発して、ヨーロッパ世界を制圧した訳ですね。

芥 日本の皇室も何か贈物をしました、横山大観か何かの絵を風景のものです。

岩田 あるいは、世界革命を演出した(太字:世界革命を演出した)んですね、で、それはね、それに匹敵するのは近代史を遡ればナポレオンだけでしょうね。

芥 でも逆にみれば、物を動かした物量が大きいということじゃないですか? 実際、鉄なり溶鉱炉なり戦車なり弾薬、近代の象徴を動かしたのはヒットラーが一番大きいんじゃないかな。個人で動かした量としてみたら、地上でですよ。キリストなんて何も動かしてないし、身体一つ分しかも手ぶらだし、マジェランは船何隻かだし、ジンギスカンは、まあ人間ばっかりだし、馬とね。

岩田 物を動かす、というより人間を動かして……

芥 近代に於ては人間も事物ですよ、だから例えば、『資本論』で、「事物がキャピタルだから、人間がその奴隷だ」という時に、ある意味で、反抗した男がヒットラーじゃないかという感じがある訳です。で、人間の側から事物を人間の道具として使い出した訳だ。けれども結局、人間を殺す以外に何の方法もなかったというあたりに、物と人間の、一つの徹密な関係が隠されていると思う訳です。で、鉄が肉なのか、人間が肉なのか、区別がつかない訳ですよ、戦車の場合。寧ろ、戦車の動いて来るのが人間が動いて来る一つのダイナミズムをもっている訳だし、丁度、その裏腹でレーニンが出て来るのじゃないですか? そして、あとでゲバラと較べて欲しいんですがね。ゲバラの場合、ある意味でも一番“孤独”だった訳ですよね、ゲバラもある意味では、演出家をなくそうとしていた訳です。……ある意味で、事物だけを動かしていると企業になるかヒットラーになるか、ブルジョアになるか。この三つ位ですよね。まあ、ブルジョアと企業と一緒にして、だから、「ファシズムか企業か」。もろに事物に向かっていくと、これ以外に方法がない。ところが、はじめて、ゲバラ(傍点:ゲバラ)という一つのサンプルが出た訳です。まあ、その一号。ある意味で医者だった。(太字:「ファシズムか企業か」。もろに事物に向かっていくと、これ以外に方法がない。ところが、はじめて、ゲバラ(傍点:ゲバラ)という一つのサンプルが出た訳です。まあ、その一号。ある意味で医者だった。)戦いやってて、一生懸命治療しているんだけど、次々、負傷者ばかり来るんで、こりゃ、治療してるより、相手を殺した方が早いというんで、鉄砲持って出てっちゃった訳だけど。……突然、そこで一つの肉体が誕生して来てしまう。……そこら辺と、このケネディが大統領になって来るその辺の人類の屈託なさというのが大変似ているのです。

岩田 その、どういう基準からもの(傍点:もの)を視るのか、という場合、それは、その人間と動かす物をね、単に、物なのか、人間なのか。人間が物を動かす。こりゃまた言いかえればね、一人の人間が他の人間に同化しながら、その、自分自身の主体に他の人間を同一化しながら、つまりオルガナイザーとして作用するということでしょ。……そういう一つの人間集団として行動する。

芥 でも、貴方達はそこらへんを実際には少しもはっきりさせえない。

岩田 君の場合はね、一人の個人がね、主体的にどう決意するかという、そこを基準にしてるんだね。個人としてどう動くか。……三島の決意度がどうであったか、レーニンの決意度がどうであったか。

芥 集団というその生成死滅律が、だから一つの集団のオルガナイザーというのが、見えない訳です。だからまず、己れのオルガナイザーに、己れの言葉としてやってゆかないと、単なる野垂れ死にになってしまいます。(太字:己れのオルガナイザーに、己れの言葉としてやってゆかないと、単なる野垂れ死にになってしまいます。)

岩田 例えば、君らは演劇をやる訳だけれども、演劇を観ている者なり、参加する人間に、意図をどういう風に──

芥 あなたは演劇をみる(傍点:みる)訳ですか? 演劇とは視る側の制度ではあるが。

岩田 僕は、余り演劇をみたことがないんだけど。

芥 通りすがる訳ですいつも演劇には、それは人々でもある。

岩田 どの程度同化しうるか、という問題があるんじゃないか。まあ素人だけど。

芥 いえ別に。まあ、君たちがいる、僕が、僕たちがいる。それの単なる殺される出会い位なものでしょう。だから、そこで文明を文化を言語を持ち込みます。いい(傍点:いい)・悪い(傍点:悪い)というモラルを持ち込んだりすることは私にはまだ余り興味がない。唯、「人間の手元に本当に演劇が帰って来てるか、ないのか、言葉があるのかないのか、人間は、自分の体を自分だけで本当に使えるか、使えないか」(太字:「人間の手元に本当に演劇が帰って来てるか、ないのか、言葉があるのかないのか、人間は、自分の体を自分だけで本当に使えるか、使えないか」)というのはまだはっきりした訳ではありますまい。社会的動物だと言いまくって、それで押しきってしまう論理が、まだ漫延している訳ですからね。

岩田 ちょっと、君の言うその意図がわからんね、僕は。皆んなに発言してもらいましょうよ、シンポジウムで、その、多数が発言して、それぞれ言おうとしている意図を絡み合わせないと、ちょっとまだ、今の、その君の意図が、さっきからどうもよく呑みこめないんだけど。何を言おうとしているのか、単なる泣き声──言葉が泣き声なのか、それとも一定の、自分の意図を僕に伝えようとしているのか。そこんとこがはっきり解らないんだ。

芥 じゃあ問題変えて、「全共闘をつぶしたのは俺だ! 」(太字:全共闘をつぶしたのは俺だ! )と言い切る時の、一つの、言葉の内容を聞きたいのですが。

岩田 「全共闘をつぶした」というのはどういう意味ですか?

芥 そんなことを言う奴がいるのか、と言ったら、岩田宏というのがいる。では会ってみようとするのです。それが会話の起因になってる訳です今こうしてね。

岩田 そりゃ僕は初耳だけどね。初耳だけども僕は、

芥 ああ、そうですか。初耳なのですか。

岩田 六八年だとか六九年の全共闘運動というのは、一辺叩き潰さないとね、その限界は乗り越えられないだろう、ちゅう風に思ったね。僕はね。

芥 何ゆえに?

岩田 あれは、戦後民主々義から急進的に変化して来たやつよ。一辺それは挫折してね、あそこからできた革命的要素がもう一辺再編成されないとね、あの《全共闘運動》が最後に到達した到達点は発展し得ないということになる、と僕は考える。

芥 でも、彼らが革命と呼んだものと、あなたが革命と呼んだものとは全然違っていたかもしれないという危倶はないですか?

岩田 例えば《全共闘運動》、東大なりそれから日大なり、それから立正の場合も、まあその後四回立て龍ったバリケード闘争ですね。あれは単なる民主々義闘争として始まったんですよ。そして、その手段がエスカレートして……つまり、戦後型の民主々議運動のラヂカルなものでしかすぎなくて、戦後全体を否定しようという、そこまでの《全共闘運動》になったのか。結果から言いますとね、戦後の民主々義運動が、急進的に、ラヂカルになって来たという、いわば急進自治会主義的な要素と、それから、戦後の体制全体、イデオロギーからなにかを含めたそういうものに対決しようという、新しい質とのね、混合物になったんですね、そして、古い質の為に新しい質の発展が妨げられた、というところに、全共闘運動の崩壊の根本原因があったと思う、だから、そういう、妨げた要素をぶち壊さないと、もう一辺再成できないというのが僕の見解ですね。

芥 それは、彼らが立て寵った時期に、あなたがそう言って歩くべき仕事ではありませんか?

岩田 僕はね、その立正の話をもうちょっと具体的に言えばね、例えば、

芥 怠惰を責めたくなる、(太字:怠惰を責めたくなる、)僕はそこにいるあなたに対して、岩田さん。

岩田 あそこで、一番初めは確か六六年頃でしたね、処分問題があるでしょう。大量処分が。そして、その飯ストから始まったんですがね。あの時に、ぼくは処分問題で協議会の中に居て、逆に中から「あの処分はちょっと筋が通らんでおかしいぞ」と言ったりして、それをひっくりかえして、あの、それはね、撤回させたんですよね。

芥 国家的見地からみれば、あれは、国家的に非常に筋の通った処置だった、唯、我々が「生きる」という倫理機構を……

岩田 いや、そのことを僕は反省してるという訳ですよ。あれはね、教授会の中でねっ、撤回させるべきじゃなくてね、君らが戦いとるべきでね。

芥 国家とはそういうものだ、と一言言えばよかったのです。

岩田 もし僕が革命的に援助しようとしたらね、もっと徹底的にやりなさいと言うべきだったんですよね、ところが、その教授会自身が撤回してしまった為に運動がなくなってしまったんですね。そういう点を、僕は寧ろ反省してるんですね。

芥 全共闘という一つの事物の直中(ルビ:ただなか)に誕生した肉の倫理機構という見方もできますでしょうに。

岩田 甘やかされた自治会運動として拡大してきた……

芥 「本を読んでるだけでは教わらないことが必然的に学ばれてしまう」という危険な大学ですけれども、肉の危機もあれば、意識の危機もあれば、心情の危機もある。だけど、そこにつっ立って肉を曝していく過程で、はじめて、「解るもの」というのが絶対あるはずだ。例えば、あそこから本当に革命が起るって信じた奴なんて、殆どいませんでしょう。やってる奴自体いませんから、余り。大体、角材て国家が倒れるっていうのは、誰も考えないでしょうからね。(笑)ということはですよ、一つの飢えが充満しているということの証しだと思うんですよ。何か、こう飢えている。何に飢えているのかよくわからんけれども、一つの飢え、人は肉を持っている以上、一つの飢えに直面した時何かを奪う──動きに必然的に出る訳ですよね。ところが実際動き出してみて……ある意味で風景をこちら側からつくれるという証しじゃないですか? だから物と人間がある訳です。今この時代は、資本は物であり土地まで物ですから、さらに物は言葉である一応、泥まで入れて、事物と人、人間、それを風景という時、物の方が風景をつくってた時に、人間の側から一つの風景をつくり出していくんです。この風景の暴力を、これ、政治からもはみ出、学問からもはみ出ているし、生活からもはみ出てるが、きわめて人間的にみえる一つの行動──本来的に知性というのは、ああいう行動をとるのが倫理属性として本当ではなかろうか、というのが結論なんです。あるいは抱え込んでいた知性がそうさせたんだと言ってもいい。だから革命になるはずはないかも知れぬ「知性」。会共闘は事物に対する知性の一形式だと言いたい訳だ。いかがでしょう。(太字:「本を読んでいるだけでは教わらないことが必然的に学ばれてしまう」〜いかがでしょう。)

岩田 どうですかね、全共闘運動の本質はどこにあったのかね?

芥 現代の知性という倫理の権力問題です。

岩田 知性としておさえていいのかね。

芥 「性」はとってもいい、「知」、その力。「力だけじゃ駄目だ美がなければ」、と言ったのが三島氏です。その言い方でいくと、かなり簡単に物に対して知性を復権させたらああいうことになった(太字:物に対して知性を復権させたらああいうことになった)というのじゃないですか? えっ本来的にあれは学生がやった訳だし、貴方ではない。学生は、考えたりせずに一つの、かってに知性というものを学んでいた訳だけど、いつからどうもそれすら騙されているんじゃないかという気になった訳です。だがこれもまた知性です。

岩田 皆さんはどう思うんですかね? 全共闘運動の到達した最高点、新しい質は何であったか?

芥 運動ではなく、世代を世紀化する上の倫理機構に於いてあれは一つの本来的な知性の形だと言いたいんです。

岩田 あの、「知」、「知」という側面から言ったらね。「知」に於ける革命的行動というのは何かというとね、

芥 「知」と革命を結びつけると死の永久的な動物の芝居になりますよ。

岩田 それはね、既成の「知」を破壊しないといかんですね。(太字:既成の「知」を破壊しないといかんですね。)つまり、従来の自治会運動というのは、学問の自由だとかね、そういうことで運動やってた訳ですよね、大学の自治だとかね、教授会とも共闘しましょう、そして国家権力の干渉を排除しましょう。──それらが従来の自治会運動だね。そして更に外側に向かっては、基地反対とか安保反対だという、いわゆる民主々義闘争をやってた訳です。

芥 でも自治会というのは街路にあって元々コミューンじゃないですか? 我々は物の上で生きてる訳ですよ。しかも肉をたづさえてこれが総てといっていい。

岩田 それはコミューンじゃないですよ。自治会というのはね、

芥 だけど実際一〇〇年程前のパリのことですが街路にあってコミューンというのをみてなかったら、マルクスは『資本論』を書けなかったであろうという正確な予感はあるし。困るのではないか。

岩田 戦後の自治会運動というのは、要するに戦後労働組合運動の学生に於ける対みたいなやつで、

芥 もっと大きく話していただけませんか?

岩田 いわゆるポツダム自治会運動。

芥 たとえば、安保というのも一つの自治組織ですよね? ……でそれは、「俺はそれを嫌いだ」というやり方が余りなかった訳ですよ。三島は……自治など要らぬという。

岩田 自治会というのはどういうのかといいますとね、自治会の規約に象徴されてる訳です。

芥 安保条約の規約に象徴されてます。世代も風俗も。(太字:安保条約の規約に象徴されてます。世代も風俗も。)

岩田 自治会の組織原理というのはね、僕から言わしたらブルジョア的な組織原則で、一人一票の多数決原理でしょ。株式会社だってね、労働組合だってみんな同じで、資本家の組織原則と全然同じなんですね。人には一つの大きさを持ってればまだいい訳ですが。
全共闘運動というのはどうでしたかね? 全共闘運動というのは、やりたいと思った奴がやったのでしょ?

芥 あれはそういう知性の形だ。

岩田 多数決も、それから大会に於ける決議も通さないで、闘おうと思う者が闘ったんでしょ?

芥 だから不便になればすぐ取り消してしまうだろう。

岩田 それぞれやったわけで、それがね、ブルジョア的な組織原則を超えたものなんですね。組織原則から言ったらそういう問題が一つある。それから、従来の戦後民主々義の「知」、それに対決して破壊しようとした。

芥 だからそう言う前に、ブルジョアにしかなれないっていう人生の可能性が半分あるということを、ちょっとお聞きしたいが。

岩田 それはちょっとその逆でね。それは『資本論』は、紹介の立場から、つまり将棋の差手の立場からね、体制がどういうものであるかを……

芥 マルクスにとって将棋の差手というのは何だったのでしょうか。マルクスという肉を差したものだったのでしょうか? (太字:マルクスにとって将棋の差手というのは何だったのでしょうか。マルクスという肉を差したものだったのでしょうか? )

岩田 まず『資本論』自身の方を先にしますとね、資本を差手とする戦略、資本の側の戦略戦術なんですがね、何故マルクスはそれをやったか。

芥 「何故マルクスが『資本論』を書いたか? 」です。きっかけです。何故あんな書物を書いたのか、弁護士にならなかったのか、あの肉や身体は。

岩田 つまり、何故資本の側からの書物を書いたのかということですね。

芥 それがわかれば、「何故多吉氏が此処に出て来ていないのか」もわかる筈だ、

岩田 それは資本をね、トータルにね、ぶっつぶそうと思ったからで、一辺敵の側に立ってね、むこうの側からもの書いてみたんでしょうね。(太字:それは資本をね、トータルにね、ぶっつぶそうと思ったからで、一辺敵の側に立ってね、むこうの側からもの書いてみたんでしょうね。)

芥 何か信用できない。

岩田 それはね、革命運動というのは、体制を部分的に直す、悪いところを直すというような運動でなくて、トータルにひっくりかえそうとするものだからで、

芥 やっぱり物の変貌。事物の暴力に対するマルクス自身の肉の危機っていうのがあったんじゃないですか? (太字:やっぱり物の変貌。事物の暴力に対するマルクス自身の肉の危機っていうのがあったんじゃないですか? )だから哲学をやっててやめちゃうし.....

岩田 トータルにぶっつぶすには、相手をトータルに把握しなきゃならん。

芥 大体マルクスの卒論というのは、ギリシャのデモクリトスでしょう、原子論ですね。法を学びながら事物論をやる訳だし、実際土地の上では産業革命は勃発しだすし、だから土地が一つの飽和状態に達しちゃう訳だけれども。肉体という精神と物質の宇宙的結合が、今度は土地自体を変貌させるものを持って来なくちゃならない。精神の人道主義が物質の権力主義と一致します。そこで鉄──例えば妊婦までが炭坑降りてって石炭掘る訳だけど、

岩田 君、そのマルクスのやつがデモクリトスの原子論だというのはね、一体、デモクリトスというのを読んだことがあるのかね? どういうことを書いてあった?

芥 殆ど忘れてます、というのは人間は五才にして自殺する。しかも全部を考える。あらゆる知性は早熟です。

岩田 そういう忘れたようなものをね、持ち出さん方がいい。僕はデモクリトスなんか読んだことないからね。

芥 だから実現性が甘いのです。

(間)

結局、原爆を予感してた訳ですよ、予見した訳ですよ、デモクリトスは。浜辺でね原爆を予言した訳です。念の為。マルクスは予言しない。唯まあ、物は勝手に動き出した。だから物より先に人間の方が動手に動きだしてみないとその関係は、わかんないでしょ(太字:結局、原爆を予感してた訳ですよ、予見した訳ですよ、デクモリトスは。浜辺でね原爆を予言した訳です。念の為。マルクスは予言しない。唯まあ、物は勝手に動き出した。だから物より先に人間の方が動手に動きだしてみないとその関係は、わかんないでしょ)……例えば、教授であれば学生に何かに関する予見を──今直面している一つの物に対する予感の信頼性を答えてなくてはならない。

岩田 そういう、そのむつかしい言葉で言ったってね、僕はね、普通の日常用語しか知らんから……

芥 我々を納得させて欲しいのだ、安心できるように。ああ安心できない。僕は、来る日も、来る日も、来る日も。だから僕は僕で安心させる方法しかないから、こうしていて相手が本当に平気で言ってるのかどうか、やっぱり言葉をいちいち確かめないと信用できなくなってしまう。安心させて欲しいんです。……信頼できる言葉があればその通り動くでしょう。肉ですから。(太字:……信頼てきる言葉があればその通り動くでしょう。肉ですから。)そういう人が教授であって欲しいのですが。こういう時代には。

岩田 教授というのを一体何と考えてるというのかね?

芥 教授でもちゃんと自殺したりするんです。自分の言葉の為には。ソクラテスとかふふっ。

岩田 教授というのを一体何と考えてるというのか……

芥 アレキサンダーをけしかけたり、……例えば、石原慎太郎をけしかけて、田中幹事長を刺させるようにしむけるとか、そういう事を力として示して欲しいのだ、それは貴方の教授としての言葉の実現です。我々を動かすに足るだけの言葉をみせて欲しい。吐くだけじゃない、言葉というのは。例えば、言葉の美に対しては三島からこの土地は復権させられた訳です。それは三分の一だ。残った三分の二がある。もう一個の三分の一は物の暴力から教わった。あと三分の一……(間)じゃあ、あなた学生に期待しないんですか?

岩田 僕はネ、学生だとかネ、教師だとかいうそういうのは全然念頭にないですね。

芥 それは、あなた自体が学生だからじゃないですか? 学びながら生きるんじゃないですか? 文字通り……

岩田 そういうことでしょうね。

芥 ウン……それが近代の退屈だと思うんですけどね。下手すると一九世紀が二百年続きますよ。(太字:下手すると一九世紀が二百年続きますよ。)おまけにそれは下らぬ民主教育じゃないか。

(間)

岩田 前の自治会運動というのは、戦後民主々義でネ、大学の自治を保つ、守るというもので、教授会とも共闘しようとする、それが民主々義ですよね!

芥 それが民主々義と言ったら徳川の階級ですよ。あれはあれでまた、民主々義じゃないですか? 要するに自治会が縦に、サンドイッチ型になったんです。

岩田 僕は、全共闘運動の一つの、あの、

芥 この土地でいざ事を起そうとすると、総てが吹き出して来ますよ。そういう問題が。……肉の幻想、歴史の幻想、物の暴力に、観念の不可能さ、だから、戦後、戦後って言ってないで、戦前でもなく今在る事としてもっとそれをやんないと、この土地っていうのはもの凄く湿っています(太字:この土地っていうのはもの凄く湿っています)から、実際生きてみて解る訳です。

岩田 大学という体制自体に対決したというところになるのではないですか?

芥 例えば、吉田松陰も一つの大学を持っていたではないか、と言いたいんです。肉が絡なって(編注:ママ)、松下村塾。で、彼は自分の吐いた言葉には、肉でうけ負ったのですからね。あれは教授です。弟子が何をやったかみれば解るでしょ、学生が何をやったのかね。

岩田 教授というのは、読んで字の如く、「教え授ける」という──

芥 そう。その代わり、おとしまえはつけなくちゃなりませんよ。肉のね、非人称でなけりゃなんないのだから。演出家がいてはまずい訳だから。若い命を相手にする時は。

岩田 僕は、教え授けるという──

芥 演出の証拠を、とにかく、やんないと。

岩田 のでなくてね、数に対話してる、(太字:数に対話してる、)ということですね。

芥 喫茶店だってウェイトレスが対話してますもの。

岩田 だから僕にとっては、大学も喫茶店も区別はないのだからね、唯、顧われてアルバイトやってるということだね。

芥 じゃあ奴隷だ。ハッハッハ、近代の奴隷だ。しかもなあ、でも。

岩田 だから近代の教授という身分にね。

芥 あなただってオマンコするわけでしょ? (太字:あなただってオマンコするわけでしょ? )

岩田 その制約された時に、

芥 その時、自分の大脳に詰まっている知識とキンタマの発情とが一致しないで悩んでいるんじゃないですか?

群衆 そうだよ、(ざわざわ……)

芥 全共闘ダメだというのは、そりゃ構わない。……(間)そりゃ彼等の裡にあったわけだから、僕自身に、二児の父はある大学へ入っていろいろ時をやりすごす。金が無い時に女と寝る。何かこう辻褄合わなくて、でたらめに肉が不条理に走るから、これをつなぎ合わせるのにはどうしたらいいのか、お前という言葉が来る。女には俺以外の言葉を与えりゃいいのだ、ということで、まあセックスを権力的に処理するわけです。出生を手にするのが先であり後はもし教わったら、教わった分だけ返しゃいいということだけでわざと大学に行くことにしたりする。

全員……(間)

芥 例えば、トビ職が発情して革命家になるようなことが起らない限り、この土地は相変わらず無事でしょう。ついにはインフレ経済が詰まってデフレになって来て、物が勝手に動き出す。二〇年以内に、また、また、(傍点:また、また、)というようなことになるし。全員が、カフカ化する時代が来るでしょう。(笑い)どっから時間がやって来ているのかわからない。唯生きている。でも生きているという証拠がない。で、そういう人物、だから今の岩田先生みたいな人物、ちゃんともう出てるでしょう、ヒットラー以前に。だから、あなたを救うのは、やはりフャシズム(編中:ママ」)しかないのです。あるいは、右翼です。殺しゃあいいんです。肉体は一つの言葉だ。肉体と言葉を取引する訳ですよね。でもそれは、この土地の習慣ですよ。美にされちまいます。国家を祟えるように死にゃあ、結局死ぬわけですからね。(太字:だから、あなたを救うのは、やはりフャシズムしかないのです。あるいは、右翼です。殺しゃあいいんです。肉体は一つの言葉だ。肉体と言葉を取引する訳ですよね。でもそれは、この土地の習慣ですよ。美にされちまいます。国家を祟えるように死にゃあ、結局死ぬわけですからね。)

(間)

結局、全革命家は詩人になってしまいますでしょ。(太字:全革命家は詩人になってしまいますでしょ。)恐らく。

岩田 君ら、全共闘運動をどういうものと思っているのか、あるいは総括しているのか、ちょっとそういう話をきかせてくれませんかね?

芥 それは「現代の知性の一形態です。」

岩田 あるいは自分たちが、何の為に、どういう理念で行動したのか。

芥 人は理由がなくても動くことができるということの証しが、全共闘です。群集処理大変だったということですね、非常に。だから理由がなければ動けなかったというのが近代です。意識に対象がなければ動くことができなかったということが。(太字:人は理由がなくても動くことができるということの証しが、全共闘てす。群集処理大変だったということですね、非常に。だから理由がなければ動けなかったというのが近代です。意識に対象がなければ動くことができなかったということが。)例えば、「花がきれいだ」と言いながら、脇のホモサピエンスに手が屈くかというと、ある程度できるわけです。ラジオ聞きながら受験勉強して東大入れるし、東大入りながら、こう、家族を営みながら伊勢丹まで散歩することもできるし。だから《断じて現代人でなければならない》(太字:断じて現代人でなければならない)のです。……もし『資本論』を実行するんだったら、マルクスより頭のいいやつがやればいい。もし佐藤栄作を殺すんなら、佐藤栄作よりも政治に苦しんで悩んで日本を憂えている人間が、やればいい。あなたは佐藤栄作程悩んでない。いまだ。……そういう悲惨を、我々は憎むんです。……あなたの悲惨と同化して、同化させては、あなたにとってもマズイ。我々にとってもマズイ。だから、それは憎もう、というんです。……例えば多吉氏のように、こう、一つの、単なる道化になってしまうんですよ。(拍手)

清水多吉もニヤニヤしてまた入場してくる。そして中央の椅子に座らされる。

芥 こっちがいいな、今度は。ナ! あっちはどうです? 誰が天皇だか分らない……

清水 いやいや、正直のところ、内ゲバでこの位の経験は毎度だ、(とても得意そうに)

芥 そうですか、そうでしょう。

清水 どうも失礼しました。

芥 《断じて現代でなければならない》という全共闘は、一つの知性の一形態である、という話をしてたんです。あとそれを聞いてですね。あの、自己弁護の権力みたいなのをちょっとお話しして頂けますか? それは、歴史の権力としてですね。

清水 はい。まあ、あの、
どうか、あらたまらないで下さい。私ももう一回ここへ入って来たのは、本質的に好きなんだ、やっぱり。(太字:私ももう一回ここへ入って来たのは、本質的に好きなんだ、やっぱり。)(笑い)あのね、私の、どうか今までの通りでやって欲しいんだけど。〈言葉がなかった、ファシストたちは、言葉をもたなかった〉という話をしたでしょ? ところがね、これは芥君とも討論したいと思ってたことなんだけれども、実のところをいうと、言葉がなかったら、じゃあ何があったかと聞かれた場合にね、まあ、その当時に生きていなかった私にしても、それから当時生きていた彼ら自身でさえも、恐らく否定形でしか語れなかったと思うの。つまり、またこういうこと言うとやっつけられるかもしれないけれども、(少し不安そうである)

芥 言葉がなかった時代というと、「キリスト」以前という話になりますね? 起源前……

清水 ええ、もうちょっと言わせてもらうとね、「乏しき時代」と呼んだ人の、ジェルティーフ・ゲ・サイタというんですが、何が乏しいかというとね、「これが乏しいんだ」という言葉を決して吐かなかったんです。で、まあ学校の教師みたいな話をしばらく続けますとね、確かに、あの「失われた世代」とか何とかいう風にして、他の国では言うけれども、ドイツの場合の二〇年代というのは、「乏しき時代」と人は呼んでいるのです。「乏しい」というのは、何が乏しかったのか、何が飢餓的な状態だったのか、ということについては、ついぞ誰も語らずにです。また別の名前を、「子息たちの反逆の時代」と呼んでいるのですよ。一体何に反逆したかというのも、これ決して語らずです。で常に、あの、「何が? 」と聞かれて答えることができないわけです。(太字:で常に、あの、「何が? 」と聞かれて答えることができないわけです。)が確かに、彼らには、あの、えー、 答えられるんじゃないかな?

芥 包囲されていたこと、

清水 あ、包囲はされていた。

芥 例えば、刑務所の中に入れられて、「お前の体は柵に触れてないから自由だ」と言われて、納得しろみたいなことでしょ? そしたらやっぱり「ジェーリコ!」とやりたくなるから、

清水 うん。

芥 だから、大人たちはもう納得してしまっているから、

清水 その、そうなの、まさに二〇年代というのはそうだったの。ところがね、これでヒットラーの話に持っていくんだけれども、実は、こういった堰を切って流れるような子息たちの反乱というので、今度は政治史の方と半分ひっかかるんですがね。左翼があの、リーダーシップを奪い得たか、右翼がリーダーシップを奪い得たか、というと、所詮左翼は駄目だった。その時について、あの、最終的にそれを集約したのは、あのナチス革命だったわけです。

芥 うん、

清水 が、私、あの、初期ナチズム運動は、ヒューマニスト、あの、ヒューマニズムではないとは言わない。(太字:初期ナチズム運動は、ヒューマニスト、あの、ヒューマニズムではないとは言わない。)最初、あの、芥君、が、「ヒットラーでヒューマニストで」とこう言ったけど、まあ、ニヤニヤしながら聞いてたんですがね。これはね、岩田先生とは多分、意見の対立点になるかと思うけど。初期ヒットラー運動というのは、勿論、いつからいつまでの時代かな、と言われると、これまたいろいろ話がありますけれども、「父親殺し」のテーマ、「子息の反逆」というので、一つの時代の精神だったわけです。時代全体が乏しかった。つまり、「意識が動かしたのか、存在、が動かしたのか? 」と聞かれても、あの、ついに答えることができなかった時代、そう、あの、えー、例えば、「鉄兜団」というのがあったわけですがね、二〇年の半ば位に、ナチスよりも大きく勢力をもっていたグループなんです。この「鉄兜団」が、全右翼をうって時間として、ドイツ救世主にあるいは成り得るだろうという幻想をもたれていた時代もあったんです。しかし、終局的にはやはり、ナチスがリーダーシップを奪いかえしていきますけれども、あの、結局のところ、乏しき時代の青年たち、この青年たちは、「意識か、存在か」という問いを、本当に綿々とやって尚かつ、そのどちらとも判定をつけることができず、常に乏しさを感じ、父親殺しを常に思い描き、そして集約されたのは、ナチス運動だったのです。(太字:結局のところ、乏しき時代の青年たち、この青年たちは、「意識か、存在か」という問いを、本当に綿々とやって尚かつ、そのどちらとも判定をつけることができず、常に乏しさを感じ、父親殺しを常に思い描き、そして集約されたのは、ナチス運動だったのです。)ナチス運動が悪かったと言っているんじゃない。勿論、あの、ナチスの諸々の処問題というのは論じつくされているわけで、その点について、とやかく私、言おうとは思わないけれども。ところが、その子息たちの反乱の中で、いつの日にか自己弁明が入って来たんです。

芥 サビンコフたちも、「子息たちの反乱」でしょ?

清水 その、サビンコフも「子息たちの反乱」です。で、ドイツの場合は、ちょっと時代がきれて、

芥 その期限がどこに入るかといえば、息子たちが帰って来る話で結局ギリシャ神話のディオニソスに、

清水 そう思う、思います。(間)で、自己弁明という点については、あの、反逆史は企てていた子息たち自身が、実は、あの、自己弁明を既に持っていたんですよ、その自己弁明は何かというとね、え、これは、まあ映画の話しなんかするとまた笑われるかもしれないけれど、二〇年代の半ば頃から、非常に興しろい(編注:ママ)映画が盛んになってきたんです。例えば、『カリガリ博士』やなんかだったら、あれは、一九一九年だったかな? 二〇年代だったかな?
うん、一番新しい映画なんですがね。二〇年代に入ると、父親と子供の対決をテーマにした有名な映画が、いくらでもできるんです。えーっと、ドイツ表現主義映画展というのはもう終っちゃったけど、フィルム・ライブラリーでやってましたからね、機会があったら、どっかでやるでしょうからみて下さい。例えば、「ロイ天の讃歌」という大変、あの、有名な映画があります。ロイ天というのは何かというと、あの、ドイツ史をやっておられたらずくおわかりだろうと思うけれども、フリードリッヒ大王、フリードリッヒ二世の生涯を知っておられるでしょ? これは、父フリードリッヒ一世に対して、あの、果敢な抵抗をくり広げた若き日のフリードリッヒ大王の物語っていうのがあるんです。この、『ロイ天の讃歌』という映画は、フリードリッヒ二世の青年時代を描くわけです。そうすると、見事に「子息たちの反逆」「父親殺し」というテーマがあって、どんでんがえしで、あの、父親像に癒着していく物語が、『ロイ天の讃歌』で高らかに歌いあげられるわけです。

芥 でも、この土地は、「兄弟殺し」と「親からの追放」でしょ? ヤマトタケルもそうですしね。実際この土地と、その、それだとヨーロッパは天才だったかも知れないという話ですよね。ある、もう一つは、国は血縁によって成されていると言う結論になってしまうし。もし、革命が起こった場合、国を血縁で成すのか、まあ国自体消すんだと言いながら。そうすると、人類自体が血縁になってしまうし。「親とは何だ! 」という一言に対して自己弁護して欲しいんですが。

清水 私にとって“親”はまぁ、この年になって親というのもないけどね。えー親とは社会の規範です。(太字:親とは社会の規範です。)

芥 夫婦もまた社会で?

清水 そう。

芥 じゃあ、親が子を持つということは何ですか?

清水 それは生物学的な、

芥 いえ違います。今日私は見せただけだ。親が子を持つということはどういうことかという一形態を。噴水の脇でね。私の子供は二人いたはずだ。友人の子供が一人。母が何をやって、父が何をやってる。で、今父が何をしているか!

清水 うーん、では子供とは芥君にとって何ですか?

芥 肉にとっての肉です。……相方が肉の形をみあわせない限り、そこには単なる国家の餌食しか存在しないだろと言うんです。私は人はこうやって生きる、ということを教えますでしょう。私の仕事には命は語らない。語っているのは死だ。私は生きている。生きていることは希望以外の何ものでもない。僕は居ることでそれを義務づけるわけです。意識は終焉し、存在は逃走する……(太字:肉にとっての肉です。……相方が肉の形をみあわせない限り、そこには単なる国家の餌食しか存在しないだろと言うんです。私は人はこうやって生きる、ということを教えますでしょう。私の仕事には命は語らない。語っているのは死だ。私は生きている。生きていることは希望以外の何ものでもない。僕は居ることでそれを義務づけるわけです。意識は終焉し、存在は逃走する……)希望の義務化──こいつはいつもふしだらな親を見て子供が行うのです。だから、ヒットラーもある意味で希望を義務化したわけです。代表して。

清水 うん。そうは言える。

芥 すると、全共闘たち、教授たち、ある意味で父親側が、いかなる希望を義務化して見せてくれたか。例えば、もし飢えたる者が二人居る。互いに同じ程度飢えている。殆ど死がせまっている。その時に一方の男が自分の腕を喰らい出した。それを見てもう一方の男も喰らい出す。それが父と子なんだ。これで、マルクスは根本的に崩れる。何の闘争も起こらなかったそこには、一つの存在の言葉が介在しただけだ。(太字:例えば、もし飢えたる者が二人居る。互いに同じ程度飢えている。殆ど死がせまっている。その時に一方の男が自分の腕を喰らい出した。それを見てもう一方の男も喰らい出す。それが父と子なんだ。これで、マルクスは根本的に崩れる。何の闘争も起こらなかったそこには、一つの存在の言葉が介在しただけだ。)これはもう、二〇年近く前から表現されていることだ。私の家庭には、それがありますよ。マルクスに邪魔させない。僕が生きる。親と子が生きるのに。フロイトも邪魔させない。

(間)

清水 私、あの、えー、言葉でまた言わしてもらうよ。あの、私とあなたは関係ないけど。あの、この点はどう思うの? 「理性の光の元では常に敗北を運命づけられるだろう」という──

芥 理性は一つの病気です。(太字:理性は一つの病気です。)

清水 そうだ、そう思う。

芥 そういう病気の中で一番重い病気が希望なんです。これはなかなかかかりづらい。すぐ絶望にまわされてしまうんです。

清水 肉と肉との、あの、触れ合い。それが病気。何故?

芥 何故それが病気かと言ったら、

清水 うん、

芥 自然現象の一つだからです。肉の中に潜む、

清水 いや、現実の問題の一つとして、必ずや理性の光の元で、これは「それがいいのだ」と言ってるんじゃないよ。

芥 ある意味で、私の手があなたの顔面に近づけた意志が、理性です。

清水 それがもとで滅ぼされると思わないか?

芥 え?

清水 滅亡させられるとは。

芥 そういう肉の危険は承知の上で尚かつ、

清水 うん、

芥 彼らがいるよ。名誉の問題だ、これは。僕には人質の子供がいるんだ。いいかな父親がそんな不名誉なことやってたらしょうがありませんでしょ? 歴史に包囲されているのは知っていても、わざと子供たちには包囲されていないということだけを教えてやるのです。肉の肉に対する笑いが……僕は。……僕だって安保があることは知っている。左翼があることも右翼があることも国家があることも知っている。どこで戦車が使われているかも知っている。だが戦車はない。「父さんほどの戦争があるかい? !(太字:父さんほどの戦争があるかい? ! )」それでいい。当然原爆が爆発しても、「ほら、父さんの演劇のこれが先輝だってね」

清水 うん。

群集……(間)

芥 私はエセイニンよりロルカをとりますから。ブレヒトよりゲバラを。フロイトよりフーリエ、トロッキーよりブランキー。教授より吉田松陰。……慎太郎よりふふヤマトタケル。土地を被(ルビ:おお)ってる全的虚構をみせない限り、動き出すことはできない。やっぱり、結局何かに騙されてしまう。……これを自己弁護だと決めつけて下さればよかったんです。今、私に。それは貴方の名誉だ。

(間)

岩田 あの、この間『情況』でナチをちょっとやったでしょ?

清水 ハイ。

岩田 あれは僕はおもしろいと思って読んだんです。あの清水さんがね、『情況』でヒットラーを書いたその論点が、あの、あの、従来のナチスに対する批判というのはね、いわば、体制側からの批判にすぎない。しかもブルジョア・デモクラシーの立場からのナチに対する批判にすぎない。で、公認左翼がね、そういう立場からのナチ批判に陥っている、ということ自身に、根本的な腐敗があるんじゃないか。で、少なくとも、ナチというのは一種のナチ革命。あのナチ革命をさらに批判し得る立場は何か、という問題を提起していたんですがね。丁度、ドイツの三〇年代に、ドイツの戦後民主々義が行き詰まっちゃって、そこからナチ革命の問題が出てくる。あの時、問題は、そのナチ革命か、あるいは真の意味のプロレタリア革命か、という形で提起されていたんでしょうね。だけども、真のプロレタリア革命を組織する、あるいは、そのものの主体になる勢力が全然なくて、ナチ革命に組織されていた。ではナチ本命というのはそれでは何か、と言いますと、まあそこでは、『情況』の清水さんの論文では、いわば失業者がね、体制から外に、いわばアウトローとして放り出された部分を主体にした、ということで、一種の貧民革命か、ルンペン革命(太字:一種の貧民革命か、ルンペン革命)のような意味でちょっと書いてあった。

芥 それは、サルの社会にもあるんだ、実際。こう群からはずれた一人ということで生存が本質化する。サルの知性に過ぎない。

岩田 あの、そこ、僕のところはちょっと。僕の意見とは違うところですね。ナチ革命の主体は、寧ろ、プロレタリアであったとみなきゃいけないのだね。

芥 日本で言えば、“天皇”です。いつもファシズムは“天皇”革命主義とされてしまう。

岩田 いや、“天皇革命”“天皇”というのは地位もあり名誉もあり、頂点でしょ。

芥 これは聞いてみればわかる。実際のプロレタリアートにとって、何がいちばん……自身を権力的に興奮させるかとね。

岩田 ナチ革命というのは、伍長と突撃隊を部隊にする革命だからね。

芥 “天皇”の正統争いといっても革命じゃないわけです。毛沢東を“天皇”にするか、何を“天皇”にするか。では本当に“天皇”と言われる“天皇”を“天皇”にする必要が、というのが右翼ですよ。右翼も又革命の一構造です。

岩田 その突撃隊の中心部隊は、やっぱりプロレタリアだったとみなければならない。
あの、ナチ革命の、それじゃ本質は何か、

芥 だって一九三〇年代ドイツはそれでいいですけど、日本はどうなんですか?

岩田 僕に言わしたらね、あれは偽似プロレタリア革命で。

芥 今さらドイツに移住するわけにもいかないでしょ。いくら解釈されてもねえ。

岩田 ドイツの人民大衆っていうのは、それをプロレタリア革命と信じてね、あの中に参加していった。従ってナチスの第二次世界大戦というのは敗北ということはね、ドイツの大衆に即して言ったら、ナチ・プロレタリア革命が敗北として映った。そこに、あの、

芥 全共闘が敗北したのではないのと同じように、ナチスも敗北していない。よもや敗北はしてない。(太字:全共闘が敗北したのではないのと同じように、ナチスも敗北していない。よもや敗北はしてない。)

岩田 第二次世界大戦のドイツの労働運動のね、絶望的な混迷があったとみなきゃいかんのじゃないか。

芥 国家は変っていない、日本の面積は変わっていないんだ。君……。一九三〇年代の日本はどうだったのでしょう。そうすれば、ドイツのことも、もっとよくわかるな。

(間)

清水 岩田先生の意見もまた、詳しく聞かして頂きますが、それじゃ、こっちにくいつきますヮ。あの、「父と子との争い」というより、「兄弟殺し」のあれというのを、もう少し教えてくれないかな?

芥 例えば、革マルと民青と。(清“ああ”)MLと何とか。(笑い)それも兄弟のあれでしょ。小さい話で言えば。大きい話でもいいですよ。朝鮮と日本。……もっと大きくすれば、人類と人類の手によって作られた得体の知れない事物との。……父はまた子でしょ。だから、人間が事物によって自然に対して武装したのか、自然が人間をして事物を誕生さしたのか、自然自体が武装したのか、どうやら自然が武装してしまったのではないか、という危機で、僕たちはさらされている。原爆も、人間が爆発させたんじゃなくて、一つの自然現象の起結。当然、人間も自然現象。だから、そのまま──という話になってしまうわけですけれど。

清水 うーん、兄弟殺しな、

芥 はっきり「歴史はない」と言いたいのです。だから、自己を正当化しない限り言語は手に入らんし、革命も手に入らんし、国家も手に入らんし、国家たり得ることも。だから、人間たり得ることができない、っていう話です。必ずどっかが動物なんでしょう。

岩田 まあ、清水さんみたいに、「父殺し」を体制に対する反逆に。「兄弟殺し」を内ゲバにしたら、内ゲバと体制に対する闘争との連関いかん、という。

芥 父がいないときに父になっていく者たちが現われたときに、それに誕生してくるものが言いたいことではないかと思うんです。……父がいると、のっけから決めてしまうことは、何ものかに対する、敗退、意識、結局、日本人の特性じゃないかと言いたいんですけどね。例えば、日本がどうやってできたか、大陸で、この大移動してきた諸侯が東端の島に辿りついて国語を作ってきた。そこから誕生してきただけのことだ。どうやら『古事記』を読んでいるとそんな気配がするんですが。『資本論』読んでても、どうやらこう、事物に敗退してた、──ある一つの単なる危機感だけを心情的に流布していく。どうしても宗教化してしまうわけですね。「教興宗教」例えば『資本論』読んで革命に参加っていうか、こうして全共闘に参加する人間より、ロートレアモン読んだり、ランボーを読んだりして全共闘に参加した人間の方が余っ程多いわけだ。

清水 実際はそうかも知れない。

芥 なぜだろう。こういうことは解っていても言いたくない。

(間)

芥 あと一つ。小学生や中学生の時学級委員やっていたような男の子が東京へ来て、みんな東和工業とか何とか工業とか、そういう一つの美の集団へ入っていくわけです。例えば、東大生の殆どが官僚になるということもその現われ。

清水 東大生の殆どが官僚にならんね。

芥 いやいや、もう今から官僚ですよ。法学部の授業に遅刻する人間の方が少ないということは何か。時間の観念からしてそうできている。

(間)

芥 で、現代の街路に於いて、父と子という問題は、もう、もはや殆ど形態がありませんてしょ。形態としては。(太字:現代の街路に於いて、父と子という問題は、もう、もはや殆ど形態がありませんてしょ。形態としては。)

清水 形態としてはね。

芥 え?

清水 というのは、あのプチブル家族では、父親というのは、かつてのような家父長じゃないからね、兄弟殺しか──。

芥 これが解決つかないと──。大体、多産型ですからこの国は。構造主義にはピッタリする位の。

(間)

芥 例えば、人間が本来的に肉だけを体に持ったとしたら、だから、自然から奪(ルビ:うば)ったもの、体であったら、政治にしか興味がないはずです。だからこそ、こう肉の危機におびえてしまうわけだ。当然、いかなるものも政治になる。喫茶店に行って、脇のやつが自分と違う話をしているということ自体が、もう、一つの政治の権力としてそこにあるわけです。だから実際こう、ある政治家を殺すなんて、殆どもう政治的じゃない。寧ろ、政治的幻想をまき起こすだけの、もう醒めた状態てしか起こり得ないと恩います。……人間はきっと、本来的におびえなくてはいけないと思うんてす。僕は、「おびえる」──これが一番人間的なものです。おびえがないと、もはや何もしない。(太字:寧ろ、政治的幻想をまき起こすだけの、もう醒めた状態てしか起こり得ないと恩います。……人間はきっと、本来的におびえなくてはいけないと思うんてす。僕は、「おびえる」──これが一番人間的なものです。おびえがないと、もはや何もしない。)

清水 何に対して?

芥 だから、父から殺されるという危機が、兄弟どうしにあったとする。と、父から可愛がられなければならない。すると、可愛いがられる為に兄弟を殺す。

清水 あんたずるいよ。フロイトなんて関係ないと言ってながら、言ってるじゃないか。

芥 あなたがフロイトのお話をしたからですよ。記憶が戻ってくるんです。

清水 うん。モーゼと一神教を、

芥 それは昔の不調和ですね。やはり。

(間)

芥 こう、何人かの人がいて、

岩田 僕は、その兄弟殺しについて、

芥 いつ、人が人であることを証明する形態が誕生するのかわからない。

岩田 何が意味しているのかわからないけどね、「兄弟喧嘩」ちゅうのを、「仲間喧嘩」ととればね、そして、「父殺し」を「体制に対する闘争」という風に解したら、本当の体制に対する闘争というのは、兄弟喧嘩を、兄弟殺しを通して。「体制に対する父殺し」の闘争、そういうのが、そういう渦中でないと出ないというのが僕の考えてすね、(太字:本当の体制に対する闘争というのは、兄弟喧嘩を、兄弟殺しを通して。「体制に対する父殺し」の闘争、そういうのが、そういう渦中でないと出ないというのが僕の考えてすね、)……つまり、味方なり、あるいは自分たち自身の内部の闘争が遂げられないと体制に対する真の闘争は組めない。五八年なり五九年なりの全共闘運動も、そこにあるんじゃないか。

芥 ただ、思考が思考で倒せないように、体制では体制を倒せない。

岩田 つまり、あの仲よし全共闘だというところに問題があったんじゃないか。内部関争を(芥“それは全共闘に期待しすぎている”)徹底的に遂行してないんじゃないかというのが僕の一つの見方ですけどね。

芥 我々は何にも期待しない。(太字:我々は何にも期待しない。)その宣言だったのです。ある意味で内ゲバは、父の不在そのものを伝えてるわけではないですか? 一方で事物からの逃亡、言語の欠乏だからつい言語を信じてしまう。「自己否定」言うと、猫もしゃくしもそうに走る。やってること自体は、もう自己を否定するんだから、そんなことは言う必要は殆どない。……唯、行動を行動で殺そうとする時に、そこに権力がみえてくるんですね。思考を思考で殺そうとした時に意識が誕生したのと同じように。では、肉を肉で殺そうとした時、そこに何が起こるか。(太字:肉を肉で殺そうとした時、そこに何が起こるか。)……人は人を殺せない。なぐり殺したとしてもこれは事物になってしまっていて、人とは言えない代物なのだ……で、土地全域の虚構の淫乱をかちえている肉を父と呼んで、奪(ルビ:うば)われた分だけの狐独をかちえた多数を子息と言えるんだったら、まだ話はわかります。そうすると、キャピタルというものが父で、資本家は事物の必然より、そして、人間が全体的に、こう、貧(ルビ:ひも)じい子息たちになる。事物がみて笑っているというのはまぬがれませんですけどね。全共闘ですら。ヒットラーですら。ロートレ唯一人だ楽しそうに遊んでいるのは。そこで、サピエンス終焉以後にもう一度ホモルーデンス。いや、かつてなかったのかもしれませんが、労働を労働で殺すことからは、もはや何も生れてこないということは、わかってる訳でしょ。総評みてもわかるでしょ。労働でないもの、勇気。で、労働は勇気の一形態。発狂しない為に労働している、時間通り。だから、時間通り遊ぶことを労働と言えばいいわけです。時間は人間が手にしたものじゃないし。だから地球の時間に抗(ルビ:さか)らって生活してみせたのはマジェラン。地球がもってる時間にさからって生活したわけです。だから、食事の時もあいつはかぶとを被ってメシを食うわけです。いつひっかえそうとするやつがいるかいないか。船の中に何があったか。……だから、言葉が即、力でなければこの船を進ますことはできないし。(太字:……だから、言葉が即、力でなければこの船を進ますことはできないし。)かといって人が仕事をしなくちゃなんないから、その言葉自体が一つの安らぎをもたらせないと思う。それは、もう肉でしかやれないのではないか、と言ってるわけです。意識でもないし。ところがみんな泥になってしまう。だからセックスして酒を飲んで、血の思い出にひたる。血の思い出。その血の思い出が、知識がつくに従って歴史となるのだ。そうするとまた、夢の中にたたきこまねばならなくなって、自然現象という歴史の夢の中へ。そこから醒めるのが問題だったんですけどね。

清水 うん、あの、しかしね。あの夢の中から醒めた時にね、自然的な意味での突急死でなくてね、死が訪れると思うんだよ。僕は。

芥 だから言葉がなければ人間は生きられる。

清水 生きられないんでなくて、死が訪れる。

芥 そうです。死に形を与えて死を実現するのが……恋、恋です。

清水 うまく言えないよ。

芥 そう。

清水 エロスが実現されたということは、死を意味するんだな。(太字:エロスが実現されたということは、死を意味するんだな。)

芥 だからこそ、エロスを屠殺するのが言語だ。(太字:だからこそ、エロスを屠殺するのが言語だ。)

(間)

芥 三島という肉のエロスを屠殺したのが、「戦後」という事物だった。

清水 物という事物?

芥 そう。事物の時代。彼にはインスタントラーメンが何故美しいかわからなかったのだ。あのきれいな包装の事物が。あれが食糧だと思うところから、もはや何にも生れはしまい? 企業が表現主義を営んでるんです。現代は。みんな修練になってしまう。

清水 うん、そりゃそうだ。

(間)

芥 一つの苦悶するところしか行為は誕生しません。それは、それ以外はすべからく、行動、運動。結局は社会捧仕になってしまう。カオスというのは、ある意味では、死の沸騰です。(太字:カオスというのは、ある意味では、死の沸騰です。)(間)急に肉に、無時間が訪ずれるんです。無時間のエロス。(太字:急に肉に、無時間が訪ずれるんです。無時間のエロス。)

清水 うん、そうだよ。

芥 そこへ体をさらしていく言葉を吐かない限り、人間が、人類が言葉をもってんのかもってないのか、確かめはつきますまい?

群衆……(間)

清水 私に解説させてもらうとね。あなたは大変物事をよく心得ていてね、そして、あの、意地悪な質問をするよ。大変失礼だが。あの、エロスは無時間だ。その通りなのだ。ところが、

芥 僕は怠惰な者の自尊心をくじきます。心ある者を力づけます。それは僕の本質ではなし、言葉そのものの属性でしょう。人類自体がこうなってしまっているということです。これと、かつてあった自然との間に何があるか。そこでこいつは泥になってしまう。それが君の躰だよ。そういう躰にとっては、エロスは死をもたらし、死は躰の、肉体の危機をもたらす。歴史を味方につけなきゃ動けなくなってしまいますね。これは現代そのものをかかえこんでいるんです。一つの。そのとおりだったんです。

清水 うん。

芥 だから、新宿歩いていると、こういう女の子がいっぱい通る。男までこんな格好してる、わざとこちらからこれを装って出ていくとき、本来的に躰を元に戻すことができるんじゃないか。

清水 そこがわからない。だからといって、私にわかっているわけではないけれど、どうして、あの、時間を離れた、あの、物たちでありうるであろうか。

芥 動くことが時間を誕生させる動きをとらなきゃ、それを行為とは言えないわけです。(太字:動くことが時間を誕生させる動きをとらなきゃ、それを行為とは言えないわけです。)

清水 そりゃそうだ。

芥 喋ることが人に時間を与える。その時間が人に力を与えるか。人の怠惰をさますか、人を動かすか、

清水 でもね、

芥 あるいは、人をして物の見方を変えるか。物を握るだけの力を与えしめるか。

清水 でもね。この姿をとって。例えば、Aという文明が相手に、あの、怠惰をさまさせるか、あるいは更に怠惰ならしめるかということは、それはそれでいいとしても、こういう風に時間をまとった物たちの姿をとって現われたならば、その怠惰も、その怠惰のただならぬ進化も、やはり時間に左右されるものではないだろうか。

芥 無時間の中に立ってるからこそ時間に飢える。だから、時間を抱えこんでる物から時間を奪(ルビ:うば)う。飢えがもたらしめるものの略奪──これが権力の根本だと思う。事物にはそれがない。

清水 うん。事物は時間をまとっているよ。

芥 だから、事物から時間を奪う。僕は先程からこれだけを強調している。フリージャ、これをどうみるか。これはテーブルの道具だ。それでもかまわない。あるいは戦術論的に言えば、こう、顔をみられるのが嫌だから、ここへ若干の神経をアレさせる。ここへの非人称化を図る。それもありません。これは何だ。(オト)これはかつて資本だった。商品だった。これが勝手に彼をプロレタリアートにしてしまっていた。トマトケチャップ、デルモンテ。(太字:トマトケチャップ、デルモンテ。)

清水 私にとっては物たちだ。

芥 だから当然、黙っている彼よりも、この鉄くずの方が威厳をもっているんだ。だからもっと先をみてして、企業は鉄くずしか作っていないと一言言えば済んでいたのではないか。それの方がもっと我々を勇気づけてくれたはずだ。だってこの中に詰まっていたのは、豚だったかもしれない。僕、よくそういうことをやりますから。

清水 うん。

芥 そこで肉をわざわざわざ買って来て、焼いて棄てるわけです。ごみ箱の中へ。

清水 物たちからどうやって時間を奪(ルビ:うば)うのかなあ。

芥 人間も物である。

清水 そうだよ。

芥 物も人である。そこで出会うわけです。

清水 時間の中でね。

芥 人の過去は知っている。だから、物、物が人の状態になっていれば、物を握ることができる。それには、こちらが物以上の孤独と存在と時間と対決とを、飢えとをかかえこんでいなければできない。最初人類が誕生してきた時に、自然のものと同じ飢えを辿っていたわけです。人類は手ぶらだった。いつしか手ぶらではなくなってしまって、手ぶらでなくなってしまった分だけ、こぞって奪われてしまったんではないですかっ、恐らく、あなたを無時間の状態に放り込んだら発狂してしまうんじゃないかと思う。そこには知識もなければ何もない。政権が役立たない。過去が役立たない。(太字:人類は手ぶらだった。いつしか手ぶらではなくなってしまって、手ぶらでなくなってしまった分だけ、こぞって奪われてしまったんではないですかっ、恐らく、あなたを無時間の状態に放り込んだら発狂してしまうんじゃないかと思う。そこには知識もなければ何もない。政権が役立たない。過去が役立たない。)

清水 そうだよ。

芥 一切が政治にみえる。何があなたを殺すかわからない状態へつっこまなくちゃならない。何故、アメリカのアスファルトから黒い連中がラッパを吹きだしたかという謎がこれで解けるわけだ。

清水 ただし、私にとってあなたの発言というのは問題提起としか映らんな。

芥 そうです。

清水 そうだと思う。確かにそうだと思う。しかし、問題提起として、

芥 かつての人間の答ばかり学んで来た者に、新しい問題を提起するのも一つの言葉の使命です。

清水 何でもいい。あの、あなたと討論したように、サルトルさんならそこまで言った。

芥 ただ、サルトルの場合、政治と教育の間で身動きできますまい。彼は、ドーバー海狭一つ埋めたてなかった。ドーバー海狭を埋めればヨーロッパの社会は変革されますよ。サルトルが何を書いたか。ノーベル賞候補になったにすぎません。何が変わったか。あいつが日本に来て日本がどう変わった。ダンモ一つ誕生しない。喫茶店一つできない。ラーメン一つ何をしない。サルトルラーメンというのが出るなら別ですよ。弱いんです。彼は。ホモサピエンスというのは弱いんてす。企業にかなうはずがありませんよ。こりゃあ。社会が恍惚としているのは、企業が恍惚としているということになっちゃいますよ。(太字:ホモサピエンスというのは弱いんてす。企業にかなうはずがありませんよ。こりゃあ。社会が恍惚としているのは、企業が恍惚としているということになっちゃいますよ。)だから革命が起こらない。ネクタイ締めてスーツ着た連中が、こう、徒党を組んでバリケードへやって来たのを、僕はみたことがない。彼ら一生懸命革命してるんだ。命がけで働いてるもん。ブルジョアもいない。松下がブルジョアだとは思いたくないからなあ。もっと、こう倒す時、倒しがいのある人間であって欲しい。ブルジョアだったら。だから佐藤栄作という一つの地下生活者の代表だと思う。社会がなければ生きられない人間は、皆、社会に依って泥にされてしまう。だって社会がクロノスを握ってしまってるんだもの。それを物を介在してやってるわけです。

群衆……(間)

清水 ま、端的に言って、物たちから時間を奪うということは、あの、物たちをもう少しわかり易く言うと事物──から、事物というのはすべて時間の、性の中にあるというのは、今更言うまでもないことで、(太字:事物というのはすべて時間の、性の中にあるというのは、今更言うまでもないことで、)それが、

芥 黙っている人間から時間を奪うことも、黙っている人間を解放することに繋がります。

清水 どうやって時間を奪う?

芥 一方的に喋るわけです。あるいは一方的に踊るわけです。あるいは一方的に新しいことをみせるわけです。あるいは一方的に感動することをみせるわけです。三島が一日、東京都という時間を全部奪ってしまった。それが肉の暴力です。アスファルトから一瞬、泥が咲き出すかのように。

清水 うん、瞬間に於いて。

芥 そうすると一千万の怠惰がぐっと、こう、泥になる。

清水 瞬間に於いてしか奪えなかったが。(太字:瞬間に於いてしか奪えなかったが。)

芥 いいでしょう。

清水 ああ。

芥 瞬間程、暴力のあるものはありません。サピエンス供には、

清水 そうだ。

芥 私はあなたの三十何年間かの人生より、彼の一瞬の方が余程力あるものと看倣します。知恵ある者とみなします。……あれは、一つの生命の表現であって、死の実現ではないということとに注意すべきです。だから彼は左翼です。生命の実現家。頭のイイ左翼には右翼がホレます。当然、頭の悪い左翼たちは、形のある右翼にホレるのと同じように。

清水 しかしあなたの発言というのは、我々の、あの、会話の中では常識なんだけどね。

芥 常識を言って下さい。そして続けなさい。それが、飽和し崩れ出すまで!

清水 うん。

芥 私は気狂いじゃないから、常識を言います。……ひょっとすると、あなたの方がその危険がありますよ。気狂いか、気狂いでないか。

清水 私は、失礼乍ら、あなたは大変気狂いではないと思ってるんです。

芥 でしょ。

清水 うん。

芥 平常さ程、暴力的なものはありません。平和な時代に於いて。

清水 大変侮蔑的な言葉を投げると、大変なる勉強家だよ、あなたは。

芥 そうです。私は教義文学を営んでいます。『地下演劇』をみてればわかります。

群衆……(間)

芥 教義とは肉の創造力。泥の創造力が病気、理性、感情、悟性。単なる希望の旺盛化にすぎない。悟性が何であるか、命をとられて活けられても美しいということだ。(太字:悟性が何であるか、命をとられて活けられても美しいということだ。)

清水 いや。そんな発言は、ことさらあの、特に我々の世界に向かっては、罵倒の言葉にはならない。

芥 私は罵倒したくない。一人でも友だちを増やしたい。……いつもアカデミックなところから反革命が誕生するから。

清水 私は、あなたが大変アカデミックだと言ったのよ。

芥 体ごとアカデミックです。ここには。地球のアカデミーがある。

清水 解説をするとね。彼の言ってる言葉は、サルトルさんがかつて、そうね。四〇年代、一千九百の四〇年代のなかば以降にずっと押しつめてやっていた。

芥 あの、私はサルトルに逢ったこともなければ、彼の著書を読んだこともない。

清水 そう?

芥 はい。失礼乍らそうです。肉程教養あるものはありません。自然の秘密は全部肉が知っている。だから、私はどんな科学者にも敗けない。(太字:肉程教養あるものはありません。自然の秘密は全部肉が知っている。だから、私はどんな科学者にも敗けない。)

清水 まあ、サルトルさんがあれ程やっても、物たちの背後にあるものは、つかまえきれずに終ってしまったのだがね。

芥 サルトルは子供一人産めなかったのではないか。どうだ! 彼は家族を営んだか。ヨーロッパで。

群衆……(間)

問題は実現することてす。何かを。マッチ棒一本でもいい。それを完全に所有できるかできないか。知識など、それからでいいんだ。それは知識があれば余生を送る時も便利であろう。トビ職たちがうかがいに来るから。ただ、そのトビ職たちが国務事官になったりするような可能性がないわけでもありませんからね。

群衆……(間)

芥 アカデミーがいくら物を事物と呼んだところで、その人間の目の前にある物たもの背後には、ちゃんと企業があるわけです。企業がない科学者など、科学でもありゃしないんだ。今は。何の力もありゃしないし。数学者にも敗けぬ。科学者が革命の味方をとらず、企業の味方をとる。何故か。『資本論』が科学的だったから。だから私は科学に憎悪する。科学は肉を痛めつけるだけだ。女を殺す時だけに役立つ。女は自害はしない。いつも薬で死ぬんだ。女には言葉がない。実現するだけの能力がない。(太字:だから私は科学に憎悪する。科学は肉を痛めつけるだけだ。女を殺す時だけに役立つ。女は自害はしない。いつも薬で死ぬんだ。女には言葉がない。実現するだけの能力がない。)例えば、あなたに奥さんがいるとする。あなたの奥さんの憧れは、あなたが義務化しなくちゃならない。あなたの奥さんは奥さんでなく、単なるお荷物だ。生きたグッチワイフ。これだ。生活の糧にあった方がいい。理由がない結婚なんだ。社会じゃない。結婚には契約がある。

清水 今さら、我々にそのようなことを言っても非難にはならんよ。

芥 いや、彼らに言う。君は孤独を楽しんでいた方がいいんだ。君は弧独であればある程僕は淫乱化する。これは肉の作用反作用。こうやって脱出して行くんだ。だから、物々が弧独の領域て飢え悲しむまで人間の方が淫乱化しない限り、という説もあった後ですよ。問題は法です。法。壊すことなら誰でもできる。自衛隊使っても壊すことはてきるだろう。壊すことの法もなければ、壊したことの法もない。例えば、ヒロヒトがマッカーサーと終戦の日に面会して、「俺を殺せ。そして、この一億近い人間を助けろ! 」それは殆んど法に近い。肉しか吐けない言葉だ。そうすると、カーキ色の軍服がビビッてしまう。私はこれ程の法を見たことがないと言うんだ。まあ、それもピラトーと何とかの話になるが。いいてすか。マッカーサーがピラトーなら、ヒロヒトはキリストで、戦後復興した、あの企業たちがバラだ。盗賊だ。ブルジョアはいない。盗賊だけだ。この土地は。払下という盗賊。何とかという盗賊。バラだ。こんなのはみんな、もう、二〇〇〇年前に片が附いている。そうやって夢をみるんだ。二〇〇〇万年生きなきゃ、あなたの仕事は完成しない、しやしません。私はそんな気狂いじみたことは嫌だ。あと二、三〇年で実現しない限り、生きていたという証拠がない。そういう恥辱が耐えられない。ナポレオンは何も大砲ばかりうちまっていたわけてはない。法を作った。ただあれも結婚を失敗したので、女から酒と追憶の味を覚えてしまった。オーストラリアが女を使って騙したんだ。丁度、クロノスを騙すのに、ゼウスが女を使って騙してクロノスの椅子を奪ってしまったように。女が毒薬を盛ったのだ。クロノスに。そして全部吐いてしまう。そして、吐き出されたのがギリシャだ。だが、生身一つでヨーロッパを支配した奴もいましたからね。手ぶらで。尤も会話と泥棒の天才だという説もあるけど。いやいやキリストの話てす。(清“いや私に、あの”)マルクスもその再来です。レーニンもその再来だ。(太字:いや、彼らに言う。〜レーニンもその再来だ。)

清水 いやいや、私に語って欲しいな。あなたは今、社会のこと、政治のことしか喋っていないように思うが。

芥 政治程の蒙味はありますまい。なぜなら政治には自然が作用しないからです。人間だけで決着つけなきゃならない。……だからいつもヒューマニズムは政治でしかありません。国家はヒューマニズムではない。人間という自然のエロスです。政治は人間という言葉のエロスです。当然私の意識は全的に政治である。

(間)

清水 かつて今までに、物たちの背後にある物が、顔を現わしたことはないんでね。

芥 詩人だ! 全乗客は詩人化しイエス化するわけだ。そういうことはありません。こういうのもありますからね。

清水 え? ないでしょう。今までに。

芥 いえ。あります。

清水 ありますか?

芥 十月革命です。あの時、部屋に居てさえ生きるものを見た。

清水 しかしあなたの言っている、単なる年表というのは、物たちの系列に入るけれども、

芥 年月を介在せずにわかる、それは。無名な肉が知らせてくれる。

清水 肉も私に言わせれば物たち(傍点:物たち)だが。

芥 ハハ。物とは私の肉だ。(机を叩いて)いかがでしょう、これは。

清水 いや、あなたの、あなたの肉も、あなたの、いや。

芥 その声は俺の時間だ。

清水 すべて物たち。

芥 すべてと言い切れる程の、え? ものはありませんよ。みんな部分になりますよ。物と言った瞬間からね。

清水 物たちと言った、私は。

芥 群集だ、それは。

清水 「物たち」と「物」とを使い分けてるはずだ。あなた自身も。

芥 群集です。……群集は、机を壊しているのが物でなく、幻想でなく、エロスでもなく、言葉という代物だ。自然から出た戦車は肉でなければならないと言いたいんです。そうしなければこの土地では何もできやしますまい。

清水 ま、演劇が所詮やはり肉を使わなければできないとは思うがね。

芥 人は意図であり、戦車は肉だ。

清水 戦車も物たちだよ。

芥 ユダヤは泥だったのです。人間が死んだ。(太字:ユダヤは泥だったのです。人間が死んだ。)

清水 戦車も大砲も原爆も物たちだよ。

芥 原爆は「知」の光です。二〇万の怠惰が一挙に吹き出たでしょ。

清水 だから例え一人であろうが二〇万であろうが、

芥 そこで怠惰を我々は喜ぶことができる。それが民主々義、ヒューマニズム。

清水 やはり物たちだよ。

芥 それでお前達はヒットラーを期待するであろうと、言うわけです。

清水 例えあなたがどれ程の言葉を挙げようとも、その言葉に依って代表されるものはすべて物たちでしょう?

芥 だから、物を支配するのが生きる事の希望だ。……あなたの声は全量が聞いていない。私の声は私の全物量が聞いている。ということは彼ら……。私も聞いている。私だって初めての言葉を吐くんだ。私が聞いてなきゃ誰だって聞かない。そう思いませんか? だから父親が長男を連れて喫茶店行ったわけですよ。まあソーダ水二杯飲んだ。ところが外から父親の友だちの声がした。父親を呼んでいる。その時子供はどうしたか。どうしたと思います?

清水 ……うん。言葉を聞かんだろうな。

芥 もし父親を手元に引きつけようとしたら、父親の友だちよりもハシャイでみせなくちゃならない。兄弟が二人いたらどうする。その時に。

清水 あなたは、意識のことをしか語っていないようだ。

芥 いやいや。蒙昧な人に例え話をしてるんです。

清水 そしてまたあなたは、言葉、いや、意識と物と。

芥 ところがあなたはいつも、父親においてきぼりくうんだ。喫茶店であろうがどこであろうが、(清“いやいや。そうではない”)それは永遠に続く。

清水 あなたは意識と物たちとをまた区別つけないで語っている。

芥 あなたを見ていると友達の来ない「永遠」を見ているような気がする。あなたみたいな人間はこれから何匹となく、何人となく誕生していく。その辺は人間の永遠ではない。人は「いる」という自然の歴史の永遠だ。私はそれを、……抹消している。(太字:人は「いる」という自然の歴史の永遠だ。私はそれを、……抹消している。)

群衆……(間)

芥 じゃあもしですよ。

清水 うん。

芥 またさっきの長男を連れて父親が喫茶店行ってソーダ水を飲んでる。外から子供の声が聞こえてきた。ここまで同じです。

清水 うん。

芥 ところが父親が自分の友だちの声を聞くより先に、子供が聞いてしまっていた……。

清水 あなたはこういう例をひかなければならんのじゃないかな。物たちが呼びかけ、そしてその物たちの中の。

芥 いや人が人を呼んだ。

清水 いいや。つまり、人乃至は。

芥 そこへ人たらんとしようとする肉が居合わせたという話をしたいわけだ。

清水 私は。

芥 その時、友だちの声を父親に聞かすまいと子供は何をするか。喫茶店を占拠し……

清水 父親といい、子供といい、友だちといい、

芥 それが全共闘なんだ。

清水 すべて事物、時間をもった言葉なんだよ。

芥 知らない。時間も知らない、言葉も知らない。私は言葉を使ったことがない。(太字:知らない。時間も知らない、言葉も知らない。私は言葉を使ったことがない。)知りたいのは言葉が何であるかだ。

清水 あなたはしかも尚かつ、その例えであの意識の方だけを問題にした。

芥 意識。プロ意識。いや、彼の意識を僕は代表しただけだ。私はそのカフェテラスの俳優だから。ここに居合わせる何人かの肉の善意を代表するのが俳優です。彼らは演出家であり、主役であり、一切の財産家だ。それがどんな形をしているか、誰かが代表してみせなくちゃ、彼らがもっているという証拠を、彼らがつかむチャンスを永遠に失ってしまう。

清水 失礼ながら、私まで含めてここに居る諸君も、物たちよ。

芥 そうです。

清水 うん。

芥 物には階級がある。人間には階級がない。これだけははっきりする。(太字:物には階級がある。人間には階級がない。これだけははっきりする。)

清水 また政治の話をする。

芥 (芥、群衆のなかから)そうだよ、政治にしか興味がない。

清水 そうかな?

芥 あなたが物であり、戦車が物であるとき僕は戦車と友だちである。

清水 いや、物たちと私は。

芥 こういう階級がある。

(間)

清水 物たちの背後にある、物の声というのは、まだいまだ私は聞いたことがない。そして、聞きたいと思いつつ、私はそれで一生を終るだろうがな。(太字:聞きたいと思いつつ、私はそれで一生を終るだろうがな。)

芥 そう。

清水 物たちの背後にある物の声を聞かしてくれ。

芥 物の背後には、私のふふっ意識がある。

清水 あなたの意識が?!(声は大)意識がっ?!

芥 先程から聞いていましたよその声は。

清水 あなたの意識が? 意識が? 意識が?

芥 私程の意識がありますまい。今、ここで。

清水 意識が?

芥 でも私の声は一人称なのだ。それで君は騙される。せいぜいが人間が騙される「物」質であり宇宙は考えるのを止めた芽ってとこだ。

清水 意識が?

芥 事物の意識は私だ。だから自然現象はお前達の歴史だと言ってるんだよ。私の肉は地球から剰がされて出来てきているんだ。(太字:事物の意識は私だ。だから自然現象はお前達の歴史だと言ってるんだよ。私の肉は地球から剰がされて出来てきているんだ。)それなのにあなたは全く……

清水 意識とは私にとって関係でしかないな。

芥 意識程無力なものはない。だから、意識をもった者は、自然的に脅えなくてはならない。それが虚構であれば、一切の虚構が政治化するわけです。意識にとって。

清水 私にとって、意識とは関係。男と女との関係。(太字:私にとって、意識とは関係。男と女との関係。)

芥 自分の体を牢獄にしない方がいいと思いますよ。さしあたって優良な忠告をしておきます。

清水 ね、男と女と、父と子と、それから、夫と妻と。

芥 私程の女はいますまい? そこでも。

清水 あるいは、“私と私との”と置きかえてもいいけれども、意識との関係の。

芥 あなたは泥の意識だ。泥の、泥の、泥の土だ!

清水 今私にとって問題なのは意識ではない。意識ではない。

芥 土へ帰るがいい。そのイントネーションは無常感だ、再び泥の。

清水 そうかな?

芥 まちがったことは言わない。

(間)

清水 関係が泥になることはあるまいに。

芥 ハハハ、泥と泥の関係が社会だ。(太字:泥と泥の関係が社会だ。)

清水 そうかな?

芥 それを断ち切ったのが、ジュピトの変貌、産業革命だ。アスファルトを、鉄を泥にしなくちゃ、人間はもはや何もできなかったのです。

清水 関係を問うことは、所詮、政治を問うことなのです。

芥 当然。

清水 社会を問うことなのです。

芥 政治以外に人間に何がありますか。何もありゃしますまい?! ……それはあの人だって知っている。政治以外に何もありゃしないんだ。人間には。人間の掌には。キリストがやっていたのは、全的な政治なのだ。言葉を武器にし、言葉を土地にし、言葉を工場にし、え? 言葉を学問にしても彼はかまわなかった。ただ智力があったのであろう。智力が。(太字:政治以外に〜智力が。)それは、フェリーニがわざわざローマのラクフォンルームの映画を作るのをみればわかるのだ。今は全的にローマであろう。オナシス夫人と佐藤栄作が結婚したならばね、僕もやる仕事がまた増える。で、オナシス夫人の連れ子の踊りがもの凄く好きならばね、佐藤栄作が、政治をうっちゃらかして、連れ子のストリップかなんか、毎晩酒飲んで見てれば、あなただってアナキストになれるんだ。だが、そうじゃない。もっともっと泥なんだよ。(笑い)そうすれば、安保はどうなります?

清水 私に言わせると、あなたは、常に、常にあの、関係をだけしか問うていないと思うが?

芥 そうです。私は、あなたの政治を問うております。私が生きていることは政治だ。一つの。私の夫婦をマネて、社会はできているんだ。それを皆が見ているであろう。私と芥との間にも、政治が介在している。(太字:私と芥との間にも、政治が介在している。)

(間)

清水 今、問うていたのは、私にとって興味があるのは、事物と事物との関係。つまり、意識と呼ばれたものではない!

芥 (群衆の中を歩きながら)だからあなたにとって、清水多吉とは、一つの泥の名称であって、言葉の名称になっていないんだ。だから清水多吉は責任がないんだ。だから政治コンプレックスで、政治を学ぼうとするのだ。

清水 残念ながら私にとって、関係を問う、つまり意識を問うことは、興味のないことです。

芥 そういうことを言うと危険なんだよ。例えば、この椅子は俺のだ、という話にまたなるんだよ。ね?

清水 そうは思わないなあ。そうじゃないよ、

芥 思う。これも全的に政治だから。

清水 あなたにとっても、政治を問うことではないでしょう。

芥 僕が生きるということ以外に、政治がありえませんでしょう? みんながそうなった時に……

清水 関係を問うことではないでしょう?

芥 なにも問うちゃいません、

清水 うん。

芥 私は人に物を問うたことはない。

清水 関係というのは、既に時間をもっているのよ。

芥 あなたは、あなたを見てあなたを確かめてるにすぎないのだ。(太字:あなたは、あなたを見てあなたを確かめてるにすぎないのだ。)

清水 時間を奪うことでしょう?

芥 ま、例えば、思春期に於いて女を見て、しかも確かあるようにあなたにあわせて、私も見てあなたを確かめているから、私程の女はありますまい、と先程言ったわけです。

(清水 それも関係だと思う意識だと思うが? )

清水 物たちと、物の背後にある物というのは関係ではないでしょう?

芥 その論理では、出遇いに対して全く無力です。あなたは全共闘に対して全く無力だったのと同じように。

清水 私の問いに答えて下さい。

芥 全共闘が歩いた跡というのは、アスファルトにあるが、あなたが歩いた跡はない。

清水 私の問いに答えて下さい。

芥 彼らが答えるであろう。

群衆 さっき答えてやったとうりのことだ。

清水 うん?

群衆 さっき答えてやったとうりのことだ。

芥 殺す以外に方法がないよ。問いに答えるには。無知は死ぬんだ。無知故に。殺して欲しいの? (太字:殺す以外に方法がないよ。問いに答えるには。無知は死ぬんだ。無知故に。殺して欲しいの? )

清水 いいや。(芥“じゃあ聞くんだ”)君たちも、

芥 失礼なのだ、作法がない。だから物たちは君を殺すよ。(芥氏、多吉氏を小突く)もっとちゃんとやろうか? でもそりゃいいよ、まだ、さしあたって放棄はしたくないんだよ。やっぱり捕まえにくるからそいつは殺さなきゃなんないからさ。ここに国家が誕生したと言わなきゃならない。もしそれをやったら。俺を捕まえに来るやつは俺は全員を殺す。それは言葉の正しさを証明する、正統な方法だから。

清水 どうだろうな?

芥 自分で確かめる?

清水 憎むものたちよ。

芥 だから確かめろ。物を確かめたかったら。物に問うて物を問うな! なんだ、何がね、(清水“さん”)まざっているかと言ったら、自己錯誤、認識錯誤、時代錯誤、存在錯誤、意識錯誤!(太字:だから確かめろ。物を確かめたかったら。物に問うて物を問うな! なんだ、何がね、(清水“さん”)まざっているかと言ったら、自己錯誤、認識錯誤、時代錯誤、存在錯誤、意識錯誤! )

清水 存在錯誤?

芥 錯誤の代表だ。

清水 存在錯誤?

芥 錯誤の代表。だから脇役、道化。

清水 だから存在錯誤?

芥 それがある。一言で言えばね。

清水 そうかな?

芥 存在とは出遇う、出遇いの連続なのだ。(太字:存在とは出遇う、出遇いの連続なのだ。)

清水 出遇いというは関係のことよ。

芥 ははっ賛成してくれ! 多数決でもいいんだ。もう。はははっ

清水 出遇いとは関係のことでしょう。

芥 いいえ、関係を遮断してやってくる物と遮断しまた出遇うのが出遇いです。結託すれば存在は全的関係の統御なのです。

清水 遮断もまた関係ですよ。

芥 関係は出遇いではありません。その後に関係が施(ルビ:ほど)こされるのです。

清水 遮断もまた関係の一つ。

芥 だからそれは存在の錯誤が一者をしてそう言わしているのだ。

清水 そうかな?

芥 例外は死ねばいいんだ。《君は再び死んでいる。倖いなことに(太字:君は再び死んでいる。倖いなことに)》。自殺直後のマラルメをみているみたいだ。

清水 あなたにとって「死は栄光だ」と言ったではないか。

芥 いいえ、死を実現するのが恥辱をいやすために。統御の暁に。

清水 あらためて実現しなくても、現に死んでいる者は?

芥 「あなたがあなたです」ただ自然は余裕があるから、それでもあなたに空気を吸うだけの余裕を与えている。空気を吸っているからって、生きているか死んでいるか、区別にはなりませんからね。……(間)……だから、非人称に向かってあなたと問うた時から、そこに宗教が誕生しますよ。あるいはパリサイ人が。それならまだ国家の方がいい。(太字:だから、非人称に向かってあなたと問うた時から、そこに宗教が誕生しますよ。あるいはパリサイ人が。それならまだ国家の方がいい。)ねえ、あんた! 君のやっていることは人類のプレザンスを一歩も出ていない。

清水 うーん、非人称の意識というのはね、

芥 物事ははっきりした方がいい。いつだってそうやってアイマイなのだ。あなたが曖昧な故に犯した罪は大きいんだよ、

清水 冗談ではない。私にとっても非人称の意識というもので、あの、意識を意識たらしめてるよ。

芥 ウフワワワフ、ハハハハ……意識が自滅しているのを私は非人称と言うのだ。……私が欲しいのは一人称だ。一人称と出遇ったことが、再び一人称となる。そこに一人称が二つ誕生する。(太字:意識が自滅しているのを私は非人称と言うのだ。……私が欲しいのは一人称だ。一人称と出遇ったことが、再び一人称となる。そこに一人称が二つ誕生する。)

清水 先程あなたは、自分の意識は非人称だと言ったではないか。

芥 私? 私は一人称の名称を語って私の肉の存在の在り様を掲げたのだ。

清水 私というのも非人、あの、一人、

芥 物を認めていたのだ。

清水 一人称ではないよ。考えてごらんなさい。

芥 そりゃ公にわかる。

清水 「私」というのも一人称ではない。(太字:「私」というのも一人称ではない。)

芥 あなたにとってねえ。永遠に一人称にはなりますまい。(太字:あなたにとってねえ。永遠に一人称にはなりますまい。)

清水 あなたにとっても。

芥 君たち侮辱されてるぞ。あなたたちにとって永遠に一人称になれない、なるということはないというのだ、君たちに向かって。この人は。……若い者を侮辱する年寄りはさんざんみてきたよ。ハ、ハ。…… 何が不満なのだね?

群衆 ハハ、もう一回いってみろ。

芥 そうだ。

清水 いや言えないな。

芥 ハハハハハハハ。一体何が不満なのだね。君は。僕らこんなに楽しんでいるというのに。(間)え? 誰にいじめられたんだ。

清水 いじめられてはいない。

芥 フフフ、じゃあ、誰をいじめたいんだね、何を?

清水 うん、誰もいじめたいとは思わない。

芥 ホウ、博愛主義者(太字:博愛主義者)だね。

(間)

芥 それをみせて欲しいんですね。あなたが誰もいじめてない。何も不満がない。それをみせて欲しい。みなければわからん。これはこれでみせてくれる。机も、これも、これも(机の上のコーヒーカップを叩きつける)あなたは何もみせちゃくれないではないか。みせることは全的に語るということだ。(太字:みせることは全的に語るということだ。)

清水 あなたはみせてくれたのかな?

芥 いつも。いつでも。

清水 そうかなあっ。

芥 そういう疑問をもったところから始まる《ホモ、サピエンスの終り》について、今日は、いつだってスタートなんだ。あなたは。永遠にスタートのままだ。

清水 あなたにとってもスタートだ。

芥 いいえ。なぜあなたと私がいっしょでなきゃいけないんだ。いつもそうだ。淋しいのかな? また、

清水 いいや。

芥 もっとはっきり言ったらどうだ。こんなにいるんだから、言え! 言うんだ。あなたたちって、はっきり。言え!(芥氏、多吉氏の髪をつかみ椅子を蹴る。倒れる多吉氏。)

清水 君に向かって言うぞ。

芥 じゃあ言ってくれよ。言うんだ。言え、言うんだ。博愛主義者!(多吉氏テーブルをひっくり返す)

清水 この辺で終ろうではないか。

芥 確かにこれは。でも、俺の肉は少しも痛くない。君は結局何も言えないではないか。体力でしか言えないじゃないか。うん? これは確かに俺の肉だよ。傷一つついてない。一度、「君たち」と言ってみろよ。はっきり。(太字:でも、俺の肉は少しも痛くない。君は結局何も言えないではないか。体力でしか言えないじゃないか。うん? これは確かに俺の肉だよ。傷一つついてない。一度、「君たち」と言ってみろよ。はっきり。)

群衆 さあ、

清水 さあ、

芥 さあ、Please ! プリーズ。

清水 今までの十数秒が私のあり方だ。丁度、あなたのやり方が、サルトルがやったところでとどまったのとは、

芥 あいつは失敗したんだ。

清水 うん。

芥 退屈な詩を。退屈だけを売っている詩を。(清 “うん”)詩、もはや詩を過信する時代は終ったのだ。詩は肉体だ。(太字:詩を過信する時代は終ったのだ。詩は肉体だ。)

清水 私がベケットでとどまったとするならば、君はサルトルでとどまってるだろう。

群衆 ガッカリだ。

芥 ハハハハ、サルトルは一人だ。我々は群集だ。

群衆 もう一辺ひっくり返さないと信用できない。

芥 あと一回はそりゃあひっくり返す。サルトルだけが群集だろうと、そしたら私も群集を裏切る。それは国に対する愛情だ。

(間)

清水 さあ、この位にしようか。

芥 君! 立正大学を裏切り大学の名誉にふさわしいものにするために群集が来ている。群集を導く者が突っ立っている。

清水 俺は、俺の。

芥 これが出遇いなんだよ。出遇い対してなす術がないじゃないか、出遇い。もはや関係ではないんだ。出過いなのだよ。

清水 俺は、俺の二時間の歴史を消そうと思ったというのだが。

芥 今思っても遅いんだ。思った時は手遅れとなっている。

清水 うん、そう。

芥 それが手遅れなんだ。

清水 テープに語らせよう。

芥 テープは群集だ。

清水 うん。そうだ。

芥 ここに群集に集めている。(清 “うん”)これは、活字になる。……君を名誉だ、それは、(多吉氏、テープレコーダーの乗っている机をそっと蹴る)

清水 テープを消そうと思ったぞ。

芥 腕づくだぞ。それは。

清水 うん。(笑い)

芥 殆ど腕づくの作業になる。

群衆笑う。

芥 また困るんだよなあ! せっかく大学になりかけたのに、君の卑怯者の習慣が、元へ戻すんだ。僕は。いつ何どき、こういつも学生になりたいなあと思っても、一回も果たされないんだ。僕が学生として、こう、生きようとした時、みんな教授が学生のこの様をやってくれるから。学生なんか誰もなりたくない。賛成してくれ。……それが全的に現われたのが全共闘。だから全共闘は知性の集団だと言ったのだ。知性を装った者に対して、知性そのものを見せたのだ。政治と関係しない知性はありえない。(多吉氏によくさとすように)

(長い間)

芥 人とつきあうと面倒くさいから、物としかつきあいたくないんだ。(太字:人とつきあうと面倒くさいから、物としかつきあいたくないんだ。)

清水 うーん。しかしな。これで議論は出つくしたと思うがな。

芥 もういいの? 君は。

清水 うん。

芥 君の欲求満たされたの? 今日、僕は同じだからさ。来いと言われたらどこへでも行く習慣があるから、肉の名誉にかけて。

清水 俺も好きなんだよな。本当のこと言うと。こういうことは。

芥 でしょう。

清水 うん、ザックバランにして。

芥 ハハ。

司会者 ではこの辺でテープを終りたいと思います。

清水 また逢おう。大変楽しかった。

芥 いえいえ。

(拍手)

 

1. Alto Sax……Mr. Act
2. Aria……Guseppe - Stefane
P.M.Artman's EYE
Every doors are opened.
We'll get CaFe Terrace Commune.

《Here We are ! 》

A──Hey, Push girls as they wants. None has appera to us. Surely they play kin-ball within Actor's AIR. I is, ......don dance, ……, Here.
S ──"None". Really? Silly Animals!
Maid H──Have you coffee? CO2? Oa? CO?
"This mat !"
S ──Oui, …… eh, bien,……Grape Juice, please.
A ──Have you considered the better sale or cord for this play?
S ──Not at all. It's no use.
Chairs want to me. Lay down avarage.
One stroke Lead par-man.
A ──One must take it by force, if he wants so.
S ──FORCE, it's the POSITION!
Slaves, never laugh! By the way, what runners should come Today's Terrace.
H──Jiro Takamatsu, thing's shop master. Tsutomu Wada, T.V.showman. Ikuya Kato, song maker in T.V., Mr. Natsugiwa, Story-Teller. Mr. Ave, Sound winner, and Akira Kasai, Dancer, a litle later. If tomorrow, MORE BODY SEXSTRONG could arrive.
S──Winds call me like Taxtman.
A──You have to fight while you play good earth.
S──Mariamani sings, doesn't-he ?
A──Also U.S. ARMY sings together.
H──Old Ikuya with Japan said that he would come at about 3:00
S──As for SUMMER met Stone-edge.
A──He'll come surely with his docmocracy. Or poors must die on the street.
S──Yesterday, I scarcely fallen in hatred with myself once more. But I could happily kill me wife.(Street Car is slouting their railes)
A──Happy you, lonely miracle. You have to hold out hard buildings.You, not a word out of you.
H──Last time, we enjoyed movies of Mother-less children & Father-less children's story named "A bastard of harem and Yellow's submarine." These were very interested to me.
S──Eh? Where you did? Here? Trichy fellows! After so long time you......He is clever──.
A──In fact, we got a trial so as to use its as gravures of《Underground Theatre》
S──Oh, I see, We often shared wind on the street. You looked to be done for saying "I shall die!"
H──He would die, said-he? He never did touch our death.
S──Yes, he shared himself that one would die, But I think it's impossible for die with playing. Saying are Righy Birth Love.
A──I'll go to have some coffee, while a fasinating Battle-Ship call me.
S──I have too private misfortune ! So may I go with you?

A──No thanks, I only go. I have to do so for my son.
S──Good happy......wolfe-player──!
A──I say treatment, you get better partner here. Mr.Harada play host to you.
S──O.K.
A──I'm The Boy Never Return......"Ils sont Fatiges"......
S──Ah, I'm done for today. It's the hoopless. Curtan Capitaltrivune? Everyone knows this place? I fear that none knows captains-death Mr. kato has no sense of direction. In spite of visiting my house three times, he can't come to mine by himself still.
H──How old Mr. Kato is! so Bachelar watercap One of Girl Fuck blossome men.
S──42 years old. This year, He is in a critical eathly existance works also, and he will die.
H──Huh! Palmmit! everybody says "I'll die, I'll die" Let them be down!
S──Since a citzen M has died, every one want's death, Mr. Shibayama, too. not arong wife."I'll conquest me" he laughes.
H──May citzen M for give you!
S──When you will do, I'll be hungry too.
H──In futur, We boned out of century's MEAT Flood-less-street. We are lope-less MEN Street we walk on the Brige.
S──When《Underground theatre》will be published? Thay say there needs much mony conqulsters Centurey.
H──It takes double we kill silly stiut now.
S──If I were rich, I would bring disert. But I've just gotten into debt in order to by the noon of Mansion.
H──No man has maison when you can move in open the barren of your wife. You must have corde to her VAGINA, I hate credo.
M──I will strike the shepherd, and the sheep will be scattered.
S──At the beginning of August, May be. I must pay move then Body-painss in that trip.
H──Why your LIFE has no reason?
S──I've paid only head-money for our maison royale. It's love system and I've free of intrest windows.
H──Wrong-Sex is not clever too.
S──Dog's are alone when poors are in love.
H──Wrong earth will kill you──! Doors arrest you, Elevaters cut your legs. Ceiling make your wife's meat die. Paris is Petting allday on that monkey planet, so Fire Street give you only tow clay-doll.
S──I'm not angry yet. I have "PARTY" all night. I can get NO! with PARTY.

 

ボーイ 自分自身が何か行為している中で、逆に「何が起ってくるか? 」みたいな事があればいいんじゃないかと、私は思っている訳です。

テラスのドアをノックする音、窓から風が──

夏際敏生 誰かな?

芥黎子、シモン入場、来客、ボーイ振り向く。

夏際 ああ、主人だ……貴方の飢えが掠奪されちゃったんだよ、今。さあ、いこうぜ。

ボーイ それよりお客さん、「私の飢えが略奪されている」というけれど、それじゃあ飢えているのは一体何なのかという事になって来るし、それは単に“私”なら“私”という一つの個人が飢えているとか、その飢えが掠奪されているとかいう事だけじゃなくて、結局、一つの構造自体と“私”の関わりというか、単に個人に回避させるんじゃなくて、また集団なり体制というものに回避させるんじゃなくて、かたまりと個との関わりの中で飢えなり何なりが顕在化して来ると思う訳だ。

原田慶二 「個と個の関わり方」とか、そういうやり方で持って来ても、俺の芝居にかなう訳はないっ。

夏際 個と言う以上、個であるという事を証明して貫いたい訳だ、個とか全体とかを言う以上は……。まさに人類代表として来ている訳でしょう、何だか知らないけどさ、でも在るってことは人類代表でしょ、それを個とか全体とか言うと、「俺の芝居に勝てる訳がない」って言われちゃうんだよ。例えば此処に加藤郁乎なら加藤郁乎が入って来るまで話が始まらないとすればおかしい訳だ。誰も此処に居るヒトの中で加藤郁乎に飢えていないでしょ、私は飢えていないから加藤郁乎には、飢えっていうのは「飢えている状態」ではないんだよ、こんな事当り前だけれど、“飢えている”とか“満されている”とかそういう事じゃないんだよね、言う必要はない事なんだけれども、居ることの全体性みたいなことなんだよね、だから例えば飢えという場合、「何に飢えているか」と直ちに考えたりすると結局“何に”というやつが、それが問題なんだけれど、そういった捉え方でいくと、その“何”が仮に現われた場合に、その現われたものの持って来る暴力が己れの飢えを凌駕した場合、その人の飢えは無くなってしまう。その人は無いことになってしまう。だから、「飢え・何に」という考え方をしている人があればそれは全然違うわけなんだ。くだらない話をすれば、意識ということがかなり以前によく言われていた訳だけれども、その場合に、「意識を捉える捉え方」というのは、例えば近代の意識の捉え方というのは……、現象学によるその捉え方が出発点だとして、それが何処で間違えたかというと結局意識の第一原理みたいなものとして“志向性”という事を言い出した、即ち、「意識というのは常に何物かについての意識だ」と言ったために、その後その意識がどんなに格好悪い経路を辿らなければならなかったかという事は、二つの大戦がハッキリ証明している訳だ。即ち、「何についての意識か」という事で意識を捉えると、実際その“何”の持ってくる暴力がそれを志向していたものを上廻る場合にやられちゃうんだ。その意識の捉え方はエロスの傾域なんだな。エロスっていうのはもともと何かに対しての欠如でしょう、欠如は必ずやられるという訳だ。それと同じことが飢えについても言える訳です。だから、「何について」とか、「何ものか」という事をやっていると駄目なんだ。そうじゃなくて在るってことをもっと形として持っていかないと、その事と飢えとを直結して考えないと、例えばドアが開いただけで振り向くことになっちゃうんだっ。ドアは何時でも開いていているからね。開きっぱなしだから、やれない時はない訳だ。常にやって来ている訳だし。

原田 でも反対に言えば、私なんてのは何時も飢えていて常に満たして欲しいというのがあるんだけれども、ところが……はははっ

夏際 満たして欲しい?

原田 うん、出来るなら。ふふっ

夏際 ホント。じゃあ満たして貰うがいいっ。

原田 ところが何を持って来ても駄目なんだ。これも駄目だった、あれも駄目だという訳なんだけれど、それが裏返って略奪に行くんだよ!

夏際 裏返らないで略奪にいかないかな。つまり飢えと略奪じゃなくて、「飢え、略奪」ってやつ、「と」がいらないんじゃないかな。飢えが「在ること」であって、同時に略奪なんだ。そこで、「と」を持ってくると、満されるとかなんとかになる訳だよ、エロス論だよ、そんなのは。

原田 その辺をもう少しききたいんだけど私の場合は飢えが自動的に略奪になるんだけど、水平策動は済んでいるのだから

夏際・芝山 自動的に。

夏際 君が其処にいるのはわざと其処に時るんだろう、自然現象で其処に居るんじゃあるまいっ。どんな理由でもヒトは其処に居ることが出来るんだよ、「俺はハンサムだから俺の顔を観ろ」とかさ、だから貴方はわざといるんだよ。自然現象でいるんだったら自然現象で殺されるからさ、貴方の死は物質の消滅と同じことになってしまうんだ。

原田 自動的にっていうのは即自然現象といわれても私は水爆のように冷静だ、その証拠にここでこうしてタバコを吸っている。

夏際 いまどき自動的っていったら罪だってエレヴェーターやカフェテリアには自動ドアっていうのがあるんだよ、貴方はヒトだろう、そしてやって来るだろう、だったら自動的じゃないだろう、わざとだろう。

原田 だからそのわざというのが何処についているかが違うんだ、メカニズムは泥の深層部に……赤裸な国家性の発露が飢えの……

夏際 何処についているとは不可解なメスだ、

シモン パパチャン(ドアがノックされる音)

夏際 オハヨウ!(芥氏入場する、空いたテーブルへ)

シモン コレヨ、コレヨ、コレヨ

原田 強いて言えば居るということです。不可解なメスは飢えているために居る訳じゃないから、僕を否定は出来まい。俺の飢えという裸体!

芝山幹郎 いやそうじゃないんだよ。飢エテ居ル、略奪スル、っていう話なんだよ、だから飢えと略奪の、「と」がいらないんだという話なんだよ。何故こんな事が分らないんだ。そういう考えだとフィクションという問題が全然出て来なくなっちゃうでしょう。飢えが居ることの総体だということを比処で認めたとして

芥正彦 「飢えが生命と共にしかない」ということが解っていればいいんだ。それがフィクションだよ。飢えは何を生殖するんだろうか、女がだまっているからいけないんだよ。詩人の巧績が略奪されていく。女に聞かせるのは科学だ、科学にうかれている女は地球へ逃亡する、それは地球の衰退である、それが20世紀の美学ですね! 肉体は裸体性の国家だ。

高松次郎 よく解らない、わざと居るということと自然にいるということは同じでしょう。

芥 違いますよ、ムッシュー 問題が在るとすれば落盤事故だ!

夏際 それを同じ事とするロジックからは自殺のロジックしか出て来ませんよ。殺人のロジックは出てこない。

高松 殺人も自然な必然性がそれを支え……

夏際 必然性? 必然性? 自然な必然性? 解んないな、そういうことは別に解りたくもないが。

高松 殺人のロジックというのは書くことによって達成される結果でしょう。

夏際 いやいや、ギャルソン。

高松 “わざ”というものを支えている自然さも、もう一つある訳ですね、それから自然というものをピックアップしてくる“わざ”というのもまた自然が支えている。

芥 ビスケットを持つ幼児は? 自然から“わざと”ピックアップしてきて、ビスケットを取って来て、それを手にしている幼い児……シモン、誰も気がつかないうちにふふっ落盤事故がおこったのだ。落盤事故が“わざと”起ったんじゃないとしたら、幼児の暴虐性を律法化しなければならない、そういってくれば愛欲が燃焼するに任かせてお手伝いしましょう。

高松 じゃなくて、神と人間、神という言葉は古いかも知れない。幼児と大人とどうやって区別するんですかねえ、君。

ガサッ ガサッ ガサッ(シモンのカシ箱を振り回す音で聞き取れず)

芥 私達は苦悩したりさえするのだ。それは人間とサルとがまたつながって、私の現代性がうつろな……神自体も一つの落盤事故の伝説だから。焼猿は悪を形態する頭脳を棄ててしまった

高松 逆に、

(電車 プーン ガァー)

夏際 それはね、人間の所謂る思考の側から一方的に関係づけるとおかしいんですよ。幼児か成人かっていう話、思考の側からではなくて、思考というよりむしろ人と物との間に介在しているものを持ってきた上で話をしないとね。年令とかそういった、例えば誰かから、「子供の眼は
綺麗だ」といわれた時に「俺のタの方が綺麗だ」と言える訳でしょだれしも、それですよ、

阿倍 ガタガタ、ドタドタ、遅くやって来て机を動かす、

芥 (用もなくうろつくボーイに向けて、上品に優しく)コオヒイを下さい、コオヒイを下さい、コオヒイ! 被造物は眼眩いを起すに違えねえ、

原田 全く自分のテーブル位、法を刻みつけて自分でもって来たらいいのに。位置は生死にかかわる権力だというのだもの。だらしねえっ

芥 大丈夫だよ、やがて君の精神も君の速度で鎮ってくる。音色のない夜は物質で出来ていて、宇宙は考える百姓だよ、君の国家的裸体よ。

シモン ハイ、ハイ、ハイー。

ガラガラガラ 夏際氏うがいをする。

シモン モット。ミンナ、ミンナ、ミンナ。

芥 ここに一人“人”が立っていれば全ては解決するんだよ。君達のその醜恥に満ちた沈黙だって、数秒のうちにね。

夏際 僕は沈黙している訳じゃない。

芥 じゃどんな訳だっ。

夏際 なんて言った?

芥 どんな訳がある!

夏際 「どんな訳がある」? 沈黙している訳じゃないが、沈黙は日常の残滓だ。その限りでは不当だっ、沈黙も。

芥 考えないとしても身振りや、そのような頭脳による道化は原人や死人達の幸いだから。

夏際 あのう、もし沈黙という言葉があるとすればね、それは人間の思考の中からしか出て来ないんだよ。

芥 そうかね? 人間は考えても宇宙は考えたりはしない。略奪に這い出した時の自己防衛だ。

夏際 例えば、「居るという」だけのものがあるとすれば、それは沈黙だとか、じゃないとかいうことじゃないでしょ。沈黙とは単に思考の残滓なのだ。だって何だって飢えると喰えないものは何もないハズだ。

芥 フッフッフッ、腹をすかした奴がいて沈黙し、餓死していくっていうのは、「諸君も採用したらいい」悲しい話をしているんだぞ!

原田 ところで阿倍さんは事物を鎮らせ、人間を処刑する倫理機構を、喇叭を、音楽を媒体にして持って来る訳だけども、そこんとこのその喇叭と、そこんとこに居るっていう貴方自身の肉の出張りっていう、その辺のとこはどうでしょうか、切り落さずにおやりになっていただきたいのですが、どうせ喇叭が無きゃ人類的大気の豚なのだからね!

阿倍薫 もう少し具体的に話してくれないかな。解らない。僕は川崎から電車で来たのですよ。それに降りてから間もない。そこのところを解ってくれなくっちゃ困るのです。

芥 音はどうやって始まったのだろうか。大気が裂けてしまっていたというのに。君は私の死を創造するのだろう?

阿倍 私が音の始まりをどうやって持って来たかってことですか。

原田 ステージに立つ時には喇叭を持っている訳だよね。ところが今持ってないし、その自分の体をどうやって喇叭に変えていくかっていう事も一つある訳ですよ。生命の共産化が宿題だろっ

阿倍 だからね、「喇叭と私」っていうのは本当に違うのだ。私が喇叭になる必要もないし、喇叭が私になる必要もないんだよね。絶体に違うからさ。これがいいのだよ、これがね。

原田 喇叭を持ってない時の貴方っていうのは惑星の上の石ころの孤立であって欲しいのだ。ふん。身動き一つ出来ねえ……。

阿倍 やっぱり貴方にとっては、「貴方」でしょうね。

原田 私がこうやっている事すら、まあカフェテラスでは言い古された事だけど、コンクリに対する、「芝居」だって言える訳だよ。実現がしのびよって来るし、いつも気配があるでしょう、

芥 喇叭を持った貴方っていうのは人類にとって何なんだろうか。コンクリの英雄だなんて言って欲しくはないぜ。

阿倍 私の眼からは貴方は俳優のようだ……。

芥 貴方はラッパで老けきった私を初めてしまう事は可能だろうか? 友人なら。考えてみて下さい。

阿倍 貴方が? ムッシュー。

芥 いや貴方が、ですよ、ムッシュー。二つの街路が直交して四つのブロックがせせり上がって来た時に、喇叭は高々一つのブロックでしかないのではないか。今はそんな危惧がしますが……

阿倍 いやいや、ラッパは私にとって貴方の形態を排斥する数字とも言えるでしょう。

芥 だから、「喇叭のその様な魔球が果たして飢えのプレザンスをブロック化することが可能か」と言っているんだ。もし人に眼があるとしたら、その眼の権力は満たされたプレザンスをブロック化していることだから。生息圏が悉く沈められている。

阿倍 プレザンスですか。あの怠惰な運行をそれはともかく、そういうブロックって言う言葉は気に障るが、ブロックっていうのは急速な運動ですか。

芥 惑星でないものを言っている。非プレザンスの路面上の区割……。

高松 言語っていう言葉にひっかっかって来る。だが速度ある鉱物は無関心です。そんなことには。実際の甲板には波一つ有りはしないのです。

芥 言語っていうのはブロックの嗚咽ですよ。窪み始めている肉や、そこの大地のメス供とが走り出す。「ヒトが阿倍に喇叭を吹き鳴らしていくような安全な方法はないのか」と言いたいのだ。やるのだよ、解っていても。それは“わざと”やるのだよ。

原田 「実際、人間がひとり居る」っていうことは、死の創造主の無い僕達の場合ものすごく恐いことなんだけれども、それに較べてこれ又ものすごくのんびりとしている文学と美術ってことは、何ていうか片手間仕事にすらなってしまうっていうことなんだけどね。こう言っている時、私は科学的だよ、でも科学では他者を政治化出来ないのです、諸君。

芥 人間が抹消されていくっていう過程でしかないんだろう、でも嬉しい事だ、お互いに。

原田 その裏切っていることっていうことが。文学は飢えのト書だ!

芥 君を殺せば別だな。

原田 そうだ、恍惚とした私自身だから街より速い肉の列もが国家を賛え出す。

高松 文学することと喰うこと、演劇することと喰うってことは……

芥 全然違うんだよそれは。エネルギーの量が違うんだ、ブロックの所有する。私には二十四才という死の量が在る区割がある

高松 何ですか、エネルギーの量が。

芥 政治で。飯喰う事は政治では測れなくなってしまう。だってその証拠に文明が発達した区域でしか革命は起こんないんです。それ以外は皆な民族学です。「人が居る」ということが恐いというのは、「人が居るということは政治以外の何物でもない」からだ。権力なのだ。それは肉を急速に成長させる。

高松 それはかなり正しいようだが、ただそれは文明的に期待出来るとは思わないけど。

芥 戦争があった痕跡というのは政治であったから、だからそれを文学とする奴はいないのか。専問家として出せるやつはいないのか。政治化しない街路っていうのはあり得ない。みんな地球の営みに持っていかれるから。

原田 私の言ってた「人間が一人居て」っていうのはその人間っていう

芥黎子(歌う)カーサビアンカのが、所謂その因憊だとかヒルとかガマガエルとかいうのとは違って来てしまう訳ですけどね。でも、考えてみれば、路面の上ではガマガエルでさえ夕餉に向かって暴走するのだもの。

カーサビアンカ

芥 脳髄を惑星から引き離すことは可能か? 死刑を望まないのかっ

夏際 「可能か」っていうよりね、脳髄は惑星から引き離されているっていう形態でしかない。

芝山 「可能か」っていうのは質問だよ。

夏際 居ることは質問じゃない、答えだ。「俺が居ること」が答えだ。

芥 答えは肉の危機だから質問も時として君達の肉に危機をもたらすことがあるのです。詩人よ、コオヒィ、コオヒイ。そんなとこにつっ立ってんじゃない、アヒル。アヒルなんだよ、科学者めっ。女が歌い出すっていうのは何かが近付いて来てるんだ。

カサビアンカ 鳴り出す 芥黎子、愛児を抱いて歌う

原田 だから結局脳髄となら……今夏際さんが言われた詩人脳髄が肉体の出張りというものに脳髄の方から削り取っていった時にね、この机の端から端迄でコップを動かすとかっていうのが、例えば「喇叭を吹く」とか、「ものを書く」とかいうのと同じく重さを持って来るって言うようなことを確かめてみて下さい。芝山さん、是非そうして下さい、きっと俺の苦悩を見ることになる。

芝山 ところが、「俺」ということが入るとそれは別のことになりますね。私が比処からそっちへ行くことと、このマッチがこう動くのは違う事です。それから夏際さんに一つ聞きたいのですけど、「惑星というからには地球とは別もの」ですね。

夏際 惑星っていうのは言葉です。君達は死ぬ。私は死ななければならぬ。

芝山 言葉ですね、比喩でも象徴でもありませんね。

夏際 そういう話は解らんっ。

芝山 私も解らんのです。

夏際 「惑星って言ったら惑星でしょ」それがマスターの言葉ダッ!

芝山 そりゃそうですよ。ところが後に何か持っているような気がしたから聞いたんですけどね。例えば、「ブロックであり得るのが惑星だ」とか、そういった意味付けがどっかで企てられてるんでしょ。すると惑星とは一体何か?

夏際 「ブロックであり得ないものが惑星」?

芝山 とある俳優が言ったわけです。

夏際 泣き声で言うんじゃない。私がそんなこと言いましたかっ。

芝山 あなたが最初に惑星という言葉使ったんじゃないですか?

夏際 違います。

芝山 あっ。勘違いですね。

芥 蚯蚓(ルビ:ミミズ)蚯蚓(ルビ:ミミズ)だよ、蚯蚓(ルビ:ミミズ)だよ、そんな事は。蚯蚓(ルビ:ミミズ)が大挙して押し寄せた時は原爆一つでおしまいだ。腐乱したメスの遺体に這い回っているんだ!

シモン (唱う)船長のことオパパのことオ皆んな皆んなアお仕事オ

夏際 原田君、さっき阿倍君に聞いた事だけど、

原田 はい……こいつらと来たら退屈な伝統だ、全く──へへえっ

夏際 阿倍君が喇叭を持っている事と其処にそうしている事とを二元的に考えてるんじゃないかな。だからあんな事聞いたんだろう。それ程、阿倍君に関係ないことはないんだ。「文学は片手間の仕事だ」とかさ、“文学”というものを別に考えているのだ、二元的に、

芥 そうやって文学を隠す方法しかないんだろう。えっ

夏際 隠してはいない。

芥 手の位置で足を隠すとそうなるんだよ、此処で喋ればいいだろう。

夏際氏移動する

芥 よく見える? ドア? 窓、それともエレヴェーターのように?

夏際 いやそれは違うんだよ。何処で喋るととかいう事は、コップとはコップの消滅であるという社会的大気の幸せに禍い合う事……

芥 人類が無名なら原田君という活字を使う必要はないのだよ、もしそこで“原因”と使うなら貴方は“原因”という惑星の上に居るんだ。

急に立ち上り、足の位置でマイクのジャックを切ってしまう、そのため5分程記録が残っていない。キッチンで顔を洗っている。

夏際 喇叭を吹いたり文学をしたりする事がさ、なんか居るっていう事とは別な事、それを人間的に考えているからそういう質問が出て来る。例えば飯喰って糞してっていう風なものと、うん、そうだなあ……? だからこの間で文学とか喇叭とかいう言葉を持って来たのは君なんだよ。そうでしょう、誰もそんな事言っちゃいないんだよ。無いから、ヒトは無いものについては語れないから。喇叭を持っている阿倍君と此処に居る阿倍君とを較べて別のものと考えているんだ。だがね、阿倍君にとってね、情況は其処に座っていること程清々しい事はないと思うんだよ。どうやらねそれが演劇だもの。裸体の地球を処刑するだけが、彼のような子供が担うべき栄光じゃないぜ。メスは死ぬ。だからあなたの質問はちょっと可笑しいんじゃないのか。白痴や役者や革命やこれは皆質問者に過ぎんのだ。

芥 そういう清々しさを一拠に静める事は出来ないのか? そこら辺にうようよいるイエス群の中枢へ路面を切り取り狂っていってしまうだけでなく、もっとも、鎮めるとか鎮めないとかってなると飢えと逆だっていうなんか……もっと卑法な行為でなくてはならないだろう。言葉を口にするならねえ。さあっお前達の清々しさを一メートル移動出来ないのか! 1耗、正確に、えっ何故だまりこくっているのだい? 詩人はそんなに死ぬのが恐ろしいのかい。人間は清々しい精密さじゃない、不幸の名称か。

阿倍 清々しき? 清々しさを移動する?

シモン オシッコオオシッコオオシッコオ

芥 私達を清潔な並木に歩かせてはくれないのか! そんなものはさっさと消えてなくなるがいい。サイレンを鳴らしてよ。でなかったらミミズやアヒルの流れ出す糞尿の大河だ。これは決して私達だけがそう思っているんじゃあない。ふふ、枯れたリンゴ畑をコンクリでしつらえであるこの床の上の生物群に一体どんな世紀が来るというつもりかね。

シモン オシシラシ、コッチ、フアアア

芥 そりゃそうさ、子供達が知っての通りにね。

夏際 だから、喇叭とか文学とかっていう話にしないで、その清々しさの話にした方がいいに決まっているだろう。ハイウェイの下でミミズがパトスの渦に呑まれて死んで行くのは運動のメカニズムでメスの孤独さ。

原田 ふふっ。それはどっちでも良い。オスメスも人間にも構わない事でね。いつまでも一〇〇米のフィールドをマラソンしてるがいい。パラリンピックや犯罪者の拍手。うん、失業に就職した青少年を撲殺するという希望が俺にはある。アマンドやミッシュリのバーテンにカービン銃の撃ち方を教えてやるつもりでいる、そうでもしない奴は街路の美しさを越える事はできない。しかもそれでは帰り悪いって事になるんだ。だが構わない。それでも志願した以上は留るべきだ。はじめに発見された場所にね。ありったけの力でだ。あるいはそうするのが恥しいのかね?

芝山 そう。

高松 だったらそのものを出生さすって事になるわけだけどね。眩しい略奪の予感は感じられる。

芥 建造物の被造の倦怠を否定する建造物っていう理性は最近在りますか? 貴方の生息する寄生街路に。何しろ街路は意識の首都を壊滅する。

夏際 こうやっている時ぐらいなんか全体の話をしたいね。全体は一つの属性だ。そこへもってきては革命など思想の犬死に場所にもならねえ。美術や演劇なども下らねえ。

高松 全体となると、言葉っていうのは必ずなんかの部分を指して、その肉を刺すもんだから。

夏際 言葉は刺すもんじゃないですよ、産れてない食事のように。言葉は何も指さない。何も殺さねえ、でもそこでは全部殺害されてらあな。だから俺はメスを30年間待たして来たのさ。二千年かなへへえっ

高松 ああ、何も指さない言葉で唯一僕は考えたのは、『この七つの文字』っていう作品なんですよ。本当にそれ以外はどうも必ず指しているようだ。私の鉱物が「死」の習生を曝くでしょう。

夏際 『この七つの文字』? 誰が?

高松 いや僕が。絵画としてね。それ以外に今は無いですねえ

夏際 じゃあいいじゃないですか、カフェテラスのテーブルは。それで七つもでれば十分だぜ。いい年をしてぜいたくは云うな。

高松 そう、だからでも、テラス全体の事となるとそれしかないって気がするわね。どうせお前は死んでいく、物質では死を曝けないでしょう。

夏際 いや、そんなこと解りませんよ、右翼じゃないのに僕は歩いているもの。現代のくせに出しゃばるのだ、時代の文字盤の上をね。

芝山 そりゃあ解んないな、何んて卑劣なんだい

高松 やっぱり全体っていう場合、部分っていうのを消してくわけですよね、君やダビンチやトビ職の様に、ね無能な30才が消えてね。

夏際 いえ、もう一度言ってみよう、全体は一つの属性です。ふんっ、これはどんな現代詩の銃よりはっきりしている。全体って言った時に部分っていう言葉は絶対出て来ない。

芝山 出て来ない。そうっ、出て来るものですか、海は窪地で、窪地は海であり、人々はその生成と死滅に介在するのですよ。あの人は正しい。私は私の現代を完成します

高松 ああ──。そうですか。

夏際 夏際は零だ、全体というのは一の属性ですから、私だ。それを知っていてわざとへマをやらかしているのだよ。失敗が正確に一つの権力機構を突き出している。

芥 そういう時代も私にはあったかもしれない。間違いなく社会機構の立派なお話しですね。五才の長男に、それは有り得た時代の清々しさだ、でもはっきり一度忘れた筈の科学としてだ。欺まされるんじゃない、いいかいもっと気を張って、こういうことは。

夏際 いや今もその時代だよ。ずっと欺まされて来ているのだ、その失敗に。

芥 いや時代だけが失敗していく疫病の永久革命のように漫延してるんだ。そのように死の側からしか君達には物を視る権利が与えられてない以上はそうでしょう。分ってますよ。私は長男を連れて同時に被造の声を聞いてしまった。もし死を口にするなら創造主の習生を曝くことだっ

芝山 そうだ、何かが漫延して──

夏際 何が漫延したって構わないんだ、僕は楽しいんだから。諸君とこうしているとね、バカでも利朽でもお構いなしだ。邪魔しないで欲しいものだ。喇叭とかね、君、文学とかっていう話は止めるのだ。いいかい、もっと命を大事にしなっ坊や達、ラインの中寄せが、

芥 その“楽しい楽しさを私が奪いに行った時”が来るが君達は一体どうするというんだ?

夏際 奪いに行った時に? 生意気言うな、ガキッ

芥 ううん……奪いに。そう、私程のガキはそうそうは居ないだろう!

夏際 奪いに行った時にっ。

芥 生まれてから此の方、一度も楽しみを味わった事のない奴が居るかもしれないものなのです。いつも遠方にねッ

ボーイ まあっそりゃそうだろうなあ。居るかも知れない、法や犯罪や国家を貫通していくトンネルが完成するのですか。バカバカしいっ

芥 そいつの歩行の形跡が略奪の覆行だ、そいつの後を大挙して追っかけている奴、やっぱり問題はないよ。中枢ではそんな奴等の触覚器は用をなさないのですからね。先々には強い奴がいる、だから悪を用意する。

シモン キャアア──。

夏際 ……

シモン キャアア──。

芥 例えば、科学が一であっても企業が買収すると全部零になりますもの、ここまではいいでしょう。

夏際 それは全科学が1でないからです。

芥 そうです。

シモン チョウダイ、チョウダイ、

高松 科学は1じゃないっ?

芝山 加法の時零であって乗法の時に1になるようなものは1じゃないんです。常に1でしかないものが1なんです。

芥 では今、貴方が、“位置”だとでも言うのですか?

高松 2も1の属性という意味ですか?

芝山 2ということは考えた事がありませんもの、私は。

芥 2というのは1の周辺に点在する予感ですよ! 原住民の数字です。

諸氏 うっははは……イッヒヒヒ……ウヘヘヘェ……アハハハハァ……ふふ……

芥 えっ? 私も笑うのですって。

高松 零は? (極めて冷やかに)

芥 え? ……

高松 零は? (同じ調子で)

夏際 零は1の属性です、はっきりといいます。

芥 居ることですもの“位置”は。「∞」が死のエロスです。一つの環状エロス、提防のね。無限大は総括されて来ています。

高松 無限大が?

芥 そうでしょう、今の話しで行けば、間違いなく。一匹づつ死んで行くように、です。

高松 マイナス1は?

芥 え?

高松 マイナス1は?

芥 影!

高松 1の何ですか?

芥 「影」、影です。

ボーイ 1の影。

芥 普通負は窪地の媒体だから。戦争が起こります、その時は。

芝山 だったらこの後はどんどんルートマイナス1なんてのが追っかけてくるかも知れないね。

芥 それも総て遊びです、やっぱり科学だもの。羊の飢にすればいいっ、でも羊は諸君より理性には飢えていますよ。

夏際 はっはっはっ。被造物の犯罪だ、そんなもの。

高松 100は?

芥 えっ?

高松 100

諸氏 ウハハアアア……フフフ……

高松 100は1の何ですか?

芥 貴方がそう言い出すのは、何時もあなたが鉄砲持って駈けて行かないという事の証明にしか繋らないのです。仮に貴方が1だけでしかなかったら、貴方はもっと動かざるを得ない筈だもの。「みんなを怒らせろ! 」とカフェ・テラスの客に伝えておきながら、誰も怒ってる人が居ないっていうことはどういうことです?

高松 「僕」は言わなかったのです。

芥 そういうのが100だって言うのだ。言い訳は幾らでもきく。でもそれじゃあ相変らず猿と民主主義の範囲だから、非権力な自然に一体化してしまうでしょう。猿が芸術的絵画を示すに至ってフルシチョフを驚かすことは出来ましたしね。猿を主人公にした映画は利益的でした。(歩き出す)例えば本当に1を持って来るんなら、1を消して見せてくれないかな、と秘やかに敵意を歩かせよう。

夏際 本当に“1を持って来る”“持って来ない”ではなく、“1でしかない”っていう。身体のある1っていうのはそういうものでありましょう? 例えばお前達の間に唯一っていう言葉がでる。そいつはうまい具合に観念でないっ。1がこうやってこうやって手を掲げたりしている。(自己嫌悪を冒してまで様々な身振りをする。その清々しさが眼に止められ)

芥 それが居るということの楽しさだから、居るという事は1だよ、それは確か、卑ワイだけれどもはっきりした事だ。国家のように法のように。だがいいかね、1は移動するからね、気をつけなくては、原爆や水爆や……

芝山 「移動する」ね。

高松 それは三身一体なんでいう権力と国の人間的事物もあるからねえ。

芝山 ルートマイナス1を2回自乗すると1になるしね。

高松 それも1か。1は私を離さない。ここは気狂いが多い。

芝山 まあそれだけの話を持ち出す積りはないけどね。

芥 “三位一体”はテクニックの“総括的問題”です。要するに一を存在させるための……権力としての政治(ルビ:テーゼ)するデートです。

高松 そうだねっ──。まあ、でもテクニックが必要ならばそのテクニックの前にあったことはやっぱし、テクニックだから……。

芥 だってある一つの脳髄が身体位置を水平歩行した結果だもの。いいですか。その証拠に諸君の祖先はもめたんですよ。あれもこうやって会議を開いて決定されたのです。ホールインワンを。

高松 ふふっギャラリィの権力だ。

夏際 その時並べられたテーブルの真中に誰も居なかったのだ。その結果、やっぱりエロスが充満するのだ。でもね。この今真ん中てのはさこれはあの群集が集り合う場に発生する図柄とは少し形が違うなア。いいことに群集が集まると必ず円しかできない。詩人供が活躍すりゃいい。

芥 零が発生する……そこをさして俺の基だと呼ぶ奴が居ないのか! この家には、この土地には天皇は居ないのか。逃げ回りながらセックスを解禁されたインテリー供しか居ないようだ。

夏際 墓? 墓とは呼べないな。

シモン オブチョウダイ オブチョウダイ

芥 うん。天皇の退屈がおまえ達の歩行を禁止するのだ。墓とは呼ばないが。恐しいロータリーとか。
シモンくん、「誰が船長に見える? 」……(夏際氏を指差して)……「彼でしょう? 」真先に船長に視えるヒトは真っ先に殺られたりするからっ ウッハハハハハ……。

高松 でも“1だっ” て言う以上は“1じゃないもの”を想定してしか刺さないわけでしょうに、

シモン チョウダイ、チョウダイ

夏際 いや、いや、想定の話じゃないんですよ!

高松 でも“1と”言葉を喋る、貴方は、はっきり喋っている訳だから、貴方以外のものの全域を抹殺しようとしているでしょう。

夏際 ふっと気がついたら“1なのです”たまらなく(リーン、リーン電話が鳴る)

高松 だから貴方が気がついた時に1じゃないものがあるから、殺意なり愛なりが作動するのでしょう。

夏際 でも、やっぱり“ふっ”と気がつく。“貴方”は“思考”の“範囲”でしか“物”を言わないからそういう風な“形”になるんですよ“言葉”が。言葉で肉を物質から引きはがしたらいい。

高松 では“喋ベるっていう事”はでも“喋ベるっていう事”で“思考的であるに過ぎないかそうでないか”っていうのは?

夏際 あたかも物質による宇宙的徒労でしょうねえ「だからかろうじて喋べる事によって喋ることでなくする(傍点:喋ることでなくする)ようにするっていう事」

高松 「喋ることで喋る」或いは、

夏際 それがこの人間の倫理さ。悲しいじゃないか。

原田 それでは一つ意識による屠殺がもたらす発狂を沈黙のメカニックな非意識とでも言って上げましょうか。

高松 「喋ることで喋らなくする」

夏際 いやっ「喋らなくする(傍点:喋らなくする)ために喋るって事」じゃあ“喋る事”にはなりやしません。物のまわりをうろうろ這い回るだけで、人生を終えれば良いその話は貴方の死を廻ることしかしないんだ。実現すべき死を携えて来たりはしないっ、何時迄語っても、でしょう? 僕は役者なんかじゃない拍手は不要さ気にかけてくれなくていいほっといてもらって十分楽しい。

高松 それはでも二、三時間喋った場処で貴方が観察することだけでは到底解る事じゃないでしょうに。

芥 解る! 解らない! 解ったようで解らない! この三つは同じ事だといっているのだ歩いてしまえば観察が自滅して経験は喋らない。

夏際 一秒もあれば解る人間がやってることだ。高が知れているんだ。

高松 解り方のほうが一杯在るんじゃないかな。

原田 一のデフォルメだよ、全部。公衆は無利益と来てるし、しかも自炊の破片群だ。

夏際 原田君のきっきの話にまた戻るようだけどさ、要するに貴方がそういう事を言ったというのはね、例えばあのね……

原田 今でさえコップのこの破片ひとつだって自殺できなくて悩んでいるのだ。テーブル上では、物書きならこの屈託無い情念領土を統御してみろ。

夏際 誰が物書きだい? ナスビちゃん、文学なら、あれはなんの統御なんかしやしないぜ。

夏際 そういう表現の領地のものしか疑ってない。貴方の考え方の基盤に於いて、そういう話は『あっ』という間に済んじゃうのですよ。“違う表現では”ないから。表現自体を殺戮せねばならないのですね。そんな話は千年位前に済んでいる筈ですそういう考え方は余り変わっていないもの。『進化論』ですからやはり。

芥 それは群集が不変だと言う事ですが、歩行中のルートで。

夏際 変わってない

芥 そうです、貴方が革命家でなくアーティストだという起源だ、

夏際 それは解らない。

芥 解らない時は肯定です。「いや解らないという事が肯定だからね。でしょう」解ったらもう相手を否定しています。表現の死滅が分かるのです。言葉は予想外の速度の凝積で成り立っている。

夏際 でもねヒトが集まった時位、革命とかアーティストとかっていう話はやめたいのです。

芥 アーティストが“革命”を口にするのも飢えです権力あるいはひ弱さの掟として知の消滅律としていいのです。

夏際 ヒトが集まったら楽しくはないのかよっ、絶対楽しくなるんだ。おまえ一人でやるがいい。残余の頃だ、所詮!

芥 1を抱え込んでいたヒトが零の全貌を見極められるから。それは群集の眼の権力だ、実際にね。

夏際 人が集まって楽しくなるんだっ。いいかね、私は諸君が居なければ絶対楽しくなれない……。諸君のお陰で楽しくなれるのさっ。これが私の一生の殆どといってよい。

芥 私は同感だ、その身振りが。そりゃそうだ、身の振り方が、私は子供がいなかったら革命家には公衆の国家として今より楽しくはならないもの。ウハハハハハハところで「阿倍君にとって音楽というのは何か」ですか? しばらく第二芥として口を効きますがね。

シモン ネッコイユ、マルヒム

阿倍 一番私に関係ない物、音楽はね、

第二芥 阿倍君にとって、では音楽とは何でしょう?

阿倍 関係っていうのはね、君、一番たわいな人物説明じゃないのですか“あの属性”が介在して来たらね毛穴から尿や血や精液が噴き出てくるような肉自体の排泄ね、君も知ってるじゃないか。

第二芥 では属性の解体のプロセスが関係でしょうか? 人間が地球を造り地球は創造主を産み創造主は人間と生殖して言語と交り関係したのですよ。

阿倍 いやいや“介在”の機構ことです。貴様も腹黒い奴だ……

第二芥 “種? 属性”が“おのれ”に介在して来る“プロセス機構”が“関係の地平です”か? 更に、貴方にとって種の“属性”とは何ですか?

阿倍 「属性というのは何か」って言われても非人称ですが、種を死滅させて見せれば良いのだろう。

第二芥 おおその死滅に或は属性に対して如何なる対峙を以ってするわけですか。黒々したざりがにのペニスの先端がねっ
(咳払いゴホッ ゴホッ)

阿倍 属性に対しては、私が属性になってる筈だ。間違いなく私がね。私は殺されるその時お前は死ななくてはならぬ金属性を歩行さすのだ。

第二芥 彷徨っている金属性をそれなりの処へ導き案内して静まらせる訳ですね、“私”とは、良き日々の暴発として他者を関係付けする。

阿倍 Oh! YES. そして私は一であると同時に位置でもある。うっはははっは、

第二芥 位置、Position? Status? Position?

阿倍 Status one.

第二芥 Statusと喇叭の位置はどうなるんですか?

阿倍 喇叭はねえ位置じゃないんだよね。川崎という土地があるとしたら喇叭ってのはあの位置を据える場所でしょうに。

第ニ芥 場所と“私”の“Status”の関係はどうなるんですっ。

阿倍 そうまさにっ“場所”は位置の属性なんですっ。

第二芥 「場所は位置の属性です」そうですか? それで不満はないのですね。

阿倍 ええ。

第二芥 そうすると「社会は私の日常の属性」ですね。

阿倍 「社会は日常の属性」? ふんっ何か不可解ですがねえ……これ以上私を困らせない方が君の身のためだ子の事も考えろ

第二芥 実際“私”は装います。子供を抱えて彷徨ってる訳ですので、あなたの私的な日常を模倣すれば実際に俺は“私”の家庭を社会化することが出来るのか、出来ないのか! 貴方が、彷徨ってる物々をそれなりにふさわしく導き案内してひとつの形態が在る場所に運んでくれる訳でありましょう? そのブロックへ位置の全能性あるいは権力性を運行するための。

阿倍 え、ですから、それは出来るのです。ヒトが在るからには、そのようにしなければならない。あの喇叭が倫理してしまう。ヒトの姿でもさえ、任かして欲しいものです経済をね。

第二芥 義務にはなんらか君のの飢えが私供に介在する訳です。

阿倍 そうです。

第二芥 それはどっちからやって来た訳ですか? 場所の方からか、Statusか、喇叭か、貴方か?

阿倍 “私”の位置ですね。

第二芥 位置! ふふ、言葉一つでたちどころに人間がだまされて、

阿倍 「私という位置」です、はっきりしています。

第二芥 そうするとやはり言葉の“ヒト”なのですね。

阿倍 私ですが?

第三芥 はい。

阿倍 私は……、“言語の”、ていう意味じゃなくて“ヒト”全く、様ったらねえや。

第三芥 はい。

阿倍 違うっ。

第三芥 じゃ言葉は貴方の“位置”にとって a certain attribute 一属性な訳ですね。

(水の音、チャプチャプ)

阿倍 言葉っていうのはね。

第三芥 属性ですね?

阿倍 ええ。

第三芥 はい。さて、言葉を鎮め、案内し、導き、方法として。

阿倍 言葉っていうのはだから……

ボーイ うるせえなこのヤロウー。おめえのは音楽じゃねえよ。うるせえだけじゃねえか! ギャースカギャースカ、火山の方がいいっ。

第三芥 それが喇叭ですか。お前なんか交通事故で死ぬがいい。

阿倍 “言葉”は鉱物圏でなく“音”なんだよ、青二才の労働者め! 私の属性っていうよりも“音の属性”なんだよ、おめえの時間はな、その種のものでは、ふんっ。

芥 種において“言葉は音の属性”Not earthly existence? 金属性は音による音による事物社会を形成するが、それは音の消滅律に支えられているのですか?

阿倍 ええ、貴方は先程のボーイを殺す力をお持ちだ。

芥 するとだね、“音”と“私”の権力関係はどうなるのですか、一体? 口のへらない男だ、焼け爛れた子宮よ。ボーイのボーイの歌声に手でさわっている、孤独の日本政治を支配している。

阿倍 “音”と“私”の関係? そんなものビートルズにでも聞くがいいや。

芥 ええ、そうですね。そうしましょう、この土地は精神病が正常扱いだ。

阿倍 関係っていうのも“音の公然とした動き”なのだ、位置の移動だ。病理学は全滅してしまいます。

芥 私は貴方の言う通りのものだ。そうでしたら私は照れて踊り出すでしょう。

阿倍 位置の移動そのものが音の形態なんだ。だから音と言ったら須く人ははっとした。一〇五号が一メートル程ゆれ、移行し、床は勃起する。いつも人は戸外へ言葉を求めて駆けて行きました。そこで音と沈黙の権力機構の問題はどうなってしまうのかっと考えて見るのだ。

バーテン 音と沈黙の権力機構?

阿倍 はい。その場合、音そのものはどうなるのかな? 音っていうことはつまり……。いや、“音が動きだ”って言う以上、“動きの思考方向”いや、“方向”はどうなるのですか。何処をどう動かすのか? それは誰が決めるのでしょうね。フゥ──(タメ息)元来動きには方向は無いと思う。いやいや、「“私”は思う」じゃなくて、現にそうなのだ。そうでしかないのかもしれない。

芥 ひとり相撲になりはしませんか、それでは。

シモン カエッテノ カエッテノ マラシア

阿倍 ひとり角力とは? 気付かなかったよ私は喇叭と供にいた。

芥 結局は動いていなかったという事になって、私は踊らない。もっと私を初めるべきだったよ。急速に次々と方向を一方的に供給するか、抹殺されるかを。

阿倍 だからね、「動きには方向がある」というと、「動いている方向に行っちゃったら止まる可能性が出てくる」訳だよ。何時かは止まってしまうってのは動きではないのだっ。移動じゃないから、もはや民族も事物も移動しない。

芥 それこそが沈黙の権力機構よ。加えて、それと貴方の音との関係なのだがねえ。例えば最初に動いたのが自分ならば、その動きは自分では止められまいっ。「君達が居ると楽しい」ってやつだ。そこで反対の方向へ、「言い出しっぺは俺じゃない」という方法を採ってくると、逆に全然動いていないという結果がもたらされるので、敢えて、「危険な方向を取るもの」……それが私の政治だっ。窓の外の平和な時代にあって。

夏際 おはよう! 「音と雑音の違いだと思う」って阿倍君言ってましたね。それは思い込みじゃあないですか?

阿倍 思い込み?

夏際 例えば音を上回る雑音が現れて来た時は貴方はいったいどうするつもりですか?

阿倍 それは voltage の問題ですかね、周辺に voltage が上回っている事だと、そういう風に聴こえちゃうんだよ少年の私の場合は、恐らくそういった事ではないだろうけど、“形”としてですよ、飢えのね私が少年というのは全的な爆音や雑音の風景が支える飢えの形式なのです。

芥 方向のない動きは、すべて“形”として出現する筈だっ、でしょう。物の表面と切り結んでいる大気もそうです。

高松 「方向のない動きは形として」だと。

阿倍 あのね、強力な雑音にはスピードがない、って事でもないかね、地球の動振動とロープされている。

芥 “我々は”で表わせてそのロープの動きを!

高松 動きに方向がないとやっぱり動きとは言えんでしょうね。事物に意識が形のロープとなっているのだから。

芥 いや、それは解らん、動きもテクニックであるから、ロープも単にユーモアかも知れない。

夏際 まず単純に科学を持って来る、そして水爆とかいうロープの切断面を。

原田 それすら音であると言うのだろう。

高松 やっぱりそういう事は言えんでしょう。

阿倍 私の発するものしか音とは言えんのだっ。

原田 私は音などには少しも興味が無い。バリケードは無音だ。

夏際 やはり“思考”、思考の段階なんだな、現代芸術家は。

高松 何処から“思考の言葉”が“思考の段階”でなくなるのですか?

夏際 何を言っているのですか?

高松 何処やら“思考の段階”を超えて“思考でない段階”へ入るんですか?

夏際 貴方の事は知りませんよ。

高松 いや、貴方に尋ねているのです。

夏際 私が先程から言っている事ではないかっ。

高松 それが良く解らないのでもう一度聞いてみてるんですけど……。

夏際 解る必要はないっ。

高松 そうならもう何も喋る必要はないよ。

夏際 何も喋ってはおらん。出生は快楽の一部品です。

芥 それでもなお喋るからこそヒトには飢えが介在して来ているのだ。そういう時代に居る訳です。

夏際 政治的にはそうでしょう。

芥 ハッハッハッハッハッ。

原田 私は政治に関しては裸体です。

夏際 政治は私に指一本触れられますまい。

芥 ほう、誰が政治家かな? ! ……聴いといて下さあい。では貴方を政治家でしかなくさせるものが出現したらどうするのだっ。

夏際 いや何も出て来ません。私が、先に、やるのだ。

原田 私を殺せればの話しですよそれも。

芥 これはいい言葉です。

高松 うむ、ちょっと詩的だ。例えば煙草を買うとします。だが、《専売公社》が、《政府》が指触れてる訳ですよね。

芥 それは手の位置の権力機構であり、決して政治ではないですよ、彼が裸体になっているのとは別ですから。

(電車プ──ン)

高松 うん、位置、手の位置の権力機構ね、

芥 だから、それは地球なら地球の営みに対する手の下しかたの問題で、足の下し方ではない。一度足を下してしまったら、此如は戦場でしょう、彼の。

高松 うん。

芥 そういうものも配給制になるだろう問題は眼球位置なのだっ。手の位置機構をも眼球位置の機構に転換し得たなら、眼前に広がるものは私の政治になるだろう。

高松 うむ。

芥 その時こそ私達が《専売公社》の中に迄芝居をやりに行く良い朝なのだっ、そういう朝が何時起るとも限らないというのが昼ですよ。位置は移動する訳だし、移動直後に物質の夜がある。それには権力の位置機構とそのルートを詳細に見聞しなくてはならないのですし、でも一人が助かれば少なくとも十人は助かるのだよ、そういう生命が拡大されるルートは、昼を歩行し朝を走破する実物大の大きさだから夜は何時でも死を遠ざけつづけるのです。例えば彫刻なら彫刻が政治に対してシンデレラの沓を用いた事はないでしょう。権力の朝の逆転です。

シモン カニタヤナイーン

高松 彫刻家なら彫刻家が? シンデレラの靴を……

芥 ええ、そうですとも。

高松 シンデレラの靴? ねえ。

芥 例えば「お前二センチ頭が高い」と言うなら、ちゃんと二センチ切って王になるから、そういう沓を用意して欲しいんだっ。手が一厘位長いというならちゃんと切るから、それが美というもんだよ、もしあるならば、もろに「腹を切る」と命取りになって駄目になるからね、あれはやはりシンデレラじゃない、沓じゃないんだよ、シンデレラは一杯居る訳だ。皆さんに沓を搬んで来なきゃならない、そりゃ若干の苦痛は免れないけれども……例えばコルトレーンは四つの、ブロックから音を発生させている訳ですが一つの区割から死が……では高松さん、貴方の命を奪うものは何でしょう。

シモン シンチョン、フッチョン

高松 命とは何ですか?

芥 ええっ?

高松 命。

芥 ですからね……絶対位置属性ですふふ。

高松 定期的に心臓が止まるとか……

芥 それは聞かないで進みますよ。

高松 ハッハッハ。

芥 教えなくちゃならないから命を、未だ国家を引きずり出す事もない無期刑をね。詩人供がこぞって肉体を差し出してしまった。

高松 フッフッフ。

シモン タベタノ? オニイチャン、マーマアン

芥 もし“私”に命が在るんなら命を防衛しようという話からしか始まらないんだ。無期刑の中央でだぜっ。

シモン カッカ、カッカノダ、ポン! オイシイ?  センチョオ!

芥 例えばアヒルには女が必要ではない、泥鰌が居ればいい、蚯蚓には鉄砲は要らん、湿った土地が在れば充分だ。さっきの百や二百の話になって来るから。
そういうものを統轄するには命を以ってやるのではなく死で以ってしなければ辻褄が合わなくなる。そいつらが人間面らさせるのを止めさせなくてはならないからね。

シモン イタイイタイイタイイ、オニイチャンガーナノハニトマレ、ナノハニトマレパ

芥 阿倍君の喇叭は衰退していく地球を何処へどうやって導きますか?

阿倍 地球?

芥 そうです、貴方は昔でないものは全て導かなければならない義務を負っている。でなかったらそれ程倖せそうにして座って居られる筈がない。

芥 飢え、飢えでしょうね。飢えはドアです奴の習生を曝く!

阿倍 だがね、その……

芥 飢えが介在せぬ義務は義務ではないっ。

芥 君が今、「何処へどうやって」と言いましたね。

芥 はい。

阿倍 「どうやって」ってのは解るんだよ、でも「何処へ」ってのが解らないんだ、また方向が出て来ちゃってさ。

芥 “私という位置”っていうのは困るんですか?

阿倍 だから、当然その様に使われた場合はその様に答えようとは思っている訳でね。でもそうなると「何処へ? 」と言われて、「“私という位置”という風にしちゃうと、今度は位置がひとつの方向になちゃうから……

シモン ウーン、ナエ──

芥 と言うよりドアになっちゃうんだ。そういうのは。でも此処から先は取り引きでしょう。取り引きだよそれは、絶対に! 数式が死滅して後、言語ほど取り引きのテクニックが介在して来る場所は無い筈だから、例えば千円迄は金だけど、千円以上は金ではないというのもそれだ、千円以上は取り引きの単位だっ。蚯蚓やアヒルを動かす時の単位なんだ、言語なのだっ。人が来たら此処に政治が来るからそれは言語ではなくなるからね。だからさっきまでヒトとして居た奴が部屋を貸りる金が無いだけにアヒルになったりする訳だ、現にね、民家は窪んでいくから。

芥 君なら君が民家に窪ましていくこの光慌を、いや止めよう。高松次郎が高松次郎と呼ばれる時には、此処には何らかの領土が在る訳ですよ。これならいいでしょう?

高松 領土?

芥 ええ。位置の領土。

高松 ああ、領土。

芥 ええ、此処へこうして肌を昞している以上、此処の領土の統轄者として充分立ち振る廻らないと、言語にならない。

高松 領土が“私”で、“私”が領土だとすれば、一体何物がそれを統轄したかね
えっ?

芥 貴方が統轄しなければ、私が統轄してしまいます。

高松 でも「“私”が領土だ」ったら“私”が領土なんだから統轄されるものでしょう。

芥 死ぬのだっ、そういうヒトは!

高松 ああ── 。そうですか

芥 だから命があるなら防衛しろと言ってるのだっ。

高松 だから貴方流の命が在るのか無いのかまだ言葉で言える段階じゃないですから。Jazz が消滅してもなお。

芥 コルトレーンならコルトレーンて言う時に此処にひとつの一領土が在る訳ですよね。

高松 うん。

芥 それが何処がどうなってるのか解らん訳ですよ。だからこそちょっと風が吹いてこれを撫でていく時にここにちょっと見えてきたりするし……

阿倍 では今、「あなた流」って言葉を使ったですよね。

高松 ええ。

阿倍 言葉には、あなた流とか誰とか流とかいう事ではないものでね。

夏際 Oui !

諸氏 ハッハッハハハ、イッヒッヒッヒ、フフフ

高松 でも言葉には意味がある訳だよね。

芝山 ない。

夏際 ない。それは思考の範疇だ。あるないの話じゃないけれども。

芝山 意味なんかどうでもいいっていう話なんだ。

夏際 あるないの話じゃないよ。

高松 じゃ今音楽会な訳だ。

芝山 意味がなければ後は全部音になっちゃうんですかっ

芥 その言葉は貴方が領土を放棄してしまう事だぞっ

高松 ハッハッハッそうおとりになりますか。

(電車プ──ン)

芥 取引だったのですものね貴方でさえ。

高松 いや放棄してるでしょうね、領土っていうのは恐らく放棄しているでしょう。

芥 何故携えないのか? そうしないと言語が命と伴にあるというこ事にならないのだっ。人の手に渡っていた言語ではないという事になる訳だから。それなら世阿弥の方がまだいい事になる、先に言ってるのだから。

シモン チョ──ン

(夏際氏トイレに入る。ここのトイレのドアは取り払われている。ふふっ)

高松 うん。

芥 「命に果てがあるとも何とか果てあるまじきなり」とか。

夏際 (トイレから)花伝書だね「命には終わりあり能は果てあるべからず」だよォ。

芥 Oui !

夏際 聴こえたかなあァ、トイレの中からなかなか出ないんだよォ。

芥 排泄力学が手伝うよっ。
例えば彼の臀部の肌がリノリウムに触れる訳でしょう。そこら辺りしかやってはいないのだっ高松次郎の領土では。

シモン レイコチャーン、ネエネエ

高松 いや別に何をやってるとか思ってないけど……

芥 思ってないけど?!貴方が思っていない、範囲外のところで全てが起こってるとしたらどうします?

高松 範囲外の?

芥 うむ、そうだ。

高松 だから……

芥 それだよ、「命に果てあり初めて能には果なし」ふふっ。

芝山 あるべからず。

夏際 領土とは領土外の事だっ。

芥 Oui 無臭!

高松 でも今のようなコメントがどうして付かなけりゃならんのか、言葉に。コメントが付いているでしょ、「領土とは領土外の事だ」というコメントがどうして。

芥 それは彼の領土から発せられたテーゼだ。

高松 うん。

夏際 言葉ではない、演説だ。

芥 ヘッヘッヘヘヘ 姿見せないとすぐ勇気をふるうのだよ、非人称だからな。

シモン キィ──。

夏際 なに、非人称はうんこなぞしないぞおいっ。

芥 するのだ。まだまだ地球上に居るんだ。はははっっっ

夏際 いや非人称はただ歩き廻るだけだよォ。

芥 そうかも知れない。無名歩行の永遠なるものめっ。

夏際 彷徨うんだ。あいつは。それだけだ。

芥 彼が排泄したものが長らく“芸術”であったりしたのだよ、 He is a earthly actor.

夏際 私のは違うぞ。

高松 ハッハッハッハ

シモン バカ! マッ──ヒ

第四芥 芝山にとって書くこととは何と伴にあるわけですか?

芝山 何とともにあるって?

第四芥 ええ、それとも。いえ何と伴にある訳ですか?

シモン コッチネ、コッチネ

芝山 うむ、フィクションという糧と伴にあるんです。

第四芥 糧?

芝山 糧です。

第四芥 日々の糧ですか?

芝山 日々ではない。フィクションという糧とともにあると僕は言ったのです。日々の糧とは僕は言っておりません。

シモン キャア──

第四芥 貴方にとって日々がフィクションではないんですか。

芝山 僕にとってですか?

第四芥 日々は実物ですか?

原田 フィクションはどの様にして貴方へ訪れるのか?

芝山 訪れないです。僕はフィクションの中に居るから。

芥 フィクションの只中に

芝山 灰皿の只中に居るからです。

第四芥 嘘だあっ。そうすると駱駝が針の穴っていうまたあのいやらしい……ええ、日々。

原田 今という日々これは肉の絶対性だっ無は生肉の悪意だ──。

芝山 そんな事になりませんよ! なる訳がないじゃないですか!

原田 いや、解らんなあ……

芝山 ともにじゃなくて、只中にあるんです。

芥 そうすると歩行はしないんですか? 只中にあるわけでしょう。そうするとそれを携えては歩行しない訳ですね。

芝山 いえ。歩行しますよ、だから僕の机は何処にでもあるっていう話になっちゃうんです。

芥 話になるのかい? 命にはならんのですか?

芝山 命でしょうね。

芥 フィクションは命とともにある虚構です。

阿倍 物はヒトの死の一様態な訳です。

夏際 うん。

芥 日々と言ったのは、今っていう話なんだ。物と物を繋いでいるのは日々だから。

芝山 物と物を繁いでいるのは僕の位置領土です。領土です。

原田 その領土が僕の命を駈遂しにやって来るのかということだ。

芝山 命を何するだと?

原田 駈遂する! 駈遂しにやって来る。

高松 あの阿倍さん、今物と物の間って言いましたね、日々と言いましたね。物と物の間が日々だ、領土だと言いましたね。

芝山 僕の位置領土です。

高松 まさしく今、ひとつの言葉がふたつの言葉を発生させたわけだ。それがさっき僕が言った言葉の個人性だと書いたかったのだが。

阿倍 でもねえ、仮に個人性があっても言葉ってのは“言葉”ではなく言語だ。

高松 だから何も個人性が全てだと言った訳じゃない。個人的な側面もあれば個人的でない側面もある。

芥 今の話はまだ結論が出ていないんだ。どっちが人の言葉であったかについては。

高松 うん。

芥 私にはそれなりの自信があるっ。

阿倍 私もそれだけの自信はあります!

高松 だからそれぞれの自信があって張り合う訳けだ、それが一つの言葉の側面だっ。

芥 張り合うとすると個人が出て来る──私は張り合っていないっ。張り合う必要を演じたのですよ、邪魔させないために──。

高松 フフフ。

芥 さっきから楽しんでいるのだもの。私が楽しむと諸君が真面目になるというのはどうした訳か知ってるかね。肉の窪みの数学だよ。

シモン ウマチョイモーン

高松 私は腹をたててるんだけれどもね。フフ。

諸氏 ウッハハハハハハ。

芥 そん時私は淫乱だった貴方は孤独だったけれども……

シモン お兄ィターン お兄ィターン センチョーハお仕事トォ

高松 でも腹を立てて楽しんでいると思っているんでしょう貴方は── 一部の人はそう思ってる事ぐらい少なくも知っとるでしょう。

芥 さっきの事はもう忘れましたよ。だってその苦しみはもうじきです。例えば──僕は人を怒らして楽しんだことはないですよ。いい風ですね……といいますのもあなたの肉もすでに僕の肉だからことのこの僕の肉だけが中枢で嘘となるんですよ。すでに大気は裂かれているのでそれを繋ぐのが不愉快だというのでしょう。

阿倍 アッボーイは相奴自身の詐欺の結果だったのか、俺の静りの皮ふを傷つけて。さては俺のラッパで火傷した奴等だよ。

芝山 人を不愉快にさせるのはいつも弱者です。だから人績の暴力がありつづけた。

芥 イヤイヤイヤイヤ 人は不愉快になどならないものです。知っていますからね、それを。

芝山 そう! なりませんね、なりはしますまい。この人は。

芥 人とは満たされた生物なのです暴力上の均衡で満たされた分だけ飢えがある言葉です。

芝山 いつも上気嫌でしかも飢えているのです。それで略奪し続ける、一切は略奪の対象となる。全能でない事への私的な怒りもやってくる。

(電話 リーンリーン)

芥 だから飢えとは私供領土の現前する路面としてあります。プレザンスっていうのは周辺の風景で文学はその周辺の運動なんです。プレザンスは周辺、プレザンスを周辺にしてしまうものとして飢えははっきりしています。これだけです──

夏際 解答です。

芥 それが“一”であるかないかの詩論だったでしょう、さっきの。「居るという」事が基処に発生してることによって全的に周辺がプレザンスとなっていく。これが Capital Tribune だ(笑い──失笑)だから文学とはその周辺を三角にしたり四角にしたりするだけなのだ。政治は円形だからね、最初の〈零〉を持って来る訳だから美徳の量をもってして、分って下さい。

芝山 解んないなあ。周辺の物語を語りに語り明かしてキャピタルにするのが文学ですよ。

芥 そうおっしゃってもあなたは周辺の意識に奇生しているんだぜ。

芝山 キセイとはどのキセイですか? 寄生虫の寄生ですか?

芥 Oui !

シモン ウハハハハ ウハハ キャハハキャー

芝山 寄生してはいません。はっきり言います。

芥 ひとりでレスリングしていれば内職に寄生するんだから、私も自然の遊戯性に寄生したりもしますよ。二人ですれば相手の孤独に寄生する、先に寄生した分量が若干勝利に繋がっていくがそれだけでは……

高松 相手もまた勝利に繋がっている。

芥 イヤイヤイヤ 相手は迫奪されるんだから(笑い)

夏際 一人でレスリングしてはいけませんか?

芥 あなたが決めて下さい。倫理はヒトの人生を決定したりはしないんだっ。“人”であるか“人”でないかを決定したりはするがね。

(事物のざわめき)

シモン アッアッアッウッキャ! ──オニイチャン チャハハハ ベンベン

藤森 飢えと眩しさは違うんですか?

芝山 番っているでしょうがね。かなり強度の数学です、だから飢えが大きくなればそれだけ眩しさの量も大きくなるでしょうね。

夏際 飢えに大きい小さいは無いのです、飢えはいつも全域を囲っています。一回性は撤去されるのです。

芝山 飢えは昂進することはあるんじゃないですか。まあ、大きい小さいはないにしても。

夏際 昂進しないでしょう。当然、決意性の領域です。

シモン ウップウップウ〜ア

芥 次々こうして私供は悪い船の上へ乗っていくのです。だって人類には突然変異しかおこった形跡がないもの、思い出してみる事の科学だ、淘汰性の統御は。飢えの昂進は飢えの音楽性です。

シモン トッテイワノ〜 アメ コレ

芥 これは絶対そうなんだよ、私でさえ否定していない。

夏際 人類だけじゃありますまい、貴方だけでもありますまい。

芥 貴方の大好きな鉱物も人類の身体だから気をつけなさい。人類の肉の組成機構を見れば分かるでしょう。私には肉の恍惚が見えぬのです。

(シモンの声、椅子の声)

芥 蚯蚓でも37億集まれば人類と呼ばれる辺りが私供の甲板の接線なんだ。ですから音楽とは音楽の消滅する飢えなんです

阿倍 芝山さん──さっき芥君とあなたが喋ってた時ね、芥君が無時間の“日々”っていうのとさ“今”っていうのが、かなりダイレクトでさ、かなり冗談だったけどその時貴方は黙って居たけど、それでいいんですか。

芝山 いえ“今”っていうのと“日々”を同じとは私は思っていません。むしろ敢えて言うなら──なんていおうかなあ──今は地球といっても私には不充分の様な気がするんです、“今”は私の領土だっていわないとこれは駄目なのではないかと思いますがこれも不充分な言い方だと思うんだよ“今”は何だと営ってもピンと来ないんだ、今の私には。

芥 “今”は領土だっていうと一人の無名になる“今”というのはひとつの突然変異なんだよ。ただ事物群の平均律の前面には莫大な不信感があるからすぐさま次の“今”を持って来てしまう──だからこれが“日々”だよ、歴史はそのエロスです。未来はその属性です。まあこれは「死の一様態」「死の一様態」を繋いでくれてるんだよ、ちゃんと。この上に載っかってくれるからまだ安心なんだ。諸君はこれを「日常という脳髄の誠実」といっているんだよ(様々の物事を指さしつつ)でもこれは(事物のざわめき)(咳払い)仕組まれており仕組つつ政治を生活化している。何故化石って言わなかったかと言うと、化石って言ってしまえば凝集領にまで時間が入ってくるからだ例えば道路沿いには化石で造られた時間のメカニズムボックスがあって其処に化石の小さいのをボチョッと入れるとあの化石の物質記憶をパッケージしたタバコとか切符とかそんなものが手に入る仕組がはりめぐっているでしょう、ネッ。そこへ《専売公社》まで身体自身を機構として持ち込むのがさ、お仕事だからね、そうしないと“日々”から脱落するから三十才で自殺するのも宇宙のキャンパスも同じであり日々の断片です。ただ阿倍くんの場合化石の中で一番弱弱しい化石をことさら選んで──アルトサックスですか、こう(笑い)化石を、全的に化石を造軍させるいいお仕事ですね、肉供は未熟な成熟を恥らうでしょう(笑い)だから化石「アッ、フィクションの中央に居るんだ」って言っておきながら、実は《古事記》 の中にしか居なかった。そういう悲劇が随分ある訳です。この土地に関しても階級の仕組は同質の力学であって悲劇と喜劇の違いは役者の肉の窪みに発生する磁力学によって左右されるのだっ「居る」「日々」「今」この三位一体性の路面へ。

高松 さっきから気になっていたのです。化石以外のものってどういうもんでしょう?

芥 そんなものあろう筈ないのに、肉! 落盤を防いでいるっ。

高松 「肉は化石ではない」?

芥 肉しか仕事出来ない、それが今でもあるという“現代”だっ。無時間裡に突き出している物質の総ての力学で、それは面到臭いから一言で言ってしまえば“現代人”って奴だ。で、現代でなかった時など無いのだよ“かつて”というのも“今”っていう奴の一つのイマージュだ。

阿倍 そうだ「あの今」という事だよね。

芥 そう、「太初に言葉ありき」っていうのは「今、言葉ありき」っていう話だから、だから須らく命と伴にあるんだ、これからもずっと。

松尾由起夫 居るっていうのは「肉が居る」訳ですよね、きっとそうだ。

芥 あるいは肉でないものもちゃんと肉としてそそのかしちゃえば、きっとそうでしょう。

松尾 「居る」っていうのは“瞬間”ですね。

芥 いいえ瞬間、瞬間の勝利のまごう事のない形態です。

松尾 居つづけるっていうのは瞬間、瞬間を居るということです。

芥 そこへ勝利が次々と介在しなければならないということを先程から私は…… 。

松尾 そうです──勝利。…… 「居ることが飢えていること」ならば飢えつづけている訳です。かつ略奪しつづけている。つまりヒト一人「居る」ことを考えてみて、「居る」その形は円くはならない筈です。なぜなら円はベクトルを持たない。ベクトルと言うと少し古いのだけれど、つまり力ですね。瞬間の「居る」ということの形──ベクトル。え──と、話をもとに戻しますと飢え続けていること、略奪し続けていることに、僕という同時性があるのです。というのは少年達の非国家の恍惚はそれによって築かれているからです。

芥 その代り日々は飢と共に増大していくからね。それが国家ということにならなければいいが、居るということの領土権が増大していく「飢えとは一つの足場として歩行路面へ現れつづける状態」だからこそ歩行しない君達の倦怠を飢えと呼んだのだよ。「日々に監禁された人々或いは人々の諸器管の政治性の俗怠を! 」が私には飢えなのだよ、こうなってしまえば言ってしまいましょう。万物の死に対する飢えとは天才の様式です。その天才の飢えとは……余の死滅を計量するでしょう。

阿倍 日々というのは無時間でしょ、天才とは……。

芝山 時間はあってもなくても……ってことです。あるものはある、ないものはない。

阿倍 今っていうのは無時間だよね、創造物が消えて行く理性のように。

松尾 無時間ということを言っているのですけれど、その、瞬間っていうのは平面性に富んだ無時間です。えっと、創造主という男の理性はそうなっているのですね。

芝山 瞬間なんてないよ。瞬間なんであるわけないよ。

松尾 瞬間というのは概念ですからね。人間達の国家制に穿(ルビ:うが)たわれた窓ですね。

夏際 おいっ右翼供っ「明日は曇り後雨」だよお、首都天気予報だ、

芥 ねえ君達。そこに瞬間を持ち込むとやっぱり自殺のロジックが出てくるよっ。死ねアミミズ供アヒルめっ。皆んな死ねっ不幸なんだ人間は。なっははははあ

芝山 瞬間だとか眼差しなんである訳ないよっ

松尾 消滅が出て来るんだよ、そこいら中そういうもので充満さ。瞬間っていうのは詩人のでっちあげた概念です。決まってるじゃないか。

芝山 瞬間なんてないよおっ。

夏際 下品な声を出すな! それとも又結構、誰が吸殻かでいい。

芥 化石はもはや瞬間に勝利することをやめてしまった。子供連は引越せばいいのだ。それは接岸の予兆だもの。

夏際 さあこの人は実行しますよ。もう一度見たいだろう、皆んなも拍手でもしてやろう、左翼どもめ。

芥 見に行けえ──貴様からなあ──っ。

夏際 新聞が来てるんだよ、新聞がね。公民たちの朝だ。

芥 読んで下さい、こうなっちまったらお願いだ。下品な倫理もヒューマニズムの美しい日々だ。

夏際 メコン──マレーシアはスカルノ夫人を……

芥 照れなくてもいいんだよ、ねえ、ヌードになって踊ったらいい蝿が飛び回るだろうペニスの付近を。ブーン 、ブーン男根の美学だ。

夏際 いや君の模放をしているんだよきみのなっ。

芥 それは素晴らしい蠅、自分を模放しちゃいけないよブーン、ブーン、命取りになりかねないからな。

夏際 ヒトを模放するんだ、ヒトを。ザリガニめっ! ヒトの命に関れ。

芥 何時までもヒトとは限らんよ、期待されたらそこには〆切を設けてある、律法だあっ……諸君少し落ちついてみましょう、例えばヒトがやって来るでしょう。自分の部屋だか何処だかでそうすると其処へ作品を忍ばせるってことはひとつの〆切をもたらす事ですよね。女供が更正するでしょう。最初に〆切があってその後、彷徨う訳だから“日々”を消してしまうんですよ。

高松 でも住みきれない処が必ずどっかに残るんじゃないですか? 更正も成功などしないでしょうしねえ。

芥 残っちゃいけないのだよ(笑い)そりゃ命と伴にないからだっ。それでいくと時間を持ち込むことになるっ、時間を持ち込まない処でやらなければならん。接岸前夜なのですから。

芝山 進化論なんてあんな愚劣なものはないよ。

夏際 あえて愚劣ということはなかろう。常に快晴だ。

芥 《進化論》は諸器管の歴史的倦怠の一例だよ。国家制の詩人供のでっち上げた……。だからてっとりばやい自然淘汰っていうんで自殺っていうのがあった訳ですよ。虚無っていうのも自殺の一例だしね。

芝山 虚無なんていって彷徨っているから駄目なんだよ。

芥 虚無の方を彷徨させる訳なんだから、私供はね、そしてそれは私にとっても諸君にとってもすごく政治性をおびるのです。高松次郎氏にとって政治とは人前にフッとコンクリ片を突き出しこうすることなのだ。そこで私はパッと遮ぎりの手を遣ってしまいますよ。(パッとマッチ棒を抜き取る)。今の生命を虚構する政治性の手腕が必要とされている。貴方には新聞を読むことですか(夏際氏に向け、急に側に首を向け)、我我にとって政治とは何ですか、では阿倍くんにとっては?

高松 貴方だっ、先程私の、燃寸が、使われたのもっ……その代りに私はコォヒーをいただいたけれど。

芥 Oui !

阿倍 だいたいね「阿倍君にとって」っと聞かれたらね……まあね言おうか、ふふ「俺がね楽器が高くて買えない」とかさ……もっと言おうか、そんなことだね答えたくもねえそんな事……なあ、そうじゃねえかよ。威張りやがってっ。

芥 それは「私が居るから楽器が高くて君の買いたい楽器が買えない」のじゃないか答えろよ。

夏際 そりゃ、そうだっ。うん、そうじゃないかよ阿倍っへへえ。

芥 だろう? はっきりと君達はね負けてるんだよ。勿論幸せなことさ、君にとってはね。こうしていると私はゲシュタポだ。そう思えるだろういい響きだこの床もこのテーブルもええっ

阿倍 いや、もっと言おうか、ええ? そいつはね買えないって事じゃなくてさ、いいかい楽器が高いっていうか、ほれっ、値段があることでだねえ、つまらねえだろう、値段はよお、そうじゃねえかよ、なあっ

芥 そりゃ、私の生命だもの高い筈だよ。

客 ワッハハハア(笑い)

夏際 他人がいるお蔭で私は楽しめるって言ってんだから、それでおしまい(傍点:おしまい)だよ。幸いにも私は充分にパトリシアである。私一人でこのような新聞読んでるよりも皆さんと読んでる方が楽しいものですからね、実際俺は君達が殺されてもへでもない。殺人の現場は視ててあげよう。実は常々一度見たいのだ眺望していよう。

芥 いや皆と一緒になってテーブルを囲むのは孤立したままでは自然を政治するようには新聞を読めないからだ。私は不幸にも芥ではないぜっ

夏際 いやいや、そうじゃないよ。皆っていうのは零だよ。君は視てるぜこうしててもこいつらもでこぼこしてる地の凹凸よ。

芝山 なんか貴方達は滅茶苦茶だな。

夏際 いいかっ決して滅茶苦茶じゃないよ、君達、文字が違うのだ、こうなんだよ正しさはいつだってねほっときゃいいうっちゃらかし人類の無名裡に白痴がのたうってるのを。

芝山 いや、その滅茶苦茶じゃないよ、ただ詩は貴方達が完成しないということに於いて何かを完成して行くのです。これは否定出来ないでしょう。

阿倍 でも、言おうか芝山君ねえそれは私の音楽で壊滅していきますよ、君。そんなものにはアルト程の値段がないからね、詩が完成されても全くのそれは詩の徒労としてですねえ。

芥 唯、それとさあ「ラッパが一本しかないけど、そのラッパを吹くのは俺だって言う奴が三人以上同時に出て来たという問題でやって欲しいのです。芥でないという、このことの最初の問いからずっと続くのですっ。だから、決して油断しないでほしいね。それと、では次の場合とではどっちが、君にはね政治だと思うかい、楽器はすでに同時にたくさんあるのだよ。でもそれを手にすることができないっていう人間が何人か浮上してくるっていうのと、だからラッパを吹ける人間が一人も居なくなってしまうのだね。それとさっきの楽器は確かにある。それを吹くのは俺だというのが何人も出て来ている、でも鳴る楽器の方はだね一人分だからひとつしかないという訳だよ。

阿倍 後者の方を完全に保証しよう、間違いないそんな問題は、私は──

芥 いえ、この二つはいつも同時に起こっているのではないでしょうか。君には絶えずね、そうでなかったら、いいですか、君が創造主でなくてはいけないのですから覚悟しときなさい。

阿倍 唯だね──言おうかなっ「楽器が一つしかない。それを手に取るのは俺だっ」ていうのはね出生が決めた路上の勝利だよ、俺という1のね、分る? ね、それと、あのねえ今さっき私が言った能力の全域にねアルトの権力性が人間をないがしろにします……

芥 そのさいの問題はね手が解決しているかもしれないがね、被造主の位置権を決定しているのだし。

阿倍 うるせえっ! さっき俺は楽器って言ったけどね実は楽器っていうのは「歩ける楽器」じゃあないよっ、だからいいか。本来的におまえ達は楽器を手に出来る出来ないっていうのはな俺には関りのねえ事なんだよ、おまえ達は俺を知っちゃあいない。俺しか楽器を持っていないから、よく聞けっアルト以外は楽器じゃない、これが政治だっ、これは権力の無階級に刺すのだ。俺が持たなきゃアルトは楽器にならないんだよ。おまえ達の身体よりそれはいつも権力あるのさ。覚えておけよ。

原田 ほほう、歩道の中央も欄干の手すりもステージもなければ権力あるアルトを持った事にならんよ。空威張り臭うぜっ臭ううよっ

芥 “芥”と言われる程の楽器がないとしたらどお? 地上にはね、君の視界にはね、しかも私は歩いたりしない。「お前の持っているのはアルトじゃない。それと言うのもこの私がアルトだ」貴方はその持っているという楽器らしきものも私に向けて正確無比な鉄砲に変えなきゃならないよ。革命でもするがいいのだ。それからだよ、音楽などというものもねえ。第一位にはまたその振りの突き付けに従えばいい。アルトが発電所かもしれないし、田畑かも知れないし、街路かも知れない。何だか分からないけれども、その言葉の中枢はここにいる私であって私以外にアルトも一位の楽器も見あたらないだろう。楽器ってのは社会が突き出してきたイマージュのオブジェ化なのだからね道化師にでもくれてやるがいい、この政治に憤死するのだ。私が物を提示するときに二つの首都状態がふと思い浮ぶ訳だけれども、どっちから「何か」が起るんだろうか、ねえ君イ答える方法があるかい? 手ぶらでは危ないな君も……

高松 二つの状態っていうのは具体的に言うと何と何ですかねえ。

芥 ええっ何と何ですねえ。

高松 物を手にした時にふっ浮かぶという……床なり路面なりと言うのは……

芥 今、キリストとホーマァが食卓ですれ違ったのですが彼の方がキリストの位置になった。先程来の言質もある、放徨物も動いていて、全類の介在っていう一応、肉が特集される権力の機構の目次の動きですからねえ。居る事自体の路面が生きていますから君達は後者を味方につけるだろう。これはこの後知らぬとは言わせぬ……私は休息したことがないここいらには地点も位置をもたらす場所も無いのだろう……動物達もいる事物供もいる……社会には肉を類には無名の地を国家には有名な血を街々には区画する力学を市民には言葉を言葉には市民を彼等は移つされて戻ってこれぬ遠方へ慌廃と恍惚の刑期の歩行を開始して私は前者を接岸して行くがこの回路が直交したとするのだろう? ! そこへ……はどうやって君は介在してくるのだい? 夏際君? 実際、世界は撲誠されるが君はそこへどうやって介在するのかっねえっ……

原田 そんな抽象は別に一時畏敬すれば足るんで他者の「感情」を俺という「理性」が拒否しない時にむしろ進んで俺は介在を一体し出す時、世界が物を手にしたりするそういう手の位置……にふっと浮かび出すというのも己が撲殺に介在した結果ですからね。ラッパならラッパがねラッパの世界を逃れるのは物質として介在されるからでその時は全音程が物質で変えられているから、全事物は感情の総量として人間機構を消滅に向わるという事がありうるだろうけど、それにしてもラッパが有るということの世界を撲滅できない……

夏際 言いましょう直交するロータリーに介在して来るのだ。視る事は脚力なのだ、私には……。

芥 それは喇叭の中でさえ起っているのだよ、いつだって……。

夏際 喇叭の中で! ?  おお初耳だ、ナンセンスで無ければいいがね。またぞろ。

芥 しかも相方の直交して来る街路とともに、「己れの方が喇叭という訳だ」から。すると君は又環状のロータリー円しか組めないのか、零の膨脹しか人間機構に介在できない、勿論喇叭は私だよ。そして直交してふっと区割の浮上が……

原田 直交し浮上したそのロータリーが破烈するとA《陸上自衛隊》はどうなる訳ですか。路面を整備区割しにやって来る全面性の《自衛隊》はねえ。

芥 ええ、或いは彼等はどのブロックのどの角ですかねえ、聞いておきたいものだねえ、その方が攻めいい。自衛隊だ。

夏際 私の前に何処にあるのかね? 《自衛隊》 は何処にあるんですか。

芥 芥は僕という私、君達という俺、の非在する僕、以前の総ての諸君達、という軍を隊列化するが、私の位置権の名称も又芥であるだろう、いいかい。場合によっては遊戯する《自衛隊》 をこうして連れて来なければならないかしら。でもそこへもロータリーが介在して行くだろう。

夏際 自衛隊は私の“本”を読むでしょう。(リンゴを噛じりながら)

芥 そうですかね。そうだといいですね。

夏際 ああそうですよっ。だからこの話はくだらないのだよ。でも当然だけど、そんなものに私は負けたりはしないだろうと俺は言っている。おまえ達という私にな。

ウェイトレス ロータリーは“本”でしか表わさないのですね。

夏際 違います。そうじゃないんだよ。もっと待っていなさい。

芥 私は、《自衛隊》にその“本”を読ませないようにクーデターをします。法律を施そう。そうすりゃあ、「“本”は又惑星でしかないのだ」という事をわざとやって起きながら、それを消す訳だろう。それがだよ、そうするとそれは一つの街路かも知れない。人称の生息するね、あるいは夕映えが暴走して来るのを日々の暴走に置き換えた地点でブロックが区画整理されるのか、されないのか、我々は何時壊滅するのか、決意が制定されて……

夏際 惑星の区画整備と言語の倦怠とが一つであるという事を証明します。一切は俺の足の現前で釘付けされるのだ。

芥 その証明は貴方に何をもたらしますか。

夏際 ふふっ、証明しますっていうんじゃないんだよ、それは僕の死をもたらすでしょう。つまり私の生を、そして詩の全軍の制定が物質をささげつつ我々を望んでいるから諸君の壊滅でもある。

芥 その軍備の死は我々に生をもたらしたんですかねえ。

夏際 そんな時の我々とは何ですか。下らない。きっとつまらない軍でしょうねえ。

芥 《自衛隊》、私。もっとハッキリ言えば今林檎を喰ベてない私だっ。

夏際 林檎を喰ベるでしょう。

芥 私も?

夏際 ええ。

芥 すると私は夏際の人生を模倣すれば私の家族を社会に出来る訳ですね。

夏際 そうです。

芥 はいっ、解りました。はいっ、はいっ、さあっ子供達は引越の時間だ。

夏際 そうです。そうです。そうかも知れないというのはそうではない。

芥 貴方に会えて嬉しいです。諸君が接岸する時間だね。

夏際 ただし自分は模倣しちゃあいけない。命知らずな奴程その方がいいぜ。

芥 ハッハッハ。最期とは自分を模倣するんだよ、サピエンスは今でもそうさ、はははっ。その話は気を付けなくちゃ、でも止めないでくれよ。貴方が林檎を喰べている時喰べていないヒト達は皆な《自衛隊》だから。こんな熱いコーヒイも珍らしいや、はははあ。

夏際 御高説承わっておきます。

夏際 その話はおもしろくないんだ、ハッキリ言ゃあね。人殺しほどの無名はない。

芥 フフフフ。黙っている泥に、「泥はつまらない」ていう事を教えているのだから、貴方はどうしても生贄になるんだ。「つまらない」? 歴史的に言えば、長らく演劇が生贄になっていたんだけど、この後は“文学”が生贄になっていくんだ。この地点からは、そして私は私の幸せを畏れない。

夏際 一番大きな生贄の結果が人類の生贄ですよ。だって人類ほどの無名は何処にあるって言ったのはだいたい貴方でしょうが。

芥 今さらとなりては君の糞でしかない。でも、それにしたって間違う事はない。それに関しては今の私でも区画整理というのは「無名さを、それを上回る権力に基いて証明させる事」でしょうか?

夏際 無名さを無名さの形態たらしめることです。君達は死ぬ、君は死ぬ、私はと言えば死ななくてはならぬのです。

芥 無名なものに、それに相応しい権力を与えることですねえ。それでは私の肉の無名とは、その無名の消滅であるような肉として……

夏際 相応しいことってのは解らないけどそうですねえ、そうです。でもこんな話はくだらない。人が集まれば仕事のスケールじゃなくて人類のスケールで話をしなければ楽しさが倍増しないのだ。言い訳の仕事は一人でやりゃあいいんだ。自己嫌悪の体系をこんな処まで引きずるような会話や手仕事を持ち込む事はないじゃないか。折角集まった相手に。私をいじめる事でしか威張れない貴方を見てると、俺悲しい、というのを諸君に伝えたいね。

芥 そうやって君は喋っているが、そんな事柄が私の手仕事だっ。気を付けてくれよ、十二分にねえ。

高松 いや“文学”、いや“音楽”を区別して仕事ってのを特権的に考えるってのは矛盾だと思うけどね。仕事と仕事を考えるんじゃなくて、私なんか正しくこれが仕事だし、仕事じゃないっていえば仕事じゃないけど、君達を笑い、しかも視つめ、作品の死を計算してるのだから仕事じゃないっていえば仕事じゃないんでしょ。でも貴方が仕事だって言えば、私が来たのは仕事だっ。でも彫刻みたいなものを作ってる時でも仕事って言えば仕事だし、仕事じゃないって言えば仕事じゃない。

芥 それは欄干の両脇の曖昧な彼の手の話だよ。欄干には曖昧さが無いもの。

高松 欄干自体はね、曖昧さは無い。私の脳髄を切って来るぐらいに身体まで張り付いて行く。

芥 うん、私は其処へ何本かのロープは垂らそうって言ってるんだよ。一本は間違いなく垂らせるんだ、こうして呼吸(ルビ:いき)をしてる以上ね。もう一本垂らさないとロープを垂らした事にならないかもしれないと聞くとね。出来ればだよ、ロープ自体が欄干だというところなんだ。欄干は区割化して路面が動き出し、砲台も曲率ピラミッドも互解する。コーヒーィ!! コーヒィを持って来いっ、いい年こいてうろちょろするな、そこの科学者アヒルめっ。ところでねえ、あの、あそこで遊んでいる幼児の生息点とこの物理的な円形場の運動生息圏とが明らかに違うのは何だろう。あいつが幾ら楽しそうに遊んでも、あそこには何らカルチェ・ラタンが無いんだよ。雑踏なんだ。幾多な不信平面の運動。あいつがあそこで遊んでいると、あそこには車が突入して来るけど、この環状内へは車は突入してこないのは俺がさせないのだ、科学者に言っといてやる。全て言語は一人称だから、一人称と全人称が繋がった平面が遊戯する海だよ、あるいは屠殺する陸だが。海も陸も平らじゃあない。それもな、夕映えが暴走し、死が充満し、そしてそれらに対する徹底した不信が私の生命だから。これ程の不信はないんじゃないかな? いや、ないんだ! ない!! 接岸がある筈だ。発生の力学はその破片であり、当然不信が徹底したところでしか人は行為しないんだ。誤解されやすいが、思想や信仰が在る処から行為は発生しないから、やっぱり田畑に行く気分だろうな。だから最初から「肉でないっ」て処で仕事するんだ。物質は私の窪みで事物は血を動かしている。そういう世紀の血だか、泥だか何だか解らないってところでね。君達の芸術など、その美徳も思想も、だからせいぜい出来て跳び魚なんだ。資本や事物の海から瞬間的にバーンと跳ねて空気の中に出て、瞬間、「居る」って言ってドボンといくんだけどさ。そこへ投げ込み、見放すのが非自然の潤い出す一言語なんだよっ。如何なる恍惚も実際にそうだつたんだっ。いいかね、不信っていうのは生きる上で重要さっ、「俺より悪い奴が居る」ってことに出合った瞬間だから、瞬間を徹底させれば本当に目覚るのだ。

高松 自己不信ってのはあるんですか?

芥 え? 遺体には蝿のように言葉が群がってくる。

高松 自己不信。

芥 この肉は嘘だもの。如何なる不信にも敗けないのだ。その権力を自己と呼ぶべきかも解らんっ。(コンクリートなどで自分の足を叩く)

高松 その自分の肉よりは……

芥 そのかわり肉以前というのは存在しなくなるっ。

高松 うん。

芥 だって昼の間に生産された物が皆真実持って生きてるんだもの、つらい筈ですよ、充分に。だからお前達はせいぜい人が造った輪だろうって言うんだよ。この人はね、夕映えを限りなく吸い込もうとするね。民族っていう輪だとか、宗教っていう輪だとか、時代、情況、一連の広場とか。じゃなきゃ何処かへ寵るんだよ。解放区はいつだって自の裡にあるのさ。そうすると内臓が活発化するよ、他者が衰退していった発熱する都市を動かして行くと、地球が内臓から復帰して来るからさ。情念でさえ速度の単位になっているだろうし、やれよ、好きなことをさ。第一に俺いつか第二、第三の芥を殺すだろうし。

高松 自分の肉が嘘だと決めるのは何かねえ、芥さん。

芥 うん? 第一に俺はね……

高松 「自分の肉は嘘だっ」て決めるのは何かっていう。

芥 貴方の真実が決める訳だ。

高松 真実って何んですか。

芥 うん? 今のは電車かな?

高松 真実って何んですか。もう一度言ったのです。

芥 そのような貴方の暖味さの繰り返す物量が私の肉を嘘にしてくれるのです。だから貴方達が居なければ、僕はここへこうは浮上出来ないものの法ですから、相変わらず飢えの物質や不変な繰り返しの海の中に居たんだよ。そこはサピエンスが寄生している。もし貴方達が居なかったらな、産まれていないのですから、諸君の発情がサピエンスの海を干上がらせなきゃあ、この倫理は役に立たない代物になる、でもその後は時間裡のファベルの事物がホモルーデンスを先頭にして進軍してくれて均してくれるものですから、それからでもいいんだ、権力に名前などを付けたりするのはよっ。幻想や観念ってのは、この今でさえすごい執刀を発揮するから最後の最後っ庇で使わないとさっ。それ迄は全て「生きている」って事で大概の事はシメシがつくんだ。生きてるっていう事だけで、私供は犯罪は統括して行けるでしょう。

高松 阿倍さんにとって手仕事ってのは政治なんですか?

阿倍 手仕事? さっき仰ったけど。

第四芥 大江さん、大江さんにとって生殖せずに生殖を演じようとする「性的人間」とは神に敗北した集団の美なんですか。あるいは脆まづいている政治ですか。どうでしょう。それに何故貴方達の核は悲しいのですか。

大江……
芝山……(実は大江氏は欠席した)

第四芥 こういう所へ集まって来るのはどうですか。やはり三島を殺したのは慎太郎ですかね。昭和に一度立ってこうやって居る、何故貴方はやって来ようとしないのです? ここへ。

大江……
芝山……(実は大江氏は欠席した)

芥 しかも来ない人はそれ以上に近い所に居るし、貴方のようにねえ、憶病と悲惨振りの痴人遊戯に生活は知性にも政治にもならんっ、で猫供の病気だ。いや楽しむって事でしょ。せめてこういう時ぐらい楽しみたいっていう、楽しみたいのですよ。たとえば来るって言って来ないのは政治なんだよね。手仕事だよ、頭使わないもののメカニックな窪地整理から身を引いて、そのかわり来ているのに来てないって事を証明しちゃう奴腹もいるし。公衆の面前で発狂する、これも又政治だよ。ただハッキリ違うことはこうした遊戯社会と屠殺のこうした日常だよなあ、諸君の支配するであろう日常の方が社会の物量よりでかいもの。

原田 実は今さっき、「手仕事はひとりで」といううまい言い方をなさる訳だけれども、夏際氏と違って実際手仕事などやった覚えないっていうのです、僕なんかね。本当に人を殺す手仕事など覚えがない。強いて言えばこう言うのかねっ、こうして生きてるのが手仕事だっ、退屈だよそれは。男はどんな男でもあっという間に死んでしまうんだぞっ。

芥 そうだ。それは私が保証するよ、この人のことを知っている皆に誓って言うよ。

原田 そうなるとこういうのも政治だって言う人間に関しては私と政治しかないっていう、そういうことになってしまう、実際僕と僕以外の秩序の戦場が世界であり、やはりむごたらしい政治なのだ。貴方の言い方で言えばね、発見すべきは全体を挟撃にするうまいやり口だけさっ。

高松 手仕事をやったことがないっていうのは嘘じゃないですかね、ねえ嘘でしょう?

芥 うん?

高松 嘘じゃないですかね。

芥 彼が?

高松 うん。

芥 でもねえそいつあ彼に聞いてみないと解んないな。彼に聞かないとねえ。

高松 電話なんかもこうやって手で取りますからね。彼はやっているのに見栄をついている。

芥 でもそれはねえ、電話に解れた瞬間はもはや手じゃないでしょう。ピンセットにされてるんだもの、でしょう? こうして物と物の間に介在する速度でただでさえ肉の事物化が刻々起っているから。

高松 いや、僕はピンセットはそういう風に使わないんだけど。

芥 えっ、ほんとっ。

高松 ピンセットはそういう風に使わない。

芥 僕はピンセットをヒトの肉を刺す時に使います。えいっ、と電話に対してもね。

高松 電話の場合は使わない。

芥 使わないのですかっ。

高松 使わない、だからピンセットでない事は確かだ。電話を取る手がピンセットでない事は確かだ。本当です、絶対。

ボーイ (この時激しく電話が鳴る。)要請があったのか? もしもし、芥さんは後一時間したらそちらへ伺いますからって……秋山邦晴氏に伝えて下さい、一時間程待っているようにと。

高松 いや、確かかどうかは解んないけどピンセットでない事はまず間違いない。

芥 でも貴方が手を伸ばすのは、誰かが街路である番号を掛けようと思った瞬間、あるいは違う番号を掛けようと思ってもたまたまその番号になってしまった瞬間、そっちに作用されてる訳だよね。どうしてもこっちの手が物にされてしまうのだ。すると外の方が肉に対して政治な訳よね、電話が介在していてね。街路と社会の方が、結託している。農村の政治が、貴方をして手を動かさしめた。貴方は一つのフロアの上で外のメカニズムの統御で舞踏家にされちまっている訳だから。いいですか、外出とはその逆をやるのが権力上本当のことです。いつも上部人種は舞踏の家系だしねえ。だからね、その考え方には余りね、ピンが拡がり過ぎ……

高松 全く違うよ方向がね、それは、ハッキリ私の手はピンセットじゃないのだ。

芥 塹壕だけど、脱出が不可能というものでない、単に。何時も不用意で命取りになるのが政治だものなあ、居るという事に関しては。阿倍君は渋谷でやる時、公然と歩道橋の上でチューニングしてから、政治を突き破る素速さでラッパを裸のまま、身体は大気の梱包を走破した結果現れるという形態性の部屋に入って来てやってくれなくてはならないんです。リノロウムの上に最初蚯蚓が自らで蠢動し入って来て、蚯蚓が序々に蚯蚓じゃなくなっていく路面点へ立ち尽す人になっていくってのはやってくれる訳だが──

高松 ふふん。

原田 それは明らかに君の喇叭ていうのがミミズに勝利してるってのは解るんだけれども、「それが何だ」と言いたいのだよ。みせろよ!

芥 確かに私は人を見たよ。だが人がやって来るのは見てないんだよ。死の接岸点へ人が誕生して来るのは気配だけは見せてもらった気がした事がある。それに対しては貴方にそれなりの敬意を表する積りだ。私は貴方を何度か食事に招待している、今後とも。だが人が突然人に人を突きつけなくてはならぬ。

阿倍 そのようにね、貴方は役者になれるもの。愛の欠如が美しいのだ

芥 人になれるのなら人として何故やって来てくれないのだ? 羊など殺したっていいのだ、お構いなしさ。台所でも交叉点の中央でも、夏には文学が死亡していくのはいつだって際だって動物供の殺戮がすばらしいからだ。

夏際 それではつまらないのだ。意識の範疇に入っちゃうんだよ。

芥 つまらないと言って逃げるなよ!

夏際 いや、逃げているのではない、つまらないと言っているのだ! 追放すべきは追放しなきゃ駄目でしょう。

芥 手懐けて手下供にするのも良い手だよ。

夏際 いや、だからそういう部分は喰らっちゃうって言ってるから、さっきから、大丈夫なんだよ。

芥 じゃ女じゃないか。一度したたかに忘れた筈の君達の無難な科学のようにさ。

夏際 いやいやいやいや、ヘッヘッ。女とか男とか、どっちが男でも女でも構わないけどね、ヘッヘッ。

芥 女性として男と女の識別はやっぱり一切無いようですか?

芥黎子 アリマス──

夏際 何処ですか?  一体、ヘッヘッ、どこだっていうんです?

芥黎子 二千年、待っていたんです──

夏際 女の場合ですか?

芥黎子 ええ、女の場合ですわ。

夏際 私は五十億年待っていたんですよ。そして三十年間貴方を待たしたのです。

芥 幻想が速過ぎると効果失なうんだよな、ふっはははっ。

夏際 いやいや君い、幻想程の力はね、今のとこないよ、何処いっても。そのうち笑えなくしてやろう、ヘッヘッ。

芥 力はいつもオソークやって来るからな。フッフッフッ。それにしても誰がこの女を待たしたというのかい。

夏際 何を待ったんですか? 貴女は二千年。

芥黎子 飢えの一人前の成長身ずっと、二千年間……

芥 二千年衰退していたんだよ、この人達はね。衰退したものが、あるいはさせたものがある訳だよ。視つめているとね。二千年待った、俺は四十五億年待ったとか言うんじゃ、貴方は女のボスだよ、衰退の長だ。ヘッヘッヘッヘッ、時間供の長は君かね?

夏際 いやいや違うよ、違いますよ王(ルビ:ワン)さん。

芥 例えば阿倍少年のアルトっていうのは四十五憶年待ったその証しかもしれないもの。

夏際 証しですか? 待たせたことの恍惚ではないのですか?

芥 でも、二千年をまだ消せないっていうのが……何かしらの証しかもしれないものなあ。その証拠に彼の顔はああしてゆがんでいるじゃないか、皆んな見ろっ。

夏際 待ったっていうか、四十五億年分の距たりが僕なんだよ。待ったっていうんじゃないんだよっ。

芥 距たりは機構だよ、死が充満し沸々と。

夏際 わかんないな、そういう話は。俺が“距たり”といっているのだ。テクニックの用語に解説は不要だ

芥黎子 そんなに泣かないで下さい。子供や私供が遠い方向へ……

芥 それは正しいよ、俺という限りは。

夏際 それはますます僕の肉を嘘にするよ。

芥 ええっ?

シモン コレッ ホラッ レイコチャン ホラッ! センチョーハ、センチョーハ。

夏際 君がそういう事はさ、俺の活字を嘘にするからそれでもいいっ。貴方は私にとって政治だからね。権力でも代行しろいっ。さっきいった通りだよ、一人称の《自衛隊》 だからさ。

芥黎子 でも待ったのです──

夏際 だからお嬢さん、一体何を待ったんですか?

芥黎子 一人の男が現われるのをです。

夏際 まだ現われないのですか? ヘッヘッ

芥黎子 いえ、一人の男に決めるということは佗しいことです。それは一匹の死しか飢えません。

夏際 ヘッヘッということはそれ以上まだ待っているということですか?

芥黎子 いえ、待っていません。

芥 待っと若返りませんか? フフッ

夏際 待ったんじゃないんだと思うんだけどなあ、むしろふつうずるい女は一匹の男を愛しながらさらに自分のその悪意を売り付ける相手を待つらしいけど。二千年居続けたんだよ、待ったんじゃなくて。明日になれば終る貴女がいけないのだ。

芥 活字っていうのは嘘の死をもたらすものなんですかい?

夏際 いや、活字の話はやめましょうよ、

芥黎子 そう止めて下さい。

芥 何故?

芥黎子 それは……

夏際 何故って、──つまらないから、

芥黎子 そう、楽しみを殺させたくありません。

芥 面白い僕。ねえ、高松さん面白いよねえ。

高松 はははっ、面白いとか面白くないとかよくわからないけど……はっははあっ

夏際 何ですか? 皆さんスミマセン、もう一度。

高松 そういう事は面白いとか面白くないとかじゃなくてね、卑わいな意識外意識の遁走と、たとえばこうして石ころがぶち当る言葉のユーモアでしょう。

夏際 (独白)ハナシなんだなあ……というハナシだ。

夏際 待ったっていうことは、エロスの領域なんだよね。待ったんじゃない、俺という男のために三十年間に退りぞいたのだ。俺が待たしたのだよ。

芥黎子 でも眩しくって走ったのかもしれませんよ。

夏際 だからもし二千年間がエロスの領域だとしたら、エロスに替わるものをあなたが持ってこなければ。ガキなど産んでないで。

芥 君の絶倫する活字が彼女の狂気する夫になってやればいいんだよ。全部とは言わないよ、ほんの一部でもいい。

夏際 なってやるとかやらないの話じゃないんだよ。

芥黎子 そう、これはやるとかやらないとかの話じゃありません。

芥 彼女は失なわれた書物の中へ引き擦り込まれているわけだよ。ところで夏際氏、よく聞いて下さい。活字は書を失なわさせない権力の別称だろ? 彼等は様々な機構を動しえる。

夏際 うん、そうだ。

芥 君はあのお嬢さんに夫を持って来ていないんだ、やはりだから活字の話は面白いんじゃないのかと思ったんだが、失礼だっただろうか。

芥黎子 いいえ、そんな事ありませんわ。

夏際 オットヲモッテキテイナイ?

芥黎子 夫の事は気になさらないで下さいね。それに彼の死のことも。

芥 二千年待ったということは……彼女っていうのは二千年の窪地の名称だから……さらに付け加えりゃその名称の子宮の先端で天皇を養っていた……だから、ひょっとすると水爆も原爆も二千年分しかやっていないかも知れないよな……実際そうなんだよ……そうなんだ、物質は天体すらも肉の組成機構内へ引きずり込んだのだからあれをきっかけに物質の世代で人間が頽廃するんじゃなくて、文明自体が頽廃していくだろうという警告だったわけだから……。

芥黎子 眩しさが衝突しては破れて行ったのかも知れません。破れて走るのは止めたのですわ貴方がたは。

夏際 ただ、二千年というのはイエス・キリストという虚構を引擦り出してこなければ出てこない言葉でしょ。とてつもない嘘をね、……それはドア一歩出るか出ないうちに突然話しかけ突き付けるだろうがところが僕には無効でしかないそれは策動と非運の惑星がぶつかるだけだ。

芥 二千年という肉でない活字がすでに介在してくる。

夏際 活字の話は……もうちょっとまってさ(テーブルの中央を指さし)僕には、キリストが比処を歩いた形跡がないわけですよ。キリストの血が比処にあるという痕跡が僕にはないんだっ──「人はあせって楽しくない全能で無くなるから」……

芥 その落下するコップが活字だからだよ、美しい人は危険な世代です昼でさえ物質で出来上ろうとしている。

夏際 それ、ちょっと早いんだな。それをいうのは……それを言ってしまうと……

芥 ちょっと待てと言われ二千年ったんだよ。……このお嬢さんは……ランボーのお袋、もゲバラの肉もレー二ンの足も。

芥 女が二千年待ったといったら物書きが照れてしまうということもわからないけどね現代音楽でも聞こうかね。ヘッヘッ、でも肉でない活字は照れのでないか? きみね、もし活字が照れたとしたら政治家になってもらうよ。そういや奴も居なわけじゃないしねえ。

夏際 活字は照れないだろうな。

芥 よかった。

夏際 でも、活字ということをそこで言いだすと、結局居ることと活字がまた別のことに聞えるわけだ、俺には。窪地というのはっきり俺の居る結果だと言っていから。はっきりと俺の居る結果なんだぜ。

芥 それは何処に足の位置があるかというこだ。四十五億年の距りを何処へ。

夏際 何処へ? ……場所といった以上何処へという必要はない。

芥 もう一回嘘をつかなけりゃシメシがつかない。貴方は現れないまま現れないというつもりか。

夏際 だから一回半嘘をつくから大丈夫だ、なんだ。だから何処へというのは解からない。

芥 阿倍君も解らなかった。

夏際 いやっ、場とうのは……何処へというのは……

芥 それならいんだ……あの女を俺は殺すことができるから、君に恥をせなくてもいことになるよ。

夏際 女の登場を待って話が人類のスケールになったということは認めるけれど、ただ、まだ一つだけイマージュがあるんだ、キリストというイマージュが、二千年といった以上は、何が二千年なんだ。

芥 お嬢さんに聞けよ。仕事のことはね。うんざりだよ。キリストキリスト……と。

夏際 いや、誰に聞てるんでもないよ。誰も問わず、誰も答えないわけだ。クエスチョンマークじゃない。言語はね人間もだ。

高松 芥さんがキリストなでしょ?

夏際 (苦笑)いや、とんでもない。

高松 私はたから聞いんだけれども、

芥 じゃあそうだよ、主体性がないと手の感動だけで人間が歩いたり

高松 それなら、二千年も一年でいいわけすね。

芥 だから私が彼を歩行している……**

夏際 違うんだよ……*

芥 脳髄の移動を手だけで……**

夏際 もう一つイマージュ持って来ちゃったんだ……**

高松 ひとたび持って来たら、もう一度……**

芥 他の手が……もう一つの時間を……な、……**私が手で歩くところね……**何てざまだ。

夏際 比処は個人的に対話するところじゃないよ。せっかくいいところへ拡ってきたのに、集団ていうのは余程、零をめざすのが好きとみえる。

芥 ガニ股のパリサイ人が入って来たんだよ。処女の左翼のようにね、地上で最初の意識のムチ打ちを連れて……*眼だって黒々、大きいし**
騒々しく聞き取り 不能でした ボーイ

シモン 食ベチャッタ! イヤアン。(ボーイ騒々しく……不能でした)

芥 二千年というのは彼女の携さえている窪地の直径だよ、統制されている領土論の範中だ。

夏際 直径といえばね。

芥 そこへ二千年分の空白を送り込むのが私の仕事だ。それでなかったら何も生きたまま身体でやりやしないもの。

夏際 高松さんにひとつお聞きしたいんですけど、仮に高松さんが創ったものが、あなたに突きつけてくる飢え──物そのものの飢えと、あなたがそこにそうやっている飢えとは同じですか、違いますかどうでしょう?

高松 まあ、少し考えさせて下さい。

芥 あるいはそこに何かなんらかの、あるいは君臨しているのか、あるいは○○がくっ付いたり、

高松 物が飢える、飢えないということでしょう。でも、

夏際 飢える飢えないという状態の話じゃないんですよ。その物である(傍点:ある)という飢えと言ったんです。(高松──ああ)生きとし生ける飢えですね(高松──ああ)それに答えないと、自らの生の有限性という一の飢えに対して何かをぶつけることができないでしょう。それともう一つは、あなたがそこに居るということは、その眼前の、あなた以外のものの持って来る窪地があなたがそこに居るということの結果であるか、結果でないのか。

高松 窪地である。

夏際 ええ。

シモン あぶない。

高松 でもどう答えても結局おんなじことでしょう。

夏際 それはそうです。でも答えなきゃいけないでしょう。

芥 答え方によっては彼女を救済できるかもしれない。

夏際 そうだ。まあ救済というか……

高松 でも、答えないのも答えですよ。

夏際 いや、その、ブロックは終っているのです。

芥 それじゃあ二千年の一角だよ。

夏際 じゃ、そうした季節の上で死滅するだけよ。諸君は。

高松 季節? !

夏際 ええ。消滅律です

芥 季節よりブロックだよ。(一人拍手)ははっははっ。

高松 でも、もう死滅してるかもしれないから、貴方に生の領域は分らない。

芥 ロータリーの時を死減させてはやって来る(一人笑う)ははっははっ。

夏際 かもしれない(傍点:かもしれない)んですか? 幸いにも「私は死んでる」わけですね。

高松 いや、だから死んでるかどうかもわからない……。

夏際 わからないんですか。不可知論を暴掠することが居ることの権威

高松 でも、何が死んで、何が生きてるのか、そういう区別も僕にはわからない……。生と死を区別する必要が僕にはない。

夏際 もともとの質問は死んでる死んでないではなくてね、同じか違うか、イエスかノーかなのだ。

原田 精神は二千年か無時聞かを答え意識は断えず秒読みの危機にあって人間の恍惚が物質の歩行だ。俺は生きてる!

高松 僕が今考えているのは、イエスと答えてもいい、答えなくてもいい、そのイエスと言った時に二千年と無時間を絡ぐためには……こんな物になってしまうでしょう。勿論これはその逆も真でしょう。どちらかというと選択ではないですから。

芥 だから入り込まれるんだっ。一律背反で街路を区画整備できれば、俺は真先に駈け込んで行ってやる! 闇の沈黙とか二律背反などという気の進まない場所は飽きたんだ。元はと言えば飢えの始まりだ、俺が言い出したのではない。まだこの土地には倖いな事に私供が居るのだ。浮乱な女と言っても子宮が子宮を描写するんだから仕方ないじゃないか。役立たずは一律が切断的。

高松 一律背反ですか、そりゃいい。

シモン コレガコレガドッチ──ハイマッチ。

高松 それから先程の質問で一番解らないのは“物”という質問だった。

夏際 それを聴いて男が黙る? ! そんな事は解らない! ここにはそんな物は無いから──。

高松 だから分らないんです地球の物体という事が?

夏際 だからその前に「仮りに」と言ったぞ。

高松 「仮りに」?

夏際 「仮りに」だ。

高松 ムニヤムニャ……**

芥 見晴し台の科学者達の喉自慢だ、そんなのは! 物体のエロス!

高松 これで一つになるのか、テーブルで一つになるのか? 一つにする、しないというのが意識だから、貴方は意識について質問しているのでしょう?

夏際 意識についてではない。意識を略奪する飢えの総体についてだ。

高松 現在地点にしてみれば意識がどうであるかという質問を、

夏際 質問はその前にした筈です。それに対して先方が発した言葉に向けて、「貴方が意識の範疇で喋っているのだ」と断罪したのだ。質問ではなく断罪したのだ。貴方の生死を貴方が問題としないからではないのか

高松 いや、でも私自身とそれ以外のものとが同じであるか違うかという事を決めるのは意識であり、意識が介在しないと決められぬという質問でした。

夏際 貴方に対してね。貴方の場合はそうだろうとね、

高松 いやでもその様な質問でしょう? 質問したのです貴方は!

夏際 貴方の場合には決められないのではないかという質問です。世界を自身で決定出来るという、同じ質問であるならば。

高松 私は世界でありその生成を死滅に在りつづけているでしょう!

夏際 それは自滅していく意識論の領域なのだっ。意識の二重構造に犯されているんだ。それは「ナンセンス」の迷路ですよ。人類の迷路だ。しかも自滅するね、ありとある人類の迷路をひっぺがして窪地と見倣し「俺の結果だ」と言う所に立たないと何も始まらないのだ。

芥 何もいきり立つ事もあるまい。それが一律背反だよ。本質である意識を持って道具である物々に問うというのは私達の忘れている矛盾だ。

夏際 矛盾なのだ。しかもそれが彼の脆弱さを弁護しているのだ。サピエンスの最期に甘えているのでしょうけど。

高松 「意識だけ持って物に向う」とも限らないでしょうに、「意識を持って物に向う」という肉体がやはり夜は物質だとしても昼はそのものの出っぱりかも知れないから。諸君はだまされているのです。

夏際 肉体は意識の一形態でしょう。貴方の場合は、先の話からして、私は意識世界の撲滅を図るのだよ。

高松 でも、意識はこうした話し方にだってあるのだから……

高松 答えようがない。

夏際 答えが無ければいいのです。

芥 君の彼に強いているそういう断罪の仕方はかって貴方自身が何ものかから、そうして断罪させられた事があったからでしょう。しかも畏ろしく自己の大半の抹消を強制したのだろう。

夏際 そうです、惑星からね。だが私は気づいた誰よりも速く、

芥 何故こうやって希めなけりゃいけないんだ泥を!

夏際 惑星から断罪されもしないで物なんか喋れませんよ。

シモン イナイイナイヨ──ボクイナイヨ!

芥 一致しないものに一致させてしまうのが権力だからね。惑星とは貴方の分だけ亀裂が入る。ここに詩人たちの急務があるだろう。

高松 ああ、だからそうなんです、私の方に権力があるのかないのか、私には分らない。でもそれは私の思考の一例です。

夏際 思考は権力にならない。思考に内外はないのだ。

高松 思考の中じゃなくて思考に全権力を与え切ると素晴らしく……

夏際 そんな事をしてもつまらない。素晴らしくない。

芥 ヒットラーに勝てないのですか、貴方達は、全思考に権力を介在させればヒットラーになるというのが近代の惑星です。

高松 ヒットラーじゃない人になるかも知れない。

原田 貴方は一生ヒットラーに小便かけられないのだ、自分の作品には小便ひっかけられてもね。

高松 私が今答えたのは……私は私の全体を見せたりしない技術です。

芥 瞬間、瞬間の勝利を告げたいのだからここに居る俺は。例えばあの時代に於いてまともに就職したのはカフカだけだからね。という就職出来なかったヒト達を引き連れて来たのがヒットラーなのだよ。彼でもだから「ヒットラー程のヒューマニストはいまい」と言っているんだ。もし体制があるのならね。

夏際 しかしカフカはヨゼフ・K(ルビ:カー)に就職しちゃったね。

芥 彼の青春は非道いものだ、それは物質以上にひわいなものだった。灰皿よりも大きくなってしまった頭脳を灰皿と同じ大きさにしたのだ。灰皿に頭を叩きつけて、ボートに乗っていても少年のようだった。だってヒトは言語など持たないで生きた方がよっぽど倖せなんだその事を、私は知っている。

夏際 だからそう言う貴方はもはや言語なしでは生きていけまい! ?

芥 そうさ一秒たりとも──もはや私は生きていけない。私を統御しなくてはならん。

夏際 ふふっ言語が無ければ、お前はコンクリートに、はりつけ(傍点:はりつけ)になっているだけだよ。貴方達は。彼のその様を見るがいいだろう

芥 ハハハハハハハ……! でもいいかな、私の子供達がちゃんとやってくれるだろう。処刑法と私には家族があるから、活字だけではないのだ。私は就職した儘生まれて来たんだからな。私は父であるだろう出生は私との愛の連絡である切る「物」は法となる。ハハハハ!

高松 それはいい言い方ですね。そうでなければ(独白)そうだでも私にさえ子供がいるのだから……?

芥 そういう倖せは怖がらないことにしたのだ。例えば意識というのは失業の群が最終的に決めた『失業安定所』なんだよ。子供達のね。それは社会的名声を得る以外に保証は降りて来ないのだ、そしてそれも保険だ相も変わらず、日々を汚している。日々の生命からは遠いのだよ、移されて行くだけだ彼等は、だから意識などなくとも林檎喰ってれば倖せだもん。

夏際 だけど林檎を喰っているのか喰われているのかを決めるのは俺だからな。

芥 ハッハッハッ。林檎をつくったのは俺だからいいのだ。ハハハハ!

夏際 林檎をつくったのは貴方ではない。この大気、地だっ。

芥 Blood ? Earth ?

夏際 地だ。それ以外のものは全部貴方がつくったかも知れないが、林檎に関しては言わせないっ。俺喰っちまったから、

芥 そう言う時貴方が林檎に見えてくるのだよ。

夏際 見えてくるとかこないとかそんな話ではない。

芥 では何故そう言う響きが空ろに聴こえるのだろう?

夏際 私は貴方の飢えを満たすことは出来ないのだ。ヘッへへへ。

芥 ふうん、やはり、貴方も? ! こうして友を失って行くのか……

夏際 誰も君の飢えを満したりしないよ。そこで始めて──というのが楽しい遊びのひとつの形態として出てくる訳じゃないか。

(電話の音リ──ン)

夏際 そうすると仕事というシェルターは取り払われるんだよ。

原田 仕事なんかシェルターだよ。あのおこがましい。

夏際 大体にして仕事は結果報告に過ぎないじゃないか。

原田 早く完成を見せびらかしながら近づいて来い。

芥 では諸君の飢えを鎮めるのは俺以外のものでいいんだなあっ。そうして俺の飢えを鎮めるのは俺でいいんだなあっ、不服のでる奴は今の内に言っといてくれ、覚えているから。いざという時は──。

夏際 「俺の飢えを鎮めるのは俺」?

芥 俺でいいだなっ。

夏際 なんとも言えないなあ。

芥 じゃあヒトと一緒に居ても楽しくはないなあ。君はずっと嘘をついていたのかい? !

夏際 そうかな、違うだろう? 「飢えが鎮まらないから楽しい」って言うんじゃないだろう? この人こそ嘘がうまいからね、気を付けないと……

芥 何故飢えの次に略奪を持って来たんだ。この飢えを鎮めるんだっお前達のうちで誰が俺を略奪出来る程の飢えだと言うのだ。略奪は権力の無いお前達の淫乱である。人間は人間に倫理を接岸するのである。

夏際 いや次ではない、私は持って来てはいない。

原田 飢えという略奪、略奪という飢え。一律する全域……

芥 おまえ達の略奪が私に飢えを齎らしたと言っても良いのだ。ここの土地に俺は出生を略奪したからね。いつかは出て行くが俺の飢えというのは諸君にとってはこの外出するであろう恋愛だよ。それは倫理的でさえある「生まれた」という程の恋愛はあるまい。この全愛欲に於いてだからこそ言語は命とともにしか無いのだから、日々草が枯れ物の表面には絶えず死が充満しているじゃないか。肉は秩序ある声を発しこの日々を鎮圧する仕事を俺は言っているのだから、打ち寄せられた表情の……

夏際 いやいや死はむしろ物の表面に打ち寄せて来るものだよ。

芥 充満してくるっていう事は打ち寄せて来るっていう事と同じでいいのだ。

(電車プ──ン)

芥 貴方にだってまだ躰があるんだ。予感の中枢に死を視る以上は「45億年のへだたり」という眼球位置機構から視ればそれは打ち寄せて来ている。──しかもそれは行為としてね。

夏際 原田君さ、新宿の街を歩いている時と、此処にこうして居る時とどっちが楽しいかい?

原田 「楽しい」? 位置機構が活発だから当然。

夏際 楽しいって事は大事なことだよ、かなり、新宿とこれが違ったのなら問題だよ。

原田 同じです。区割は統一されるのです。この種の場合。

夏際 うんそれならいい。

原田 夏際さんは私に向って「飢え」と言う代りに「楽しい」と言っている訳ですか? 幼児を装って自衛するために。

夏際 「楽しい」という事は「居る」という事の一属性だ。自衛じゃない。破壊だ装うというなら。

原田 飢えもそうですね。

芝山 そうじゃないよ! 属性じゃないよ!

原田 飢とは居ることの平面属性だよ。私の身体がすべり出す……

芝山 もしこのホープの飢えと私の飢えとが同じだったら私は生きてはおれまい!

原田 ふふ。本音を吐いたなっ ひょっとしたら「もの書き」っていうのは……死んだ振りをして生命を助けてもらいつづけているだけなのだろう、こざかしく頭脳を使ってなっ。前々から感付いていたんだ

夏際 平面じゃないよォははっ。居ることの平面じゃないよォははっ、飢えは。違う!

芥 だって壁の表現にも飢えがのぞいているもの、戦車に搭乗して森林に突入して行った仲間もいるくらいに活字が女供となって集団化してその後を追っていった。

芝山 活字とはグーテンベルクの詐術だけではないっ。文字でも言葉でも言語でもないですよ、悪いけど私の活字は……私が比処に幾つかの活字を並べてだよ、こいつの飢えと私の飢えが同じだったら私は居ない訳だよ。飢えが生命を保証しているのだから。

芥 それは活字を女供を殺すように並べたからそうなるのだっ。視てみろよっ。其処には俺の肉しかないじゃないかっ! でかい口聞くなっ! のぼせやがって……公園で演説でもしてくるがいいミミズ供を集ていいかその Capital Tribune 2号には悪いけど其処には活字は一つたりとも載ってはいないよ! 居るの居ないのと眼の前で、いいか死ぬというのは原爆や太陽と同じで眩しくじっとは視つめられてはいられないのだ。膝が折れてしまったりする。

ボーイ もしもし芥さんですか、あのう、もう少しでこっちが終りますから……

芥 (電話の秋山邦晴に向けて)人の言うことは聴きゃいいんだっ。遊んでる学者のくせにガタガタありもしない自分で決めたのでもない、時間のことを言うなっ、一時間したら必ず行くから……

夏際 此処に活字は載っていないかなあ、一つも? ( Capital Tribune 2号を拡げて手で擦りながら。)

芥 うん。昨日までは載ってたかも知れないが今日ではもう保証はない手遅れだ。

夏際 「貴方の肉ほどの活字は無い」と言うのだな。

芥 そうだ、「居る」という事が着地するのは飢えという不信、不信の平面だよ。居るということには全行為が統括されている。その言い方では切り崩せないじゃないか、今日のこのテーブルト書は瞬間の勝利で来ているから、俺は。もう心配ないので右翼も左翼も全部肉の属性だっ。国家は肉のエロスだっ。そこは芸術家の死に場所でもあるっ。

夏際 コップ?

芥 国家! それがなかったら誰が私の言葉にイントネーションを決めてくれるんだい。だから私は生まれたまま私に就職している、生まれて来ていると言ってるじゃないかっ国家へは自身の子供達が否定すればいいんだよ、それ以外の出生はすべてな、そしたらこういう事にはなんらかの予感があるんだから、楽しいだろう。なっ楽しい筈なんだよ、生きていればここでは死んで神々や英雄になるよりもな少なくもずっといいっ

夏際 否定すればいいんだというのは若干甘いんだ、そんなんじゃ死ぬぞコップは肉のエロスだあっヘッヘッ

芥 おお瞬間の内にだ、それもたかだか空気じゃないかっ、それは。空気が頬を撫たりしても徴笑えんだりはしないのか詩人は! 貴方達が今迄空気と呼んできたのは鉱物だからさっ空気中でお前述の頬を撫でるのは死だけだとでも言うつもりかっ十九世紀めっ

夏際 微笑むばかりじゃない。いろいろな事をやっているさ。ま、勝利するだけが能じゃないという事で、では一回も発言してない人は何か言って下さい。誰も勝つだけでは嬉しくはないのだよ。彼を親しみたまえっ。

芥 同じ事を言ったのだっ私の飢えを鎮めさすのは私でいいのかと。

芝山 飢えというのは鎮めなければいけないんですか?

夏際 鎮められるものは飢えではないっ。単なる欠乏だ近代どもの!

芝山 鎮めるというのが解らなかったんだ。

夏際 全然おかしいよ。芥氏はそういう事を言ってるのではないよ。ではなくてむしろ“俺”という形を持って来ようとしているのだっ。真に律法として其処に言葉があるとすればそれは動詞を持たないからね、鎮めるとか、鎮められるとか。そうすると全員《第二次世界大戦》の落し子になっちゃうよ。へへッ、

芥 生物学的なら問いは幾らでもあるでしょう! 見なかった事にしてしまえばいいのだろう、だがそういう訳にはいかん。一応かなりの事をやって来ているんだよ。見てはいけない事に出逢っているのだから、だからどうしても言ってはいけない事まで出てくるだろう。やっぱりそうすると生物じゃあなくなるので、それでいいのだよ。事物とタイなのだからさ。だがまだこっちに分がでるよ。

夏際 どういう分?

芥 一応眼に触れる全ては蘇生機構だから外界の危機を統御しなくては

夏際 「眼に触れるもの」?

芥 そうさっだから肉を嘘だと言っておかなければ一瞬の爆発で終わりになってしまう!

夏際 眼に触れるというのは、私の場合、文字通りにそうなのだ。眼が足の裏にあるから、視力とは脚力だっ。

芥 そうすれば君にとって腕力は統轄力だよ。

夏際 喋っていない人、喋る力なりを持ってきて欲しいのだっ。勝つばかりが能じゃないのだ。広がりがないよ広がりが。

(電車プ──ン)

夏際 言葉を発するというのは中心に向けて収斂していく事ではないからね。中心なんて無いのだ。

芥 言葉を発するというのは眼球の方向だっ。

夏際 決して収斂しないものが収斂しかかっているという事は何処かがきっと凹んでいるのだ。

芥 地球の衰退、「あの凶暴性は何処に行っちまったんだ! 」ってやつさ。ああそれは肉体が酒と追跡の桶の中に叩き込まれるのだっそれにもう一つだって「嘗って俺の少年時代は饗宴だった」と言っていた奴がいる訳だからさ一律の全能に向けて「願わくばその凶暴性を」というのも産業革命まではあったじゃないか僕等の手にした君達はそれすら忘れようとしてるのかい? 希望ほど人間の呼吸を苦しくしているものは無いっ

夏際 例えば部屋の中に居る人間が一言街路といったとたんにその街路が街路じゃなくなって今度は田畑が広がってくるから絶えず言葉っていうのは広がりをもってこないとそれは言葉じゃないんだな。

原田 それは言葉の広がりじゃないな、絶対違うな言葉ではないものの言葉へ向けての拡がりと言ったらいい。

夏際 それはどうでもいいけどね拡がりには飽きたよそんなものは任している。

芥 それが無名と呼ばれる機構だよ。言葉がグイーとくるのが肉の消滅律として惑星が切開し出す。

芝山 押し開く力だ主導権を発動させるように。

芥 いやいやいや。貴方がそこで街路というと急に田畑になっちゃっているっという話だよ。貴方が飢えというとちっとも飢えじゃなくなっちゃうんだよ、もはや懐しい科学じゃない貴方の?

夏際 貴方って僕?

芥 いや芝山氏。それが私を荷立たせんじゃないのかね?

芝山 私が飢えといって飢えじゃない?

芥 そうです。

芝山 どうしてですか。

芥 貴方が街路といって街路じゃないという苛立ちです!

芝山 いえ、私は街路とは一言もいってません。

芥 貴方が灰皿といっても灰皿じゃないんだ。あい変わらず四畳半なんだよ。一体どうして?

芝山 どうして?

芥 うん?

芝山 どうして!

芥 どうして?

芝山 どうして!!

芥 何だそれは!! どうして……? とは一体君正気かい?

夏際 人が二人以上集ったら真ン中を広場にしてはいかんのだよ。丸くしては……ちゃんと四角とか、そういうものにしなくては……真ン中にすると、何かこう地球のあれがブゥワッーとくるから。

芥 だから僕はそこにちゃんと高松氏の作品を並べておいただろうが。ちゃんと。その側に立ってるのは君だろ?

高松 解ってた。

夏際 それはいいね。僕、高松氏の作品の上に乗っかろう。

芥 でも君が一七二cmであることに変りない。

夏際 一七一、二cmしかないよ。

芥 すると、あれを並へたのは天体じゃないんだな。昆虫でもないんだな。やっぱり人間の意識だな。

夏際 えっ本当ですか? 嘘でしょ、

芥 やっぱり無意識にいくつかボーンボーンと投げたから結果は意識だな。無意識にやっちゃあいけねいことは事実なんだよ。無意識にやっても意識であることに変わりないんだよ。あい変らずそれが無意識に見えるだけなんだからさ、意識性大気さそれも。

夏際 じゃあ僕は無意識の上に立ったんだな。

芥 そうだだから一七一、五cm確保する訳だから一瞬さ。化石の所へ化石じゃないものがでてくるんだよね。それが意識の死滅表現の死滅だからさいつも死滅はなにものかを(ゴホンと咳)するからさ僕は好きなんだよ。

夏際 言っとくけどね、二十世紀というのは最初に追放しなきゃならない忌な女奴隷いだからさ。非常に比喩的な言い方で悪いけど。

芥 それにしたって邪魔にならない詩集一巻だ。その処刑法が権力として正当ででることを祈るよ。

夏際 まず二十世紀を追放しなくちゃはっきりとした屠殺をね。

芥 全世紀がそこで生殖されるようなテーブルをそこで確保しなくちゃ、生殖とは死滅と発生、其如に限界があるとすれば、それが世紀自体の限界です。おまえ達のエロスだいつまでもつづくだろう。

夏際 ただ諸世紀というのは悪癖だよ、草のね。

芥 全悪癖の世紀律をテーブルで生殖させしめばいいのだろ? !

夏際 見せて貫いたいものだな。そんな事が出来るならなっ。

芥 それはもう私や人類がこの部屋に入って来たからあるものだよ。

夏際 でも人類というもの程すごい内輪はない訳だよ。

芥 そうだったね、だから人間の眼球は赤裸な主柱だったのだよ。

夏際 内輪、内輪の話はイヤなもんだよ。だれか人類が人類じゃないものをもってくれば内輪じゃなくなるんだよ。そうすると地球とタイになれるんだよ。ちゃんと四五億年分の孤独なり、淫乱なりなんでも構わないけど持って来なくちゃ。

芥 だから革命は失敗の人類形態だと言っているでしょう。

夏際 解んない。

芥 内輪って言うのは共産主義だからさ、言葉が外界へ逃亡する!

夏際 内輪っていうのは人類だよ。かなり。

芥 だから人類っていうのは生殖のテーブルだって言うんだよ。だから色んな事を持ち込んだんだよ。眼差しや事物と権力なんかを持ち込んだりしたんだ。でもどれ一つとしてやれない訳だよ。共産になってしまう訳だから資本主義だって共産主義の一形態だからさ。

夏際 でも内輸に一条の風が吹き込んだだけで倖せになるという話はもういいじゃないか。だから風じゃなくて、やっぱり持って来てほしいんだな。俺の沓はワシントンで買ったとかさァ。何んでも構わないんだよ。やっぱり「カルチェラタンつてのは円じゃない」と思うんだよね。円だったら中心からやられるのだ。サナトリウムの音楽会だ。

芥 権力機構の誕生だよ、当然。

夏際 別にカルチェラタン作るのが目的じゃないけどね。

芥 法の発生だよ。発生地点だよ。円が一を撲殺するという。

夏際 私などが安全で、でかいことを言えるなんてどういうことなんだ、そんな筈はないのだ。

芥 美徳です。私の友人に美徳がそなわってない筈は無い。

夏際 そんな筈ないんだよ!

芥 その美徳をよろめかすのが私の手仕事だから、私が大声を出せば出す程人間には聞えにくくなるのが市民達は好きなんだよ。そしてその事を君達も知っているありとある美徳がよろめいていくからねそこでさえ。

夏際 君は無能な悲劇が好きなんだね。

芥 そう、上部には権力の悲劇しかないもの。下部にはいつも権力の無い喜劇があるけど。生産と生殖の媒体でくっついている上部程の下部は無いというのがフィクションなのだからね。そこではこの土地の肉としての天皇もその一つの例だし、地中海のデイオニソスもそうだし、惑意味では全てがそうだよロックも。宗教の愛欲も国家の倫理さえ全ての神話はこっから成り立ってるんだ。上部程の下部はないという、肉の平原からそうしないと神々は歩行しないし……ところで、時間的第二芥になっちゃうが、原田君にとって国家とは何ですか? たとえば他人の沓をちょっと貸せって言って穿くのはまあいいんだけども、《ワシントン靴店》でワシントン沓だというのを買う私なんか意識にされちゃう訳だよね。そうすると、ジャコメッテイが歩いてって沓を買うんだよね、だけどこれは国家じゃないんだ。「居ること」を持って来ると一応国家は消滅するんだね。その代わり全的に物の様態が政治として現われて来るすると、「そいつらにとっての人間国家とは何か」というのが一瞬過(ルビ:よ)ぎるね、地滑りだよ。そうすると最初の一歩というのは俺がやってるんじゃない、虚構だよ、二歩目から虚構じゃないよ、だからフィクションだっ。法の発生空間とに在る国家的裸体な貴方にとっては?

原田 ハァ、そうですね……コンクリートミキサーに殺されちまうがいいっ……落盤事故で苦しんだのは貴方ですよ。

芥 こりゃ、下手すると止まらなくなっちゃうって言ってたんだ、さっきから。そこの地点で灰皿を持って来るのは構わんよ。夕映えを街路で鎮圧してる地点でやるんだからな。夕映えの暴走で殺られる様なレトリックはレトリックではないし法の発生を統括できないだろう。

阿倍 さっきから見てて何処がどうだつていうんじゃないけど、全的っていうのは一の属性だっていうのがあったでしょう。零もそうだったんだけどさ、零っていうのは一の属性じゃないっていうことが……

芥 零っていうのは一にとっての飢えだろう、一という居ることの形態を一と彼が名付けたんだけどね。単なる数の名前だからさ、一が一にとって不信する平面だからさ、飢えだから属性と言っても構わんがね。一を鎮まらしたら、全的に零というのが消えるからね。零が消えた分だけそこがカルチェラタンになるからさ。

堤雅久 一七二cmじゃないから……

芥 ンッ? 一七二cmというのは一つの一の省定法だから、国家の律法倫理と同じ大きさになる筈です。

提 「零というのが一の属性だ」と言った時に一七二cmという大きさというか……

芥 もはや零では区画整理できないのです。

堤 うん! できない。

芥 零で区画整理しようとした一例が無政府主義だよ、ねっ。ところが地球がバァーッと吹き出て来て駄目になっちゃう。夕映えが暴走するんだよ。零と零が殺し合いやってるんだから、一が出て来なきゃ駄目なんだ。今かろうじて一を保ってるのが企業という名前だろうねえ。企業という一があるんだから、何時もさ。もし誰も仕事しなかったらそうなるんだ。だから零を恍惚と呼んだのがホーマーだよ。何処へでも滑っていっちゃうから乞食に話すのも王に話すのも同じ事だからね。居るという事が移動して行くんだからさ、構わん訳だ。プレザンスが使用人になっている訳だからさ。

夏際 居るということは沈黙の一つのパターンに過ぎないようだなあ。沈黙なんて病気だよ。酸素が担架なんだ。プルーストども!

芥 地球が衰退していれば病気は正常さの現れだよ。

夏際 余まり衰退していないのだよ。

芥 私が零を蒔いているから地球が復権して来るんならば駄目だよ。だから《ワシソトン》の店先で沓を買うのと、鉄砲屋の前でカービン銃買うのと同じなんだっ。同じじゃないからつまらないのだよ、ねえ。高松氏の作品買いに行くのも、スーパーマーケットへ蜜柑買いに行くのも同じだから、俺にとっては。だけど地球が作ったやつの方がまだ役に立っと思うんだ。

夏際 貴方を作ったのは地球だろう、役に立つよ。

芥 ハアハハハハ……

高松 時にはスーパーマーケットで私の作品売ってるからね、全く同じで。

芥 僕の作品が買いに行くでしょう。そういうこと言うと由紀夫に笑われるんだ。でもいいのだよ、あなたは。誰が作ったという証拠は消えてるんだから。誰が名乗り出てきてもいいのだっ。これが革命の特権ですからね。

シモン アメチョーダイ

芥 あとは騙し切らないといかんよ。でも、ああいう楽器っていうのがあるでしょ、どっちでもないのだよ。例えばあのピアノより立派なもの自分で作ってさ、自分でやって、全幻想を駈逐して行ってしまうことを持って来て構わないんだよね。彫刻家でいい訳だけだよね。後始末をしないんだ、喰ったものをさ。ポリエチレンシステムなんだよ。それでやってんだよ俺は、こういう作品を修飾して作ってくる。

阿倍 高松さんね、作品とさ、作品じゃないものをどういう風に分けるんですか?

高松 そうですね、それは……

阿倍 だからさ、そういうことでさ一番聞きたいのはね、作品じゃないものが作品になる瞬間という事がね。

高松 作品になる瞬間、まあ例えばそれが自分が手を下したとか何とかじゃ決められないですよね。それから「自分が作った」と思ってる事の大部分は大体地球が作ったりしてる訳ですね。だから例えばキャンパスに絵具が付くのでも、実際こっちが付けようと思わなくても表面張力みたいなものを……

夏際 あなたは地球じゃないんですか?

高松 地球と言えば地球です。

夏際 じゃあ表面張力を喰ベてしまえばいい。

高松 でも喰ベきれないような所もありますね。というよりも喰ベた積りでも喰べられたというところですね。つまり自分だと思ってる自分の肉体そのものがすでに表面張力で結ばれているところが随分あると思うのです。

夏際 しかし人間飢えたら自分の飢えだって喰うでしょう。

高松 僕やったことないけど、爪噛んだから。

芥 床なら床を作品だと呼べるようなものを床の上に載せることは出来ないのか! 例えば酸素の上とか空気の中とかへ。

高松 あ、何ですか?

芥 だから例えばね、作品だろうって言わないでそれを俺の作品だって皆をして言わせしめちゃうようなものをそこへ載せることは出来ないのか! ただそれがあることによってだけっ。

高松 載せる載せないじゃないです。

芥 例えば私なら私が歩くあるものの、コンクリならコンクリの上を、貴方の作品がなければ歩けないという事にしてしまわなくちゃ私は一向に舞踏するきっかけを得られない訳さ。他人の作品の上だったら俺は舞踏するからね。例えば貴方の“何ものか”か其処ヘボンと置かたたことによってその付近一体があなたの作品にされてしまうようなもの、そうなら其処へ行くには私は舞踏して行くよ。足切ったまま歩いて行くから私は惜わない。そうすれば街路から出会うから、其処へ何者かの言語の一応カルチェラタンによって、突如私の歩行が完成されることで出てくる訳だし、そういうことが起こってくれればあらゆる所へ誕生してくでしょうね。そうすると区画整理が進軍させられるんです。だから作品を置いたり走ったりじゃないんだ。この空気なら空気を、例えば有能な身体なんかはそいつを公衆の裡に立ってやるわけだよ。知ってなくては、この事をもっと。諸君は。

高松 やっぱり作品であるもの、作品でないものという区分は難しいですね。

芥 それは完成の区分けじゃないのでね、その運行なのだ。むしろ作品は力学に近いでしょう。私はもう外出の時間のようです、では。コーヒィをいただいてから。諸君には続けていただきたい

阿倍 だから私は区分けと言うよりも、一応作品だと、作品じゃないものが作品になるきっかけって言ったらいいか、瞬間って言ったらいいか、それがどんなものなのかって。

高松 それも又いろんな答えが出てきそうな感じだなあ。一つやっぱり作品だと言ったときにね、貴方が認めるというのとね、もう一つ自分でもって事を出さないときにはありえんでしょう。というのも作品というのは他の事物と区分けした言い方でしょ。区分けというのはやっぱり意識が介在しない所で区分けされてっちゃうものでしょ。全部が事物としてか名付けられない統轄性を持っている次元ならばね。

阿倍 じゃあ地球ができた時作品というのはありましたか? 今は作品な訳かい、そうなのだろうね。

芥 (新宿プレイマップ8月号で秋山邦晴氏と対談出席の為、急スピードでシモン嬢を連れドアから退場していく)

芝山 夏際さん窪地は“俺”の居る結果だとおっしゃいましたね、先程。窪地はですね、これは又思考の範疇になってしまうけど √−1であるとします、√−1が2乗されると一になりますね、実数になりますね。そういった場合にも真にそれは窪地であり続けるか、或いは一になるかということをお聞かせ願えますか。

夏際 だからそれを二乗するものは何ですか! 一が二乗するのですか?

芝山 いや俺と言うべきでしょう、それは。

夏際 “俺”って貴方ですか?

芝山 いやだからね、これはだから貴方に聞くってこと自体不名誉な話しで、私の思考の中で決まっちゃってる部分に過ぎないのかもしれないけれども、例えばその窪地は俺の居る結果だと言った場合に、その俺について話してるのだけど、その窪地がて√−1であると、それが二乗されて実数になる、−1になる、そういう時に俺っていうものが居るか居ないか。

夏際 だからそれは消滅だって、古い話だけど消滅と生誕は同時だから、で、そこへ諸科学が入って来る透(ルビ:すきま)は無い訳だ。

(出席者達、長い沈黙)

夏際 飢えに拮抗するものがあるとすればそれは飢えだけだからさ、それは行為の源初的形態でしょ。だから俺の言葉が登場する以前は全部窪地だって言ってるんでしょ、実際そうだもん!

芝山 ではそれが言葉なのですか、活字じゃなくて。

夏際 そういうことは面白くないんだな。

芝山 厭きちゃう訳? そこで活字とか言葉と言った方が僕としてはもっとハッキリするんだけど。

夏際 だってさ、それは二十世紀というシェルターを取っ払ったら言葉だろが活字だろうが構わないんだよ、それで。「其処に居る」ってことは戦いの過程を見せるパターンじゃない訳ですよ。戦いの過程なんて見たくもないしさ、そんなもの関係ない訳でしょ「日々は爽やかに過ぎてゆく先々後悔することもあるまい」って奴よ。

芝山 勝つばかりが能じゃないですやらね。

夏際 そういうことを楽しいって言い方で言ったんだけどね。その楽しさになんらかの形を、形ってバカの一つ覚えみたいだけど、その何ていうかな、権力を与えていかないとさ、たかだか一条の風が吹き込んで来ただけでってことになる訳さ。実際そうじゃないものね。風は相変わらずパターンだもの。鉱物だからね、風は。役者がそこに居るとして、役者はその肉と空気という一つこの鉱物が触れ合って何がしかの光を発していることだよね。なんらかのイベントが起きてるってことだよ。絶ずイベントが起こってるからさ、この接触面で。それが恐らく行為の一番源初的な形態じゃないかな。

芝山 そうでしょう、だから皮膚は掟である。骨格は皮膚から生ずる。しかも意識が死滅した時肉は飛散してるでしょ、たぶん──。たぶん肉も体の外に出てるでしょう、意識が死滅した時には。

夏際 いやそうは思わないんだ。意識は真先に追放すべきものだよ。二十世紀とともに。私には貴方の身体性の保証はしかねるね。

夏際 だってさ、もしこの真中に人が立って歌い始めたらさ、もう活字だなんだってられないでしょう、一応鉱物から、ほらヒトの皮膚を剥ぎ取るわけだから進軍だよね。人は集まる、脱出する。ひょっとして人類は演劇しかやらなかったのかもしれない訳だ。「居るって事は労働してるって事」じゃないもの。集まるという配列の形がある訳だよ、集まるということによって成り立つ言葉が、まあある訳だよ、例えば群集とか集団とか集合とか。まあそして人間があつまるという特殊な一例がある訳だ。で僕はさっきから、「人間が集まれば楽しいのだ」と言ってたのはね、人間の集まる一つの形を物質の集合形態とかね、数字の配列とかそういうものに対する絶対的な権力たらしめなくてはいけない。敢えて活字とか、言葉とか、言う必要はない。でね、芥は言う、「生まれたということ以上の恋愛はあるか」ってね、始めての人類として立つってことはね、まあある爽快な有効性みたいなものをね、言ってるのだ。なのに君達はやってないんだな、やってない。だからどうしても創造主って奴が出てくる訳だ、ここにしてもだっ。お前達の顔に意外だがそっくりだって奴! はははっその不老不死こそお前たちに死を請負わせている当のものなのだその。ブロックじゃ、いつだって恐怖が恐怖を恐怖するのさ、間違っても絶対なんぞを志向しちゃいけない。理性は病名に過ぎないとか精神なんて牢獄だとか、そんな寝言を唸ってみたってはじまりはしない。定立も反定立も同じ穴の狢(ルビ:むじな)さ。そこからはせいぜいがファシズム位しかでてきゃしない。全て人間的なファクトってのは多かれ少かれ呪縛的なもの。先ず身を曝(ルビ:さら)すこと例えば今の諸君がそうなのだしこれは一つのチャンスなのだ! 決して坐り込んだりしちゃいけない、それが何処であれね。街路なんぞは既に肘掛椅子、へへっ充分に修辞学なのだ。知性は騙され易いからねふふっ身を曝すことが飢えが略奪に鎖(ルビ:つが)り合った力の形態で、まあ歩行ってのは爽やかな「悪の起爆装置」さだ! いつもはじめてである「地の倫理」なのだ! 攻撃の標的は意識でもなければ事物でもない、諸君の銃口は常に人類という巨大な抽象に向けられねばならない! 人類史という全観念の全的屠殺でなきゃいけない! いいか人類は未だ、口をきき合うってことをやってないんじゃないかい? え? たったこれだけの「演劇」でさえもうこの始末だったから未だに「肉」なんぞに入り込まれちゃうのだ。例えばイエスの最後の言葉は、あの例のエリ、エリ、レマ、サバクタニで一体何処までが人の領域へ君けて策動させられているのか、若干怪しいわけだ。確かにあの男は徹頭徹尾人を相手にして生き、その限りではかなりしたたか(傍点:したたか)なマテリアストだ。あの男には己の歩行の形態がそのまま言語(ルビ:ロゴス)だ。当然「一冊の書物」、地上の唯一の書が磔刑に処されるその現場を歩いて来るわけだ。云はば焚書の焔を携えて肉の言語を現前させながら猛烈に通過して行くわけだよ。ここまではまあいいのだ。イスラエルという鉱物平面とイスラエル民族という植物平面とから素手で人の皮膚を剝ぎ取って来るわけだから、人類という孤独な「演劇論(傍点:劇団論)」に対してはっきり人間という賑やかな「劇団論(傍点:劇団論)」を突きつけるのだから、ま、革命と云ってもいい。何しろ愛の別名だからね。だけどいよいよという段になって事情は若干変った、それまで奴の吐く言葉は徹底して借り物じゃない、言葉が常に人との出会いの場そのものの要請から噴き出す生(ルビ:なま)の肉だった。それがここへきて不意に人を離れてる、例のマタイ伝の言葉は予言者のせりふなんだな。「神よ」、とやる。「神よ、何故俺を見棄てたのだ」、とやる、ここで彼は人、つまり他(傍点:他)の領域から一挙に己の領域へ入ってっちまう、イマージュを持ってきちゃうのだ。かつて彼が人々に向けて発した言葉は、この瞬間に全部嘘だったことになっちゃうのだ。脚元には群衆が居る。最早誰一人彼を識別できない。彼の目は天に向けられている。ここには既にどんな出会いもない。一人の男の孤の全能があるばかりだ。それでも群衆の信仰が誕生したとでも云いたいかね? つまり孤独とイマージュ以外はね、もう何もない! イエスの強靭な歩行形態はこうして突然非人的な飛翔の形態になってしまう。眼前の距たりを次々に略奪してゆく水平移動が、肉の危機を境に突如永遠なる上方への移動に変貌するのだ。へっ! ふんっ! 人はどうしたのだ、この変な遊星の上でさ、人類というそれもかなり胡散臭い夢の工場を造ること以外何もやっちゃいなかったことになる! この厖大な夢の楼閣を華麗な破裂に導く口火を一体誰が切るか、ということに繋がっていかなくてはならない諸君がことさら生きてく以上は──はははっ声も割れてははっ

芥黎子 それが報告だとすれば私達はもう間近なのです、そして体外のものは最早生身で創造や飢えの政治性悪意の中を動くことは無くなりますわ

原田 俺の教えは全部嘘だったといって笑うのなら、そんなもん、文学にはイロハのイじゃないか! とすれば、この地上で誰も、遂に誰にも出会わなかったってことになりかねない! テヘッ! 人類は遂によォ


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